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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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36.親友

 試験が始まった。

 マリコは桃色のオーブを出し、試験官に向ける。


「えい! 分離(リーブ)!」


 マリコが先制した。


「ふんっ!」


 カールはかわし、すぐさま接近。

 オーブが使えないので、近距離を仕掛けようとする。


 マリコが両手を広げ、さらにオーブを放つ。


「おや? これは近づけませんね」


 弾幕が避けられそうにない。

 そう判断したカールは、一旦距離を取る。


「ふむ……」


 鎧のない今の状態では、ダメージは免れない。

 兜がないため、機敏に動くことも出来ない。

 さて、どうしたものかと頭を悩ませる。


 そんな試験官を見て、マリコは調子づく。

 本当にオーブを使わないようだ。

 つまり接近させなければ、このまま時間終了まで粘って合格できる。

 あわよくば倒すこともできるかもしれない。


「フフンッ!」

 

 勢いに乗った。

 マリコはオーブを出し、何やら棒状に伸ばし始めた。


 まん丸だったモノが、徐々に細長くなっていく。


 そして、


「──来て! 可愛い杖(マジカルステッキ)!」


 ポンッという音と共に、桃色のオーブが杖に変身。

 先端はハートの形になっている。


「ウフフッ、可愛らしいオーブね」


 受験生に関心を見せる試験官たち。


「えい!」


 マリコは杖を一振り。

 3つのオーブが現れた。

 それは術者の周りをふわふわと漂っている。


「さあ、オーブちゃんたち! あのおじさんを攻撃して!」


 また杖を振ると、号令。

 3つのオーブが一斉に試験官を襲い掛かる。


 迫りくるオーブ。

 カールは一つずつ丁寧にかわす。

 

 その軌道は独特で、ふわふわで何だか避けずらい。


「えいっ!」


 マリコは杖を振り、再び3つで一斉攻撃する。


「ふむ」


 避けづらい。

 一度様子を見るべきか。

 しばらくの間、カールは避けることに専念していたが、


「ふんっ!」


 ラチが明かない。

 思い切って、素手で叩き落とし始めた。


 が、鎧がない。

 オーブの爆発で顔を歪めた。


「うそっ、生身でオーブを……でもこのまま行けば!」


 驚くマリコだが、接近させないように杖を振る。


「ふんっ!」


 カールは構わず接近。

 マリコとの距離が徐々に縮っていく。


 ただ両手は真っ黒に焦げかかり、限界も近い。


 近づくほど攻撃の激しさが増す。


 やがて、カールもそれ以上進むことができず、守ることしか出来なくなる。

 オーブを生身で受けるのみだ。

 

 もう少し。

 

 もう少しだ。


「これでおしまい!」

 

 試験官を倒すべく、マリコが杖を大きく掲げた。


 杖からオーブを出し、さらに込めていく。


 徐々に大きくなり、


「──集合! 可愛い(マジカル)……」


 しかし、


「あっ⁉」


 突然ボンッと音を立て、煙のように杖が消滅した。


「おや?」


 2人の時間が静止する。

 

 マリコは力を使い果たしてしまった。

 接近するカールを恐れて、無理をしていたことに気づけなかった。


「はわわわっ⁉ オーブが⁉」


 オーブ切れとなり、マリコはアタフタする。


「ふんっ!」


 カールは一瞬で接近し、拳を振り上げた。


 マリコはぎゅっと目を閉じ、バランスを崩して尻もちをつく。


 最初から当てるつもりはなかった。

 カールは拳を顔の前でスッと止める。


「──はい、終了!」


 と、そこでエリーから終了の合図がなる。


「……へっ?」


 マリコは座ったまま目をパチパチさせる。


「中々いい試合だったわ」

「はい。おかげで私の手はこの有様です」


 そう言って、カールが両手を見せた。

 焼け焦げて見るからに痛ましい。

 攻撃の凄まじさを物語っていた。


「まさかカールが近づけないなんて」

「ええ。あのままではやられていました」

「そうね。オーブでの攻撃は申し分ないようね」

  

 受験生を褒める。

 

「それじゃ私は、合格……」

「でもオーブ切れになるようじゃダメね」

「へっ?」

「残念だけど、不合格!」


 エリーがさわやかに伝えた。


「そんな~っ! ふえ~ん!」


 座り込んだまま大声で泣きだした。


「うええええん!!!」


 カールはおやおやした。







 ──マリコは会場を飛び出した。

 今は街をトボトボ歩いている。

 落ちたのがよっぽどショックなようでまだ泣いていた。


「うぅ……」

 

 今年こそはBランクになりたかった。

 プラスに追いつきたかった。

 自分のペースをちゃんと守っていれば、合格できたかもしれない。

 悔しくて涙が止まらない。

 

「どうしよう、プラちゃんになんて言えばいいんだよ」


 せっかくお仕事中に送ってくれたというのに。

 事前に「無理は禁物」と言われて、その通りになってしまった。

 不甲斐なく、あまりにも情けない。


 どんどん気持ちが沈んで行き、自然と人気のない道を歩いていく。


「あれ? ここはどこかな?」


 ふと、我に返って辺りを見渡す。

 知らない路地裏だ。

 先ほどまで街の中を歩いていたはずだが。

 

「ダメだよ私! しっかりしないと!」


 顔をパンッと叩く。

 来た道とは反対側に引き返そうとした。


 しかし、


──ヒャハハハハッ!


 突然、どこから甲高い声がする。


「な、なにかな⁉」


 周りを見るが誰もいない。


──ハーッ! やっと見つけたぜ!


 何者かの声が響き渡る。

 

「ど、どこにいるのかな⁉」


 状況が分からず怯えるマリコ。

 自分だってハンターの端くれ。

 逃げたい気持ちをなんとか堪えている。


「私になにか、用ですか……?」


──ああん? 用があるのはお前じゃねえ。お前の……おっと待てよ


 上空からウシシシと笑いがこぼれた。


──へい嬢ちゃん! 最近なにかと物騒だよなあ。そこでオレ様からの提案、力は欲しくねえか!


「ちから?」


──そうだぜ! それさえあれば何でも叶う。あの力だぜ


 謎の声からの急な提案。


──お前、なんか弱っちそうだしな! ヒャハハハハッ

 

「よ、弱っちい……」


 ハンターとして実力が足りないことは、マリコも自覚している。

 だが、改めて言われるとグサッとくる。


 それを見通したかのように、声が続けた。


──そこでだ! 特別にオレ様が力を貸してやろうってワケだ!


「力……」


──どうするよ? 決めるのはお嬢ちゃんだぜ


 マリコは悩んだ。

 こんな姿も見せない、変な人の言うことを鵜呑みにしてもいいのか。

 だが、もう少し自分に力があれば試験だって合格できたはず。


 試験のことを思い出す。

 もう少しだった。

 あとちょっと力があれば。


 力が欲しい。


「私……」


 その時ふと、プラスの顔が。


 彼女が笑顔を向ける。


「力が欲しいです」


──おおっ! そうかそうか! やっぱ欲しいよな!


 声が満足そうに声をあげた。

 相当うれしいようで、笑いが止まらない。


──んじゃ、さっそく


「でもお断りします」


──は?


 マリコは断った。


──てめえ、なに言ってやがる⁉ 欲しくねえのかよ! 力だぜ⁉


 声の声が震える。


「欲しいです。でもそれは、自分で手に入れないと意味がないんです」


 そうしないと胸を張って、親友と肩を並べることができない。


「あなたなんかに頼らなくたって、自分で強くなります」


 勇気が湧いてくる。


──このガキが


「それに……」


──ああん? まだ何かあんのかよ?


 マリコからうっすら笑みがこぼれた。


「変な人にはついて行くなって、プラちゃんに言われてますから!」


 大きな胸を張り、自信たっぷりに言ってのけた。

 もう何も怖くない。


──クソがッ! このガキ、やりやがった! 期待させて一気に落としやがった! 最悪だろ!


「フフンッ」


──ちくしょう! 許せねえ! せっかく穏便に済ませてやろうとしたってのによッ!


 怒り狂った声を上げ、


──オラッ! 食らいやがれ!


 突然、マリコの頭上から、大量の生ゴミが。


 とっさに頭を押さえて身を守るが、


 背後からストンッと、何かが落ちる。


「なっ⁉」


 一瞬、目の端で捉えた。


 それは全身が赤黒く、目と口だけが異様に白い。

 人の形をしているが人間ではない。


 これはまるで、


「ヒャッハー!」


 次の瞬間、怪物の腕がマリコの胸を突き刺した。


「うっ⁉」


 貫かれたはずが、痛みを感じない。

 全身に激しい悪寒が走る。


 笑い声が遠のいて行くのを感じた。


 身体に吸収されるように吸い込まれていく。


「プラ、ちゃん……」


 やがて、完全に身体の中に消えた。

 

 マリコは動かない。


「ヒャハッ」


 しかし、


「遂に手に入れたぜ! ハンターの肉体をよおおおおお!!!」



 下品に笑った。

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