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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
3/142

2.オーブ

 ここはプラスの家。

 ただいまの時間は正午。

 アッシュは与えられた部屋で、寝音を立てて眠っている。


 ──バンッ!


 バンバンバンッと、急にドアが激しく音を立てた。

 

「う、う~ん……」


 アッシュは布団を被って丸くなるが、


 ドアが勢いよく開き、中に誰か入ってきた。


「──アッシュ! 早く起きなさい! いつまで寝てるのよ!」


 入ってきたのはプラスだ。

 いつまでも下りてこない寝坊助さんを呼びにきた。


「ほら起きなさい! 今日から特訓って言ったはずよ!」

「う~ん、明日から……」


 布団にくるまって音を遮断。


「いい加減にしなさい!」

 

 しびれを切らし、ふわふわの布団を思いっきりめくりあげた。


 ふわふわがないと眠れない。

 アッシュは温もりが身体から消え、不安になり飛び上がる。


「なにするのさ!……あっ」

 

 すぐに取り返そうと手を伸ばした。

 しかし、目の前に恐いお姉さんが立っている。


「……おはよう、プラス」


 そのままお昼のあいさつ。


「おはようアッシュ、いい朝ね。お昼できてるから下りてきなさい」

「それ返せよ」

「ダメ! いつまでも寝てる悪い子は没収よ!」  


 どうやら本気で没収するようだ。

 ふわふわを人質にするとは、人間のやることではない。

 でも没収されるのはとても困る。

 だから従うしかない。


「わかったさ」


 仕方ない。

 アッシュはふわふわにさよならをして食卓へ向かった。







「──あっ、おはようございます。ただいまお昼をお持ちしますね」


 アッシュはあくびで返事をする。

 

「フフッ、昨夜はよくお休みでしたね」


 目をこすりながら食卓に行くと、メイド服を着たお淑やかな少女、ステラがお昼の支度をしていた。

 彼女はこの家で雇われているメイドさん。

 料理家事が一切できないプラスのお世話をしている。

 まだ13歳というのに自分の仕事をしっかりこなす、素晴らしいメイドさんだ。


「──ようやく下りてきましたか。あいかわらず遅いお目覚めだ」


 背が高くて長い髭を生やした男、ハリス。

 彼が下りてきたアッシュに悪態をついた。


 このおじさんはプラスの執事をやっている。

 同時にイービルハンターでもある。

 また、先日のイービルとの戦いで負傷したらしく、右腕を包帯でグルグル巻いていた。

 この近くの宿で暮らしている。


 このハリス。

 ここに来た当初からアッシュに対して感じが悪い。

 なので、アッシュはこの執事が恐くて仕方がない。

 最低限のあいさつだけして、テーブルの一番遠い席に避難する。


「アッシュ! 早くご飯食べて特訓に行くわよ」

「プラスのお昼は?」

「とっくに済ませたわ。あとはあなただけよ!」


 プラス=スターバード。

 代々ハンターを生業とする名門スターバード家のお嬢さま。15歳。

 13歳で一人前のハンターになると、親元を離れて一人暮らしを始めた。

 それではいけないと両親が心配したため、ハリスを執事として同行させた。

 

 家主のプラス、メイドのステラ、通い執事のハリス。

 そして新しく迎え入れたアッシュの4人で暮らしている。


「ちょっと待って」

「だめよ、待たないわ」


 ゆっくり食べたい。

 しかしプラスがそれを許さない。

 名残惜しいが急いで食べた。


 ご飯を食べ終え、家を出る準備をした。

 玄関で靴を履く2人をステラが見送る。

 

「それじゃ行ってくるから。夕飯までには戻るわね」

「行ってらっしゃいませ。アッシュさんもお気をつけて」

「あら、ハリスはどこかしら?」

「さあ、どちらに行かれたのでしょうか?」

 

 こわい執事の姿が見えない。

 少し気になるもアッシュは外に出た。








 ──2人は街の中を歩いていた。

 プラスたちの住むこの第一教区は、先日の巨大イービル襲撃による復興作業で騒がしい様子だ。

 死者も出ている。

 アッシュはこの光景に見慣れておらず、壊れた民家を見るたび心が痛む。


「別にあなたのせいじゃないんだから」


 そうは言いきれない。

 アッシュは素直に受け取ることができない。


 街を正門から出て森の中に入り、少し歩くと開いた場所に出た。

 周りは木々で囲まれ、それ以外は特に何もない空間が広がる。


「なんでオレたち、森にいるのさ」


 アッシュが不満そうに尋ねた。


「街の中じゃ特訓できる場所がないのよ。でもここなら動き回るのに十分な広さだわ」

「イービルが出るんじゃ」

「そうね。たまに出るわね」

「えっ?」

「冗談よ。ここに来て2年経つけど、イービルは一度も見てないわ」


 ため息をつく少年を横目に、プラスが隣にいる執事に目を向ける。


「それよりハリス、なんであなたもいるのかしら?」

「決まっています。私はお嬢様の護衛役ですから」

「怪我してるんだから休んでなさいよ」

「問題はないです」


 ハリスはこっそり2人の跡をつけていた。

 この怪しい少年とお嬢様を、2人だけにするわけには行かないと見張っていたのだ。


「怪我人の癖によく言うわね。まぁ好きにしなさい。それじゃアッシュ! 待たせたわね。特訓を始めるわよ!」


 プラスによる特訓が始まった。

 さっそく何かするみたいで、手の平をアッシュの方に広げる。


「まずイービルと戦う方法なんだけど、これを見なさい」


 そう言ってポッと光る青い球を出した。

 丸い球は手の平をゆらゆら漂っている。


「なにさ、これ?」


 アッシュは不思議そうに見る。


「フフッ、これはオーブって言うの。イービルは普通に戦っても効果が薄いから、このオーブを使って攻撃するの」

「どうやって?」

「例えば、こうするの!」


 すると手を前にかざし、前方に発射。

 放たれたオーブは30メートルほど進むと、スッと薄くなって消える。


「これは出したオーブをそのまま発射する『分離(リーブ)』。これでイービルを遠くから攻撃できるわ」


 アッシュは、ほう。


「それで、もう一個の攻撃方法は……」


 今度は拳を握り込み、青い光が手に纏わりついた。

 プラスの右手からはバチバチとスパーク音がなっている。


 ほう。

 アッシュが不思議そうに見ていると、 


「フンッ!」


 いきなりその光る拳を、アッシュに向けて撃つ。


「わっ!?」


 顔の前でピタッと止めた。

 まだ眠そうな顔をしていたので脅かしてあげたのだ。

 アッシュは驚いて尻もちをつく。


「なにするのさ!」

「フフッ」


 プラスが見下ろしたまま説明。


「これは拳にオーブを集めてぶつける『光撃(ハード)』。近づかないと当たらないけど、威力は『分離(リーブ)』より高いわ。この『分離(リーブ)』と『光撃(ハード)』が基本的な攻撃手段ね」


 アッシュは光撃ハードがおっかなく思えた。


「一応だけど、これもあるわ」


 次にプラスが思い出したようにオーブを出し、それをうすーく広げて丸い盾のようなモノを作る。

 青に光る丸い盾。

 得意げな顔でアッシュに構えた。


「この『丸盾(シェル)』は、イービルからの攻撃を防ぐ時に使うの。わたしはあまり使ってないけれど」

「どうしてさ?」

「一々『丸盾(シェル)』をするのも面倒なのよ。避けたほうが早いし」


 そう言って丸盾(シェル)を引っ込めると、腕を組んで少年を見上げた。

 そのまま指をさして言う。


「とにかく! これからあなたにはこのオーブの基本『分離(リーブ)』、『光撃(ハード)』、『丸盾(シェル)』をマスターしてもらうわ!」


 難しそう。

 そんな超能力みたいなことが果たして自分にできるのだろうか。

 アッシュは少々不安になる。


 そんな不安とは裏腹に、プラスは話を進める。


「まずはオーブを出さないことには始まらないわ。オーブは体内にあるエネルギーを集めて手の平から出すの。イメージは身体の神経を全て、手の平に集中させてポッと。こんな感じに」


 ポッと、オーブが出た。

 

「はい! あなたもやるのよ」


 アッシュは自分の手の平を見た。

 そんなこと言われても困る。

 オーブなんて得体の知れないものを出せるのだろうか。


 手の平に集中してポッと出すか。


「ポッ!」


 そうイメージするが、オーブなど出ない。


「何も起きないけど……」

「いきなり出ないわよ。しばらく練習しないとダメね。そうね、大体一カ月くらいかしら?」

 

 ポッ、ポッ、ポッと。


 こんなことを一ヶ月も。

 そう思い、アッシュはひたすら「ポッ」、「ポッ」と言いながらオーブを出そうとした。


「あっはははっ! 可愛いっ! 」


 プラスがその必死な姿を見て大げさに笑う。


「フンッ! フンッ!」


 そんな風に笑われると余計ムキになる。


 しばらくは無意味な動作が続いてた。


 だがある時、力いっぱい「ポン!」と言うと、


 ポッ、と。


 緑色のオーブが出た。


「あっ、出た……プラス! 出た!」

「まあ、このわたしをもってしても一週間はかかったん……えぇっ⁉」



 飛び上がった。

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