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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
32/142

30.戦闘服

 教会沈没事件から一か月。

 壊滅的だった教会はすっかり元の状態に戻っていた。

 また例の巨大イービル襲撃による復興作業も終わり、街の雰囲気はとても明るいモノとなっていた。

 

「アッシュさーん、そろそろ帰りますよー」

「わかったさ」


 アッシュはおもちゃを見るのをやめて、ステラの元に戻る。

 夕飯の買い出しのために、ステラと2人で外出していた。

 

 買い物も終えて、帰宅中。

 

「街もすっかり元通りですね、アッシュさん」


 ステラが話しかけた。


「あんなに酷い様子でしたのに、もう直しちゃうなんて凄いです」

「ああ、ホントにすごいさ」


 例のイービル襲撃事件。

 その重要人物であるアッシュは、街の復興も終わりホッとする。

 軽い足取りで街を歩いていた。


「──あら、2人ともおかえりなさい」


 家に帰ると家主のプラスが出迎えてくれた。


「ただいま戻りました、プラス様」


 靴を揃えて家にあがる。


「すぐご夕飯にしますね」

「オレも手伝うさ」

「フフッ、ありがとうございます」


 アッシュとステラの2人は手を洗い、さっそく夕飯の支度にとりかかる。


 最近、アッシュはよく家のお手伝いをしている。

 引き取ってくれた家主への恩返しのつもりだろう。

 お皿洗いとかも積極的に引き受けていた。


 そんなことは知る由もないプラス。


「わ、わたしも何かしようかしら?」


 最近、2人の仲が良い。

 自分だけ除け者にされているような気がする。


「いいえ、プラス様の手を借りるワケには行きません」


 家主に仕事をさせられない。

 ステラは真面目なメイドさんだ。


「そう……」

「はい、ゆっくりしててください」


 プラスはトボトボ部屋へ戻っていく。 


「お元気がなさそうですが。どうなさったんでしょう?」

「さあ、手伝いたかったんじゃない?」

「ですが、これが私のお仕事なのですが」


 ステラが困り顔になる。

 


 しばらくして夕飯が出来上がる。


 二階からプラスが下りてきた。

 そこに怪我から復帰したハリスも加え、4人で食卓を囲む。

 いつものようにいただきますをして食べ始めた。


「ふむ、今日も良いですね」


 ハリスの評価が良い。

 アッシュは嬉しくなる。


「アッシュさんも手伝ってくれたんですよ」

「それは偉いですね。お嬢様も少しは見習っていただきたいモノです」

「悪かったわね。料理出来なくて」


 そう言って、プラスはガツガツ食べる。


 入院中だったハリスはすっかり元気になり、またここに来るようになった。

 アッシュはこまめにお見舞いに来ていた。

 なのでハリスとは打ち解けていた。

 ちなみにプラスは一度もお見舞いに行かなかったため、執事との仲は険悪だ。


「そういえばあなた、明日ゴーと約束があるんでしょ?」

「あー、そうだった」

「なんだか嫌そうね」

「いやに決まってるさ」


 明日はゴーに修行をつけてもらう日だ。

 ゴーはあれから第二教区にいるエリーの家で飼われている。

 たまに第一教区にフラフラやって来ては、アッシュに無理やり修行をつけていた。


 ここまで来るまでに一日はかかるはず。

 暇を持て余すゴーは、お構いなくアッシュの元へやって来る。


「あなたも大変ね」

「もう修行イヤだ。プラスの特訓がいい」

「出来ればわたしもそうしたいんだけど、もう教えてあげられることがないのよね」


 悲しいことに、ゴーの方がアッシュを育成するのが上手かった。

 プラスも渋々送り出している。

 ゴーの修行は熾烈を極め、アッシュは毎回泣きながら戻ってくる。

 修行の前日はどうしても暗い雰囲気になってしまう。


「今日は早く寝て、明日に備えなさい」

「わかったさ」

「なんなら一緒に寝てあげよっか?」

「いや、一人で寝るさ」


 プラスの寝相は良くない。

 まともに寝ることができない。


「そう……」


 明日に備えた。







 ──そして次の日、


「よし、始めるぞアッシュ」


 やって来たゴーが問答無用でアッシュをさらい、修行に連行した。


 現在、街から少し離れたところにある、森が開けた場所にいる。

 元はプラスと特訓していた場所だ。

 今ではすっかり悪人との修行場になってしまい、アッシュは悲しかった。


「なんだ、元気ねえな」


 これから絞られるのに元気でいられるか。


「ハハハッ! そうかそうか」


 地獄の修行が始まった。







 ──絞られたアッシュは、クタクタになって地面に横たわる。

 ゴーの方はまだまだ元気。

 ボロボロの少年を「情けねえな」と言った感じで見下ろしている。


「──旦那、こんなとこにいたんですかい」

「なんだマルトンか。久しぶりだな」


 マルトン。 

 会うのは共に教会に潜入して以来。

 相変わらず小汚い恰好をしており、その怪しさは健在だ。


「そこにいるのは誰かと思えば、坊ちゃんじゃないですか⁉」

「久しぶり……」

「一体どうしたんですかい!? 旦那にやられたんスか!?」


 ボロボロのアッシュを見て何事かとあわてる。


「気にするな。で、なんか用かマルトン」

「ヘイ! 頼まれていたスーツを持って来やしたぜ!」


 そう言って、黄色のオーブスーツを渡す。


「やっと来たか」


 ゴーはニヤる。

 プラスとの戦闘で破壊されたため、新しいモノを注文していた。


 オーブスーツとはハンター専用の戦闘服。

 以前アッシュもプラスからもらっていた。

 肌の上から直接着ないと効果を発揮しないため、衣服に隠れて見えないことが多い。

 最近開発されたモノであり、ハンターの必須装備である。


「あっ、それ!」

「あん? どうしたアッシュ」

「それオレも持ってるさ」


 そう聞いて、なぜかゴーはいぶかしむ。


「そうか、ちょっと見せてくれ」

「なんでさ?」

「いいから見せてみろ」

 

 言われた通りアッシュは服を脱ぎ、オーブスーツを見せた。

 

「おいおい、赤かよ」

「赤っスね」


 清々しいほどの赤。

 2人の反応があまりよろしくない。


「なんで赤にしたんだ?」

「プラスが同じ色だからって」

「はあ、アイツなにやってんだ」

「全くっス」


 2人が何やら呆れている。

 たしか前にレクスにも同じような反応をされた。


「なにさ、やっぱり赤って駄目?」

「ダメではないんだが」

「坊ちゃんには合ってないですぜ」

「えっ?」

 

 マルトンが説明した。

 オーブスーツは4つの種類がある。


 赤は、オーブの威力が上がる。

 黄色は、防御力が高くなる。

 青は、オーブの調整をサポートする。

 そして緑は、攻撃、防御、オーブの調整、それぞれを微量に上げる。


「青のスーツを着れば破裂(バースト)のコントロールが良くなるぞ」

「赤は攻撃力が上がるんスけど、坊ちゃんみたいな初心者にはまだ必要ないんでさ」


 マルトンが言うに、初心者ハンターはよく赤色を選びがちである。

 だが実際は、自分の苦手を補うスーツを着た方が良い。

 慣れてきたら自分の得意を伸ばすスーツにするか、そのまま苦手を埋めるスーツにするかで決めた方がいいと言うことだ。


「坊ちゃんは攻撃面、防御面、破裂(バースト)で不得意なものはありやす?」

「特にないと思う」


 攻撃面は最悪、悪魔の左腕(デーモンハンド)があるので問題ない。

 防御に関してはそもそも破裂(バースト)丸盾(シェル)、上記で凌ぐためあまり必要ない。

 破裂(バースト)はそこそこ。


「ならお前は黄色だな」

「どうしてさ?」


 ゴーが腕を組み自信満々に答える。


「結局、戦闘では防御力が一番モノを言うからな。いくら攻撃を受けようともダメージが無ければ問題ない。よし、そうと決まれば今から買いに」

「させませんぜ旦那!」


 急にマルトンが声を張り上げ、ゴーの脚を小突いた。


「なに馬鹿なことを言ってるんスか! それでも旦那は本当にAランクなんスか!」

「馬鹿野郎、こっちは大真面目だ」

「はあ、これだから脳筋は嫌なんでさあ。頭まで筋肉に支配されて敵わないっスよ」

「あっ?」


 マルトンが言うに、特に苦手のないアッシュには、バランスが良い緑のスーツを着せた方が良い。

 また、緑は初心者からベテランにも無難な色だ。

 アッシュも正直なところ、プラスに貰った赤色よりも、隣にあった緑の方が良いと思っていた。


「絶対緑にするんスよ!」

「実はオレも緑の方が良くてさ」

「さすが坊ちゃんでさあ、どこかの旦那とは大違いですぜ!」

「あっ?」


 突然の暴力が襲う。

 ゴーに頭を小突かれ、マルトンが泣き出した。

 そしてなぜかアッシュも小突かれて泣き出した。





 


 ──その日はもう解散した。

 家に帰ったアッシュは、今日のことをプラスに愚痴っている。


「オーブスーツの話をしたのね」

「そう、それでゴーがさ」

「ゴーも相変わらずね」


 プラスもゴーに呆れてくれた。

 期待通りの反応にアッシュも満足するが、何か心に引っかかるものがある。


 たしかプラスのスーツは赤色だったはず。

 攻撃面に不安があっての赤なのか。

 以前、自分は近接戦が得意だと言って胸を張っていた。

 素の攻撃力が低いとは思えない。

 長所を伸ばす方向性なのか。

  

 アッシュが考えていると、


「2人とも、馬鹿ね」

「へっ?」

「そんなの赤がいいに決まってるじゃない」

「な、なんでさ?」


 アッシュは嫌な予感がする。


 そして、お姉さんが胸を張って自信満々に答えた。


「だって赤が一番可愛いじゃない」

「なにさ、それ……」



 ドン引きだ。

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