表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
39/142

37.強すぎず、弱すぎず

 念願のハンターの肉体を手に入れたベルル。

 彼は次なる獲物を求め、街の中を彷徨っていた。

 表舞台を意気揚々と歩いてる。


 ……はずだった。

 その足取りは不安定だった。


「ハア……ハア……」


 歩くだけで息が上がる。


「なんだよ、この身体……」


 まだ慣れてないのか。

 やけに動かしにくい。

 

「クソッ、なんだよ、一体何なんだよッ」


 やがて、その原因が判明した。


「なんだってんだッ! このでっかい肉はよおおお!!!」


 突然、少女が自分の胸を触りながら、こんなことを口走る。

 周囲の人たちが一斉に見る。


「ハア……ハア……」


 今まで女に憑依したことは何度かある。

 だが、ここまで大きいヤツは初めてだ。

 慣れない胸を支えて歩くのが、ここまで大変だとは思わなかった。

 おまけに足元が見えないため不安になる。


「クソッ、なんてこったい」


 マリコに憑依したことを激しく後悔した。


「仕方ねえ」


 疲れた。

 ベルルは一度、座れそうな場所で休憩することに。


 良さげな場所を見つけて一安心すると、通り過ぎる人々を眺めた。


「チッ、早く別の身体を見つけねえと」


 この身体はダメだ。

 別の獲物を探さなくては。

 出来ればハンターの肉体がいいのだが、中々いいヤツが見当たらない。


 そんな贅沢なことを考えていると、


「──ふう」


 隣に誰かがやってきた。


「ん?」


 やってきたのは熊のような大きな男。

 ゴーだ。


「マルトンの野郎、どこに行きやがった」


 ブツブツと愚痴をこぼしている。


「アッシュの試験はまだ終わらねえのか。あー、暇だ」


 この男から只ならぬ雰囲気を感じる。

 ハンターなのだろうか、その白い目を凝らす。


 どれ、少しのぞいてみるか。


 ベルルは体内にあるオーブを覗くことができる

 彼にしか備わっていない特殊能力だ。

 それでハンターか、そうでないかを判別していた。

 オーブが視えたらハンターだ、と言った曖昧な基準ではあるが。

 

 さっそくゴーの中身を確認すると、


 なんだこのオーブは、バケモノではないか。


 体内を覗いたベルルは驚愕する。

 これまで色々なオーブを見てきたが、どれも丸い形をしていた。

 しかし、この男はまるでトゲ。

 激しく波を打つ荒々しいオーブだった。


 こんなオーブを見たのは初めてだった。

 ベルルは目の前の男が人間なのか疑う。

 

 ヤバい、殺される。


 底知れぬ力に、怯えずにはいられない。


 ベルルが憑依できるのは、せいぜいBランクのハンターまで。

 Aランクに憑依しようとすると、そのオーブで自身が消滅してしまう。

 

 それが唯一、このベルルを消滅させる方法である。

 逆を返せば、Aランク相当の者は、ベルルに憑依される心配はないということだ。

 

「あん? なんだ嬢ちゃん、こっちをじっと見て」


 震え上がっていると、ゴーが話しかけてきた。


「俺の顔になんかついてんのか?」

「あっ、いや……」

「にしても嬢ちゃん、見ねえ顔だな。どっから来たんだ?」


 顔をズイッと近づけてくる。


「疲れているようだが、大丈夫か?」

「問題ね……ねえよでありますわ」


 憑依しても力が使えるだけで、その人物の記憶までは分からない。

 ゴーの質問の嵐に答えることができない。


「お前、もしかして……」


 まさか、バレたのか。

 ベルルは生きた心地がしなかった。

 今すぐにでも逃げ出したいところだが、恐怖で身体が動かない。


「うんこか?」

「……は?」

「便所ならあっちだ」


 と言って、親切にトイレを指さした。


 コイツ、女に対してなんてことをいいやがる。


 デリカシーの無さにベルルはイラッとした。


「じゃあ行くからよ。あんまり無理すんじゃねえぞ」


 ゴーが席を立ち、のそのそと歩き出した。


 その大きな背中を見て、ベルルは一息つく。


「ふう、助かったぜ」


 憑依できないハンターほど恐ろしいモノはない。

 正体がバレなくてホッとした。


 話をするうちに、身体にも慣れてきたようだ。

 再び獲物を探すことにした。


 ベンチに座り、街を歩く人々を物色する。


「全然いねえ」


 良いヤツどころか、ハンターがどこにもいない。

 前はそこら辺にウジャウジャしていたのだが。


「少なすぎだろ。一体どうなってやがんだ」


 もう時代は変わってしまったのか。

 たしかに田舎臭い気もしなくはない。


「チッ、仕方ねえ」


 諦めて移動しようとすると、


「──よっこらせっと」


 また隣に誰かきた。


「ん?」


 やってきたのは猫背で小汚い小柄な男。

 マルトンだ。


「旦那は一体どこに行ったんでさあ。あっしから離れるなとあれほど……」


 同じくブツブツ呟いている


 コイツもハンターか?


 見るからに弱そうだがさっきのこともある。

 一応、透視してマルトンのオーブをのぞく。


 これは、オーブか?


 それらしきモノはある。

 薄っすらとして見えずらい。

 おまけに少し濁っている。


 これまで様々なオーブを見て来た。

 だが、これほど存在感のないモノはなく、先ほどの男とは正反対だった。


 こんなオーブを見たのは初めてだった。

 目の前の男が人間なのか疑う。


 そのままじーっと見ていると、


「おや? なんスか? あっしのことをじっと見て」


 気づかれた。

 話しかけてきた。


「かわい子ちゃんに見つめられるのは悪くないっスが、そんなに見られるとちょっと恐いですぜ」

「すまねえ……あっ、ヤベッ、すみませんですわ」

「へい?」

「ヒャハ……あっ、オホホホホホ」

「おかしなお嬢さんっスね」


 ここには変なヤツしかいない。

 そう思い、ベルルは早々に立ち去ろうとしたが、


「おや? もしかしてお嬢さん、ハンターですかい?」

「そうだぜ」

「でしたらオーブスーツに興味ありやせん?」

「ああん?」


 スーツのことなんて知らないし、興味だってさらさらない。

 そう伝えた。


「知らねえんですかい? さてはお嬢さん、新人ハンターっスね。実はあっし、ちょうどスーツ持ってるんでさ。買ってくれやせんか?」


 初めは緑のスーツをゴーに渡した。

 だが、違うと突っぱねられてしまい、わざわざ黄色に買い直した。

 そのため一つ余っていたのだ。

 ゴーに渡す物だったので、マリコの身体に合わないのだが、無理やり売りつけようとした。


「どうしやす? 今なら安くしときやすぜ!」

「いらねえ」

「特別に一割引きっスよ! ささっ、お買い得ですぜ!」

「いらねえって。しつこいぞ」

「強情なお嬢さんでさあ、仕方ないっスね! 二割はどうですかい?」


 こんな見るからに怪しい男から買う物なんて何もない。

 ベルルはお断りだ。

 

「分かりやした! 三割! なんと今回は特別に三割引きで販売いたしやす! この場にいるお嬢さんだけに! チャンスは今しかありやせんぜ!」


 しかし、マルトンもしつこい。

 中々引き下がろうとしない。


 しばらく譲らない交渉が続いたが、


「いらねえっつってんだろ! 喰っちまうぞ!」


 声を張りあげた。


「えっ? ひぃっ⁉ 失礼しやした! あっしはこれで」


 マルトンは急いでスーツをなおし、


「ひえええええええ!」


 そそくさと逃げていった。


「チッ、クソが」


 ベルルはたまらず舌打ちする。

 ここにいてもロクなことがないし、ロクなヤツがいない。

 立ち上がって歩きだした。







 ──しばらく歩いていると、なぜか路地裏に入っていた。

 おかしな話ではある。

 だが、自然とそこに吸い込まれてしまった。


「ああん? なんでオレ様、こんなところに」


 さっきまで街中を歩いていたはずだ。


「チッ、しっかりしねえとな」


 顔をパンッと叩く。

 来た道とは反対側に引き返そうとしたが、


「誰だ! 姿を出しやがれ!」

 

 視線を感じる。

 つけられるのはあまり良い気分ではない。

 すぐに確かめた。


 すると、建物の影から人がゆっくり出てくる。


 背の高い立派な男だった。

 お洒落な髭を生やし、執事のような格好をした男。

 ハリスだ。


「ふむ、見つかっておりましたか」

「オレ様になんか用か?」

「あなたは、お嬢様のご友人であるマリコ様では」

「ああん? それがなんだってんだ」

「おかしいですね。マリコ様はそのような言葉づかいではなかったのですが」


 もはや隠す気はないようだ。

 その態度を見て、ハリスは確信した。


「見つけました。あなたがベルルですね」

「だったらどうするよ? ヒャハハハッ」

「大人しく同行して貰います」


 ベルルにうっすらと笑みがこぼれた。


「ハッ、悪いが変な人にはついて行くなって、プラちゃんに言われてるんでな」


 中々良いオーブの持ち主だ。

 強すぎず、弱すぎない。

 目の前の男は憑依するには最適だった。

 ようやく楽しくなってきたと、ベルルのテンションが上がる。


「同行しないのなら、力づくで連れて行きます」

「やってみろよ。できねえと思うが」

「お嬢様の大切なご友人、手は上げたくないのですが」

「言えなくしてやるよ。ヒャハハハハハッ!」



 オーブを構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ