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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
34/142

32.偶々

 イービルが出現した。


 アッシュは破裂(バースト)を使って移動。

 カールは破裂(バースト)が使えないのか走って移動している。


 鎧の重さもあるのか。

 2人の距離は徐々に広がっていく。


「少し待ってください」

「どうしたのさ?」


 アッシュは振り向くと、カールが息を切らしているのが見えた。

 自分の方が速いことに戸惑う。


 カールが息を整えて言う。


「すごい坊やですね。Cランクなのに使えるなんて。それ」

「これ? 破裂(バースト)のこと?」

「そうです。ばーすとです」


 一般的に破裂(バースト)はCランクでは禁止されている。

 カールはBランクだと言うのに破裂(バースト)を知らないらしい。


 アッシュが首を傾げていると、


「では本腰を入れますか」


 と言って、どこからか兜を取り出し、すっぽりと頭に装着した。

 カールの顔は隠れ、髭の生えた口元しか見えなくなる。


「これでよし」


 何がよしなのか分からない。

 鎧を脱ぐのならまだしも、なぜ兜を被ってわざわざ重量を増やすのか。

 アッシュには分からない。


「お待たせしました。では行きましょう」


 目の前のおじさんのことが心配になってくる。

 

 今度はカールが前を走るそうだ。


「はあ……」


 アッシュは大きなため息を吐く。

 大人しくその後ろを走ることにしたが、


「ふんッ!」


 突然、カールが急発進。

 地面を踏ん張ったかと思うと、破裂(バースト)顔負けの速さで可動した。


「えっ⁉ ちょっと待ってさ!」


 置いて行かれてしまった。

 アッシュは慌てて破裂バーストで追いかけた。

 

 





「──いましたよ、あれがイービルです」


 イービルを発見した。


 アッシュはまだ戦ってもいないのにヘトヘト状態。

 手を膝についてゼーハー言っている。

 見失わないようにするのがやっとだった。


 当のカールの方は何ともない様子だ。

 ベテランらしく静かに標的を観察している。


「小さいですね。我々と同じくらいです」


 今回のイービルは、スリムな体系をした人型のイービル。

 相変わらず真っ黒で、目だけが無機質のように白い。


「ここは街中です。迅速に処理しましょう」

「わかったさ」


 アッシュはオーブを出し、カールは剣を抜く。


 2人でジリジリ接近する。


 が、すぐに気づかれた。

 イービルがすばやく移動し、隣の民家へ飛び移る。


 すかさず手の平からオーブを出し、2人に向かって構えた。


 このイービルは分離(リーブ)を使う個体のようだ。

 オーブを放ってきた。


 アッシュはすばやく離れる。


「ふん!」


 カールは微動だにしない。

 迫るオーブに一太刀浴びせ、斬り伏せた。

 真っ二つに割れ、空中で爆発する。


 それを見たイービル。

 弱そうな方から狙うことにしたのか。

 動いた方、つまりアッシュに襲い掛かった。


悪魔の左腕(デーモンハンド)!」


 まずい。

 アッシュはとっさに黒い腕を出し、攻撃を受け止めた。


 その判断自体は良かったのだが、


「わっ!?」


 非常に軽い。


「わあああ! カールさーん!」


 受け止めきれず、遠くの民家までぶっ飛んでいく。

 強制的に離脱させられた。


「坊や!」


 開幕やられてしまった情けない少年を呼び掛けるも、すでに見えない。

 アッシュは星になった。


 雑魚は片付けた。

 そう言わんばかりのイービル。

 次の強そうな方を狙い、すぐさま接近する。


「ふんっ!」


 カールは剣で受け止め、すぐに剣を返しての攻撃。


 それをイービルが片腕で防ぐ。

 辺りに鈍い音が響きわたる。


「頑丈ですね」


 生身で受けたにもかかわらず、傷一つ付いていない。

 それどころか押し返してくる始末。

 力負けしそうになりカールは驚く。


 オーブで攻撃していないのだから当然だ。

 

「ふんっ!」


 間合いを取る。


 互いに望んでいたのか。

 両者は接近戦を始めた。







「──いてて」


 アッシュは屋根に寝そべっていた。

 かなり遠くまで飛ばされていた。

 一撃受けただけでこの有様とは、今回の敵は一筋縄ではいきそうにない。


「まだいけるさ」


 目立った怪我はない。

 アッシュは立ち上がる。

 スーツを新着したおかげか、派手に飛ばされはしたがそこまでダメージはない。

 教会送りは免れたようだ。


 急いで戻る。



 

 戻った時には、両者が激しい戦闘を繰り広げていた。


 カールは全てを剣でいなし、即座に斬りつける。

 相手に傷が入ることはない。

 どうやら打撃攻撃と割り切っているようだ。


 イービルの方もひたすら張り付き、肉弾戦を仕掛けていた。

 近接戦闘が得意なよう。

 ハンター顔負けの戦いぶりだ。


 打撃攻撃が効いているのか。

 イービルの動きが僅かに鈍っていた。

 武器を持つのは卑怯だと言いたげに、剣を睨みつける。


 カールはカールで決定打がなく、押し切ることが出来ないでいる。

 いくら打っても相手は倒れない。


 オーブで攻撃していないのだから当然だ。


 そして、


「おや?」


 突然、カールの持っていた剣が消える。


「あっ……」


 近くで見ていたアッシュは、剣が手からすっぽ抜けるのを見た。

 

 それを好機と見たか。

 イービルが回転を上げ、拳を連打する。

 

 武器を失ったカール。


「ふんっ!」


 そのまま生身で怪物と打ち合いだした。


「ふんっ!」


 光撃(ハード)が使えないのか、オーブを出そうとしない。

 素手でイービルと渡り合っていた。


 その戦いぶりを見て、アッシュは気がつく。

 どうやらこのおじさんは、破裂(バースト)の時もそうだがオーブそのモノが使えないようだ。

 信じられるのは剣と己の精神のみ。

 そういうハンターなのだと。


 なるほど。

 それならオーブスーツを着ても意味がないと勝手に納得する。


 違う、感心している場合ではない。

 見ているだけでなく戦わなければ。


 流石に素手では厳しいようで、カールが押されていた。


「カールさん!」


 アッシュも加勢する。


 




 

 ──アッシュが混ざったことで、イービルは劣勢となる。


 アッシュの光撃(ハード)でも決定打にならない。

 かなり頑丈なのか。

 悲しいことに、悪魔の左腕(デーモンハンド)で直接ぶん殴った方が効果があるみたいだ。


「ふんっ⁉」


 隣にいたカールが殴り飛ばされてしまった。

 残るはアッシュのみとなる。


 あとはうるさいハエを叩き落とすだけだ。

 と言わんばかりにイービルが速度を上げた。


 さっきまでカールが担当していた分の攻撃が、全てアッシュに流れてくる。


 まともに打ち合っても勝てるワケがない。

 こうなったら奥の手を出すしかない。

 というより、もうこれに賭けるしかない。


 そう思い、アッシュは悪魔の左腕(デーモンハンド)を構えた。


 腕に光をシュイーンと溜める。

 

 黒い輝きが腕全体を纏い、禍々しい光を放つ。


 そのまま破裂(バースト)で勢いをつけ、標的の懐に向かう。


 そして、


「──魔王光撃(ディモンハード)!」


 悪魔の左腕(デーモンハンド)光撃(ハード)を乗せてぶち込む。

 これが今のアッシュが出せる最も高火力な技である。

 使用後はオーブ切れになってしまうため、外したら終わる。

 まさに起死回生の一撃だった。


 やぶれかぶれで放った一撃が、イービルの腹部に命中。

 流石の怪物もこれには絶叫する。


 しかし、地面にズザザーッと踏ん張り、なんとか堪えた。


「なっ⁉」


 腹部はグロテスクに凹み、ドロドロに溶けている。

 だが消滅はしない。

 思ったよりも手ごたえがなく、アッシュは焦ってしまう。


 攻撃を耐えたのがよほど嬉しいのか。

 イービルが雄たけびをあげた。


 ヤバい。

 オーブ切れのアッシュは絶句した。

 絶体絶命。

 もうカールのように生身で戦うしかないのか。


「──どいてください! 坊や!」


 突然、横からカールが突っ込んできた。

 手には消えたはずの剣を持っている。

 ぶっ飛ばされた先に、偶々、自分の剣が落ちていたのだ。

 

 アッシュは驚くも、すぐにカールを避けた。


 勝利の雄たけびに夢中だった。

 イービルはそれに気がつかず、剣が腹部を貫いてしまう。


 剣を掴み引き抜こうとするも、かなり深く突き刺さっており、引き抜くことができない。


「ふんっ!」


 カールは力を込め、


「ふんっ!」


 怪物を真っ二つに切り裂いた。


 二つに分かれたイービルは断末魔を上げ、あっさりと消滅した。


 その場には中年と少年のみ。

 終わったようだ。

 今回も無事に撃退できた。


「はあ……」


 中々強敵だった。

 アッシュはその場にへたり込む。

 最後の方は腰を抜かしそうになっていた。


「カールさん、すごかったさ」

「いえいえ、坊やこそ」

「そうかな」

「ええ」



 カールが笑う。

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