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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
37/142

35.迷子のマリコ

 試験当日。

 会場は第一教区教会。

 いつもは悩まれる住民で溢れる教会だが、この日は貸し切りで誰もいない。


 試験は年に一度行われる。

 去年は中央教区で実施されたため、今年はこの第一教区で開催される。

 従って、各教区から試験を受けるハンターたちが、この街に集結していた。


「──もう~! 教会どこだよ~!」


 地図とにらめっこをしながら、頭を抱えている一人の少女がいた。

 道に迷っている。


 ふわふわなオレンジの髪が風になびく。

 水晶のような瞳に地図が浮かびあがる。

 絵本の中に出てくる、魔法使いを意識したかのような、黒いローブを着た少女だ。 


「はあ、どうしよう。道がわからないよ」


 初めて訪れるこの第一教区に苦戦していた。

 

「試験まで間に合うかな……」


 この迷子の名前は、マリコ=キャパスティ。

 中央教区出身のハンターで、試験を受けるために遥々やってきた。

 方向音痴の15歳だ。


「う~ん」


 さて、どこに行ったらいいモノか。

 キョロキョロと見渡しながら、自身の勘に問いかける。


「あっ! こっちな気がするよ! フフンッ」


 と、自信満々に来た道を引き返す。

 

「──あら、マリーじゃない」


 しばらく進むと、懐かしい声が聞こえた。

 マリコはすぐに後ろを振り返る。


 そこにいたのは、


「あーっ! プラ(・・)ちゃんだ!」


 それはプラスだった。

 マリコは嬉しそうに駆け寄って手を握る。


「久しぶり」

「うん! もうすごい久しぶりだよ!」

「先月会ったばかりじゃない」

「そうかな? だってプラちゃん、全然会いに来てくれないんだもん」

「そのプラちゃんって言うのはやめなさい」

「え~、でもプラちゃんはプラちゃんだよ」


 プラスとは幼い頃からの友人だ。

 性格が間反対の2人だが、その分気が合うらしく、よく一緒に遊んでいた。


「えへへ~」


 親友のプラスに会えて、マリコはとても嬉しそうだ。


「どうしてプラちゃんがここにいるのかな?」

「なによそれ。あなた相変わらずね」

「わかった! プラちゃんも迷子なんだね!」

「違うわ。わたしはここに住んでるの。前に言ったはずよ」

「え~、初耳だよ~」


 久しぶりのプラちゃんに会えて嬉しいのか。

 試験のことを忘れてお話に夢中になってしまう。

 中央教区の人間はお話が大好きなのだ。

 世間話は特に。


「ところであなた、試験に受けに来たんでしょう。時間は大丈夫なの?」

「そうだったよ! あっ、でも私、迷子だったよ……」


 現実に戻され、マリコは落ち込む。

  

「そんなことだと思ったわ。わたしが教会まで案内してあげる」

「ホントかな⁉ わ~い! プラちゃん大好き~!」


 マリコが急に抱き着いた。


「きゃっ!? もうっ……」


 プラスはビクッとした。

 昔からこうやってスキンシップを図ってくる。

 周りの目を気にしないため困ったモノだ。

 

「あなた、前より大きくなったんじゃない?」 

「ん? 身長なら変わってないよ」

「いいえ、気にしないでいいわ。はあ……」


 マリコはキョトンとした。







 ──プラスの案内のおかげで、マリコは教会に無事たどり着いた。

 まだ時間にも余裕がある。

 ホッと胸をなで下ろした。

 

「はい、ここよ」

「ありがとう、プラちゃん」

「それじゃ、わたしは仕事に戻るわね」

「えっ⁉ お仕事中だったの⁉」


 プラスは現在、脱走したベルルの捜索中だ。

 好戦的なベルルはいずれ姿を見せると考え、教区内を見張っている。


 この件は、試験を控えるアッシュには内緒にして、ハリスだけに伝えておいた。

 マリコにも言うつもりはない。


「そっか~。プラちゃんも大変なんだね」

「わたしのことより自分の心配をしなさい。今から試験なのよ」

「うん。絶対合格してプラちゃんと同じBランクになるからね」

「そう。でも無理は禁物よ。じゃあねマリー」

「バイバイ! 試験終わったらまたお話ししようね!」


 大きく手を振って見送った。


 別れを済ませたマリコは教会へ入る。

 大好きなプラちゃんに会えたことで、緊張もすっかり解けていた。







 ──会場。

 マリコは試験名簿を眺めていた。


「全部で15人、前より多いかも……って私、一番目だよ⁉」


 自分の名前が一番上に書いてある。

 まだ心の準備ができていないようで、肩をガックリと落とす。


「トホホ……ん?」


 ふと、下の方に気になる名前がある。


「アッシュ、スターバード?」


 プラスと同じ名前だ。

 じ~っと見ていると、


「──あっ、レクスが先だ」

「──なんだ、後の方がいいだろ」


 2人の子どもが名簿を見て騒いでいた。


 この子たちも試験を受けるのか。

 年齢制限はないが、ハンターにしては幼すぎる。

 そう思いながらマリコは2人を見ている。


「これからどこに行けばいいのさ?」

「決まっている。控室だ」

「他の人もいるのか?」

「当たり前だ。ワタシたちの他にも大勢いる」

「そっか」


 仲が良いようだ。

 手は繋いでいないものの、肩がくっつきそうなほど近い。


 いや、くっついている。

 付き合っているのだろうか。

 まだそういうのはちょっと早いのではないか。

 マリコは小さなカップルを無言で見ていた。


「ワタシの後で落ちるなよ、アッシュ」

「わかってるさ。落ちたらゴーになんて言われるか」


 アッシュと名前を聞いて、マリコは耳がピクッとなる。

 たしかに、どこかプラスの面影があるような。

 だが、プラスに弟なんていなかったはずだ。


 少年が気になり、声を掛けようとしたが、


「行くぞ。控室は向こうだ」


 少女がボーイフレンドと思われる少年の手を引き、どこかに行ってしまった。


「行っちゃった……親戚さんかな?」


 あとでプラスに聞くことにした。







 ──第一受験生のマリコは運動施設で待つ。

 しばらくすると、試験官とその補佐がやってきた。


「初めまして、お嬢さん。私が今回試験官を務めさせて頂きます。カール=メルメルトです」

「ウフフッ。彼の補佐役、エリー=レザーフット。よろしくね」


 受験生にあいさつする。 


「あっ、よろしくお願いします」


 マリコも頭を下げた。


 カールはいつもの鎧姿ではない。

 あまり使っていないのか、綺麗な胴着を着ている。


 当たり前だが、試験では毎年怪我人が出る。

 なので、治癒のオーブが使えるエリーが補佐官として出席する。


 ちなみにゴーもついて来たらしい。

 今は街のどこかで暇を潰しているそうだ。


「では、試験の説明を」

「は、はい!」


 ようやく始まる。

 マリコは緊張する。


「今からあなたは、このカールと戦ってもらうわ」

「このおじさんと……」

 

 マルコは息をのむ。

 見るからに強そうな試験官だ。


「もちろん手加減はします。今回は特別にオーブを使いません」

「ええっ⁉」


 マリコは驚いた。

 この試験官はオーブを使わないと言うのだ。


「カール、あなたそれ毎回言ってない?」


 見たところ武器を持っていない。

 素手で戦うつもりだろうか。

 いくら何でもハンデが多すぎだ。


「私の合図があるまで立っていられたら合格よ」

「ええっ⁉ それだけ⁉」

「もちろん倒してくれても構わないわ」


 去年より優しい内容であった。


 これは、いけるのではないか。

 プラスに先を越されて早2年。

 試験にはもう2度落ちている。

 このまま一生追いつけないのではないかと不安だった。


 だが、今年の試験官は当たりのようだ。

 念願のBランクになれると思い、マリコは心の中で早くも舞い上がる。


「そろそろ始めましょう」

「はい!」

「ええ。それじゃ2人とも、中に入って」


 運動施設に入り、お互いに離れた場所に立つ。


「準備はいいかしら?」

「はい!」

「ええ、構いません」


 試験の始まりが近い。

 マリコの心臓が高鳴る。


「では、はじめ!」


 

 オーブを出した。

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