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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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34.破られた封印

 Bランク試験、2日前。

 真夜中。

 

 一人の修道女が教会を巡回していた。

 辺りはその足音だけが響く。


 昼間は賑わうこの教会だが、夜になると一変する。

 寂れた大きな鏡、傾く十字架、薄汚れた壁。

 異様な静けさと、隙間から流れる風の音で、不気味な雰囲気へと変貌する。


「うぅ、一人は嫌だって言ったのに……」


 修道女の足取りは重い。

 まだ慣れていないのか、手に持つランプは震えている。


 本来は2人で行動する決まりなのだが、この日は手分けした方が早いということで別々に巡回を行っていた。

 修道女は嫌だと涙ながらに訴えた。

 しかし先輩には逆らえず、渋々一人で行動していた。


「ひっ⁉」


 いま向かい側の廊下で、誰かが通った気がする。

 シスターのような、黒く、ロウソクを持った。


 仕事柄、先輩はよくあることだと言っていた。

 だが、実際に見てしまってはたまらない。

 それが幻覚であろうとも。


「もう無理、だれか助けて……」


 目が開けられなくなっていた。

 先に進むのがあまりにも怖い。

 いっそのこと、ウソをついて終わったことにしようか。

 

 進むか、戻るかを悩んでいると、


 ──ガシャンッ


 突然、ガラスの割れる音がした。


 今ハッキリ聞こえた。

 修道女の背筋が凍る。


 辺りを静寂が包み込む。


 もう生きた心地がしなかった。

 明日、絶対にやめてやる。

 

──ニャー


 ネコが通り過ぎた。

  

 夜の教会には、よく猫が入り込む。

 というのを先輩から聞いていた。


 ネコのいたずらか。

 修道女はホッと息をつく。


 が、


「はっ!」


 何を見たのか。

 修道女の目が大きく開かれた。







 ──翌日、Bランク試験前日。

 プラスは教会に呼び出されていた。


「よくいらしてくれました。スターバードさん」


 神父室。

 中に入ると、神父さんが出迎えてくれた。


「手短にお願いね。こっちは病み上がりなのよ」

「申し訳ない。ですが緊急の用なのでお許しを」


 話があるらしく、すぐに来てほしいと頼まれた。


「で、要件はなにかしら?」

「それが……」

「早く言いなさいよ」


 言いずらそうにする神父に、プラスが急かす。


 明日は大事なアッシュの試験がある。

 色々準備しないといけないため早く帰りたいのだ。

 不機嫌に腕を組んで座っている。


 神父は申し訳なさそうに口を開く。


「その、ベルルの封印が、解けちゃいまして」

「ベルルって、あの中央教区の?」

「昨晩、教会の物置で壺が割れておりまして。よく見てみると……」

「は? どういうこと?」


 意味が分からなかった。

 昔、ベルルというイービルが封印された、ということは知っている。

 しかしその壺は、中央教区で厳重に保管されていたはずだ。

 なぜ第一教区にあって、しかも割れているのかが謎だった。


「おそらくは、ザイコール殿が持ち出したのかと」


 イービルの研究にでも使うつもりだったのだろう。

 壺を盗み出し、第一教区教会の物置に隠していた。


「はあ、何やってるのよ。あのクソじじい」


 プラスは頭を抱えた。

 そんな大事な物を物置に隠す、老人の適当さに呆れかえる。


 ピースする老人の姿が浮かんでくる。

 やはりあの時、抹殺するべきだった。


「誰が割ったのよ」

「それが、我々が発見した時には割れた壺のみでして」


 昨晩、当番の修道女が中々戻ってこない。

 もう一人が心配して探しに向かった。


 何か割れた音がしたかと思うと、すぐに廊下から悲鳴が聞こえた。

 急いで駆けつけたが、そこには誰もいなかった。

 翌日の捜索で割れている壺を見つけたそうだ。


「まずいわね」

「ええ、かなり」


 2人は深刻な顔になる。


 ベルルは人に憑依するタイプのイービルだ。

 他とは比べて知能が高く、人の言葉を話すことができる。

 そのため、一度誰かに取り憑いたら判別ができなくなる。


 すでに消えた修道女に憑依して、街に潜伏しているようだ。

 別の住民に移り変わり、行方はわからないだろう。


「他のハンターには」

「メルメルトさんにも一応、お伝えはしましたが」

「カールは試験で忙しいし」

「ですよね」

「となると、わたしが何とかするしかないわね」

「はい」


 ベルルはかつて、プラスの兄であるナッシュが中央教区で捕獲し、壺に封印した。

 憑依していない状態のベルルに戦闘力はない。

 だが、攻撃が一切効かないらしく、倒すことが出来ないのでやむを得ずという判断だった。

 

 また好戦的な性格でもある。

 前回もBランクハンターに憑依して、中央教区でかなりの被害を出した。

 それが今度は、この第一教区で起きようとしている。

 

 なので、ここは守護神であるプラスになんとかしてもらう他ない。

 神父は深く頭を下げた。

 

 兄にできたのなら、自分にだってできる。

 プラスは自信たっぷりに引き受けた。


「任せなさい! 今度はわたしが封印する!」

「お願いします。くれぐれも憑依されないよう気をつけて」

「ええ、わかってるわ」


 プラスは教会を後にした。

 壺を懐にしまい、唇に手を当てて考える。


「とは言ったものの、どうやって探せばいいのかしら? う~ん……」

 


 思い浮かばない。

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