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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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33.アッシュが悪い

 イービルを無事撃退した。

 教会への報告はカールがしてくれるそうで、アッシュはありがたく帰らせてもらう。


 玄関を開けるもお迎えはない。

 みんなプラスの部屋にいるのかと思い、自分の部屋へ向かう。


「はあ、疲れたさ」


 過酷な戦いだった。

 ドアを開け、中に入ろうとすると、


「アッシュぅ~!」


 突然、プラスが両手を広げ、飛び出してきた。


 お姉さんをかわし、すぐにドアを閉める。


「なにさ、今の」


 プラスは風邪を引いてるはず。

 部屋に入ると、執事のハリスとメイドのステラが苦笑いでアッシュを見ていた。


「あれ?」


 部屋を間違ったのか。

 いや、ここは確かにアッシュの部屋だ。

 どうして3人がいたのだろうか。


「すみません。お嬢様が勝手に」

「ここを動かないと言い張っていて……」


 どういうことなのか。


「──こら~、開けらさいよ~」


 外からドアを叩く音がする。

 明らかに呂律が回っていないのが分かる。


 風邪薬を飲んだらしい。

 すると急に暴れ出し、アッシュを探し回っていた。

 部屋から一向に出ようとせず、仕方なくここで看病していたそうだ。

 

「──はやく入れらさいよ~」


 このまま放置するのは不味い。

 そう思い、アッシュはドアを開けた。


「アッシュぅ~!」


 案の定、プラスが飛び掛かって来たため、それを左によける。


 病人は床にコテッと倒れ込む。


「うっ……」


 ヘロヘロのプラスを抱え、ベッドまで運び寝かせてあげた。

 自分より一回り大きなお姉さんを運ぶのはキツいものがある。

 その言葉を口にしないよう、アッシュは努力した。


「チューしましょ~。ほらっ、ほっぺにチュ〜。なによ~、レクスとはしてたクセに~、わたしとはできないっていうの~」


 両手を広げてチューをせがんで来る。

 この様子ではカールのことを話すのは無理だろう。

 

「すみません、アッシュさん。今夜は私の部屋でお休みになってください」

「またアッシュさんを見ると厄介なので、さっ、今のうちに」


 アッシュは自分の部屋から出る。


「ねえ〜、わたしのアッシュはどこ~?」


 壁の向こうから声が聞こえる。


「なにさ、これ」


 早く寝た。







 ──翌日、アッシュはお見舞いのため、レクスの家を訪れた。

 すでに風邪が治っている。


「まったく、なぜワタシがヤツの風邪をもらうんだ」


 ずっと寝込んでいた。

 風邪にしてはえらく辛かったこともあり、移したプラスに悪態をついている。


「これはアレだな。何かおごってもらわないと気が済まないな」


 と、言いながらアッシュを見る。


「なんでそうなるのさ」


 それを言うなら移したプラスに言うべきではないのか。

 レクスも風邪薬でおかしくなったらしい。


「今度お昼をおごれ」

「別にいいけど」


 アッシュは了承する。


「ところで、レクスのオーブスーツはなに色?」

「なんだ、いきなり」

「それが……」


 これまでを説明した。


「なるほど。それでワタシのも気になったと」


 アッシュはうなづく。


「そうだな、教えてやらんこともない」

「なんで勿体ぶるのさ」

「ああ。ワタシのはズバリ、青だ」


 アッシュの顔が途端にくもる。

 髪の色と同じだからとか、青が好きだからとか、安直な理由で選んだと思っていたからだ。

 普通、緑一択だろう。

 

「なんだそれは。たしかに青は好きな色だが」

「じゃあなんでさ」

「それは、分かるだろ」


 言いたくなさそうにしていたが、


破裂(バースト)が苦手なんだ」

「レクスが?」

「ああ、悪いか」


 意外だった。

 これまでレクスの破裂(バースト)を何度も見た。

 初めて絡まれた時も惜しみなく連発していたので、てっきり得意なのだとばかり思っていた。


 だが、そうじゃないとレクスは言う。


「前に言っただろ。何度も教会送りになったと」

「あー、聞いたような気がする」

 

 練習で何度も教会送りになったので、仕方なくスーツで補ったそうだ。

 今では好きな青色ということもあり、本人も気に入っているとのこと。


「そっか」


 きちんとした理由でスーツを選んでいたようで、アッシュは安心した。

 緑を進めるのはやめておこう。


「第一に、お前だって緑が好きだろ」

「まあ、そうだけど」

「フッ、好きな色で選ぶというのも、案外悪くないのかもしれないな」


 新たな定説に、アッシュは首を傾げた。


「ところでアッシュ、Bランク試験の登録はもう済んだのか?」

「なにさそれ、初耳なんだけど」

「アイツから聞かなかったのか?」

「いや、なにも」

「はあ、3日後だぞ」

「3日後⁉」


 衝撃なお知らせが届く。

 近ごろBランク試験があり、その受付期限が迫っているとのことだ。

 プラスやゴーにそのことを一切聞いていないアッシュは驚く。


「たまには自分で調べたらどうだ」


 これは大人任せのアッシュが悪い。

 レクスが注意する。


「わ、わかったさ」

「まったく、ワタシがいないとどうなっていた。お前はいつも──」


 お見舞いに来たはずが、お説教をガミガミ食らう。


 しばらくは大人しく聞いていたが、


「レクス、じゃあさ」

「なんだ、まだ話は終わってない」

「いや、もうわかったからさ」

「どうかしたのか?」


 アッシュが急にどもりだす。


「その、試験のことなんだけど……良ければ一緒に」


 勇気を出して誘う。


 が、レクスはあっけらかんとした顔で答える。


「なにを言っている。そのつもりだ」

「へっ?」

「ワタシも受けるんだから行くに決まっている」

「それはそうだけど……」

「ワタシが案内してやる。ありがたく思え」

 

 アッシュにビシッと指をさす。


 初めから一緒に行くつもりであった。

 だから試験のことを教えてあげたのだ。

 そう聞いて、アッシュは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになる。


「お前はアレだな。たまにおかしなことを言うな」

「うっ、悪かったさ」

「そうだ、アッシュが悪い」



 ため息をついた。

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