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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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38.謝罪

 恰好の獲物を見つけた。

 さっそく手に入れるため、ベルルは戦闘態勢を取る。


 対して、ハリスはオーブを構えた。


「いくぜ! おっさん!」


 まずはベルル。

 一気に間を詰め、先制する。


 憑依するため、鋭い手刀を繰り出した。


「ふむ」


 ハリスはヒラリとかわし、腕を振って反撃。

 光撃(ハード)ではマリコが危険なため、オーブは使えない。


「チッ!」


 攻撃がヒットするも、ベルルは構わず手刀で狙う。


「無駄です」


 その手刀を軽々とかわし、今度は華麗な動きで回し蹴りを入れた。


「クソがッ! 行け! 分離(リーブ)!」


 ベルルが尻もちをつく。

 そのままの体勢でオーブを放つも、ハリスの光撃(ハード)に掻き消された。


 再び接近。

 獲物めがけて手刀を繰り出すも、全く当たらず。

 またも手痛い反撃を受けてしまう。


「どうなってやがる⁉」


 ベルルは違和感を覚えた。

 Cランクハンターと言えど憑依すれば、Bランクの相手くらい容易に出来るはず。

 だが、今の自分は全く歯が立っていない。

 また、なぜか光撃(ハード)を使うことができない。

 やろうと思っても、拳からオーブが出せなかった。


「うげっ⁉」


 アッパーが顎を捉え、ベルルがグラつく。


 この身体、まさか。


 ベルルは理解した。

 これまで多くのハンターに憑依してきた。

 みんな、ある程度は格闘術を心得ていた。


「べぼっ⁉」


 だが、マリコは違う。

 彼女はただオーブを撃つだけの、遠距離タイプのハンターだ。

 光撃(ハード)どころか、まともに喧嘩すらできない可憐な少女なのだ。


 近接メインのベルルとは絶望的に相性が合わない。

 素早く動こうにも、大きな胸が邪魔で仕方がなった。


「やべえよ、やべえよ……!」


 果敢に挑み続けるも、軽くあしらわれ、手痛い反撃を受けてしまう。


「ぬっ」


 ハリスの方は、ボロボロになっていくマリコを気にかけた。

 手加減はしている。

 早く倒れてくれと願うばかりだ。


 しばらく戦っていたが、


「無理! 一度撤退する! オレって戦略的ィ!」


 ベルルは逃げた。

 蹴り飛ばされた勢いを利用し、くるりと姿勢を変え逃走した。


「覚えてやがれッ! ぺっ、ぺっ!」


 諦めの早いベルルは諦めた。

 血の入った唾と捨て台詞を吐き、屋根にジャンプして去っていく。


「じゃあなおっさん! ヒャハハハハ!」


 その背中をハリスは睨む。







 ──尻尾を巻いたベルルは、屋根を飛び越えて移動していた。

 ハリスが追ってくる様子はない。

 振り切ったと思い、高笑いする。


「ふぅ、ヤバかったぜ!」


 アレに憑依するにはまだ力が足りない。

 身体はすでにボロボロだ。

 至るところは折れているし、体内も出血している。

 これ以上戦っても無駄だろう。

 

 というワケで別の獲物を探すことにした。


「さあて、どこかに旨そうなハンターはっと」


 弱すぎず、強すぎず、そんなハンターだ。

 屋根からキョロキョロと人々を見渡す。

 

 当然、そんな都合の良いハンターは見つからない。


「チッ、やっぱそう簡単には……って、うおっ!?」


 突然、背後からオーブが。


 ベルルは身体を逸らし、ギリギリでかわすも、


「ふんげっ!?」


 ハリスが飛び出し、顔面を殴りつけた。


 その柔らかい身体が硬い屋根を転げ回る。


「チッ! やっぱ逃げられねぇよなあ!」


 この身体では逃げられないと思っていた。

 だからベルルは凹まない。


 逃げられないのならやるしかない。

 従って、奥の手を出すことにした。


「ホラよ! これでも食ってろ!」


 どこからか生ゴミを取り出し、思いっきり投げつけた。


「うっ⁉」


 そのあまりの激臭に、ハリスは一瞬たじろいでしまう。


「ヒャッハー!」 


 チャンスである。

 動きの止まった獲物に、手刀で襲い掛かる。


「姑息な!」


 しかし、ハリスが手刀を素手で掴み、ベルルを屋根に叩きつけた。

 2人はすでにゴミまみれだ。


「なんだよ、おっさん。怒ったのか? ヒャハハハッ!」


 幸いにも相手は、この身体を気遣って本気を出せないでいる。

 まだ勝機はある。

 ベルルが突っ込んでくる。


「くっ!」


 ここからはマリコの命に関わってくる。

 いくらオーブを使用していないとは言え、受け続けるのは危険だ。


 その間も相手は向かってくる。

 とっくに動ける状態ではない身体を酷使して。

 使えるところまで使い倒すつもりだろう。

 たとえ、その後どうなろうとも。 

 

 ここで止めなければ、これ以上被害を出すワケには行かない。


 だが、これ以上は。


 ハリスは一瞬、目を閉じた。

 

──申し訳ありません、お嬢様


 そして、心中で謝罪した。


「ヒャッハー!」


 ベルルが向かってくる。


 ハリスは紙一重でかわす。


 そして、即座にその手刀を掴み取り、


 自ら胸に突き刺した。


「かはっ!?」


 手首が中にめり込む。

 うめき声と共に血を吐いた。


「んなっ!? コイツ、自分から……⁉」


 ベルルは驚愕する。


 諦めたのか。

 いや違う。

 この人間は少女の身体を気づかい、自分が犠牲になるつもりだ。

 その考えは分かる。

 しかし、それを実際にやってきたのはハリスが初めてだった。


 しばらく固まっていたが、


「嫌いじゃないぜ。それがお前の覚悟なら、受け取るぜ!」

 

 その心意気、無駄にはしない。

 ここまでされて遠慮するのは失礼だ。

 この精神力、自分の依り代に相応しい。


 マリコの腕をつたい、獲物の中に入っていく。


「お嬢、さま……」 


 意識が遠のいていく。


 やがて、完全に入り込み、マリコが倒れた。

 

 ハリスは動かなかったが、


「遂に手に入れたぜ! 純然たるハンターの肉体をよおおおお!!!」



 飛び去った。

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