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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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28.誠意の証

 保護者の世間話が終わらない。

 アッシュは抜け出すことを決意した。

 教会を歩いていると、休憩中のゴーを発見する。


 さっそく声をかけた。


「アッシュか、どうした」


 ゴーが反応した。

 ずっと働いていたみたいだが、こき使われた後には見えない。

 普通に座っている。


「いや、プラスがさ」


 こっそり抜け出して来たことを伝えた。


「そうか。そいつは大変だったな」

「笑いことがじゃないさ。2人が話し出したら止まらなくて」

「中央教区の人間は話が長え。気にすんな」


 中央教区は一番の都会であるが、その割に他所の教区にはそっけない。

 教王がそういう性格だから、みんなもそうなるのだろうか。

 仲間内ではみんなおしゃべりだ。


「おっさんは子ども好きだからな。俺もガキの頃は遊んでもらったもんだ」

「へえ~、ゴーも」

「ああ。おっさんもまだ若かったけどな」


 子どもの頃のゴーなんて想像もできない。

 きっと生意気で傲慢で大変だったはずだと、アッシュは勝手に納得する。


「ああ見えてかなり強んだ。ぶっちぎりで最強だな」


 たしかに貫禄はある。

 だがプラスと話す時は気の良いおじさんに見えた。


「それって、ゴーやプラスよりも?」

「俺も何度か襲ったんだが、全部返り討ちにあってな」


 教王を相手にやることではない。

 ヴァリアードと疑われるのも納得の所業だ。

 

「教王はこの国の象徴みてえなもんだ」


 しばらくそんな話をしていた。


「そういえばさ、ゴーは支部長に誘われなかった?」


 プラスに声がかかったのだから、ゴーに来てもおかしくないはずだ。


「ああ、誘われたな」

「どうするのさ」

「断らせてもらった」

「だと思った」

「なんだ、わかってるじゃねえか」


 ゴーはこれからどうするかを悩んでいた。

 疑いも晴れた。

 教内で暮らすのもいいが、洞窟生活を続けるのも悪くない。


「支部長は大変でな。正直言えば二度とやりたくねえ」


 そういうモノなのか。


「ずっと洞窟暮らしだったからな。今さら戻れるか分からねえしよ」

「ならエリーさんと暮らせば」


 アッシュが機転を働かせ、名案を繰り出した。

 エリーのもとでスローライフ。

 彼女なら喜んで賛成してくれるはずだ。


 ゴーは少し考えるも、


「そうだな。悪くねえかもな」


 悪くない反応で、アッシュは笑みがこぼれる。


「ここに入ればお前をいつでも鍛えてやれるしな!」


 が、真っ青になる。

 ゴーの修行はハードだ。

 墓穴を掘ってしまった。


「俺はそろそろ行くからよ。お前も戻れ」 

「あっ、ちょっと」

「あん? なんだ、急に改まりやがって」

「助けてもらったし、その……」


 握る力が強く、


「ありがとう、ゴー」


 ゴーにはかなり感謝している。

 命の恩人であることもそうだが、色々な事を教えてくれた。

 おかげであの3日間、寂しくなかった。

 上手く言えないが、いま言える精一杯の気持ちを伝えた。


 ゴーは笑う。


「俺も楽しかったぜ。じゃあな」


 作業に戻っていった。


 アッシュも目的を果たし、教会を後にした。







 ──次に向かった場所。

 それはレクスの家だった。


 家の門を叩くと、使用人が中へと迎え入れてくれる。

 この順序にアッシュはもうすっかり慣れていた。


 部屋の前。


 ノックをしても、やはり返事はない。

 ほぼ毎日来ているのだが、ずっとこの調子だ。

 使用人もとても心配している。


 しかし、今日は違った。

 鍵が開いている。


「お邪魔するさ」


 中に入ると、レクスはいない。


 姿は見えないがそこにいるようだ。

 ベッドの布団が盛り上がっている。


「これ貰ったから一緒に食べようと思って」


 と言って、アッシュが大量のお菓子を展開した。

 さっき修道女のお姉さんから貰ったモノだ。

 

 どれにするかとか。

 これがおすすめだとか、微妙だとか。

 一度散りばめたお菓子を綺麗に並べている。


「レクスが好きなのだって、ほら」


 しかし、出てこない。


 出てこないと食べられない。

 かと言って、自分だけ食べるのもまた考えモノ。


 仕方ない。


「そのままでいいから聞いてほしい」


 布団の前に正座した。


 アッシュは言う。

 この数日、色々考えた。

 どう励ましたらいいのか、どうしたら出てきてくれるのか。

 今みたいにお菓子で釣ったり、レクスの好きそうな本とか、話題を吹っ掛けたり。

 色々やってみたが効果はなかった。


 自分にも親はいたのかもしれない。

 だが記憶がないので、レクスの気持ちを汲むことは難しいのではないか。

 自分が何を言っても、それは表面上の励ましにしかならないのではないか。


 結局なにも分からなかった。

 こうやって毎日押しかけることしかできそうにない。

 何の力になれない自分を情けなく思う。


 無理に出てこいとは言わない。

 もう10日経っている。

 いくら押しかけても変わらないだろう。

 これ以上は嫌われてしまうし、すでに嫌われているのかもしれない。


 来るのも今日で最後のつもりだ。


 でも最後に一つだけ、これだけは言いにきた。

 

「レクスには色々助けられたし。だからさ、その……ありがとう」


 目の前の布団を見つめながら、できる限りの気持ちを込めた。


 返事はなかった。


 これ以上は迷惑だろう。

 そう思い、アッシュは去ろうとしたが、


「1人にしておいてくれと言ったはずだ」


 布団から顔を出してきた。

 まぶたがひどく腫れている。


「でも……」

「それをお前は毎日欠かさず、無神経にも程がある」


 この一連のアッシュの行動に対して怒っているようだ。


「悪かったさ。でも……」


 謝罪しつつも、相手の顔をうかがう。

 

「悪いと思っているなら誠意を見せろ」

「誠意って、どうすればいいのさ」

「ワタシに聞くな。自分で考えたらどうだ」


 アッシュは考える。


「一つだけ何でも言うことを聞くとか」

「一つで済ます気か」

「今度、お昼をおごるとか」

「弱ってる女を誘うのか。卑しいヤツだ」

「最近できたアイスクリーム屋さんがあって」

「お前が行きたいだけだろ」

 

 全て切り捨てられた。

 残るはもう、なにか物を渡すくらいしか。

 レクスが喜びそうなモノ。

 何を献上すべきか考えていると、


「そうだな。ワタシとデートがしたいって言うなら考えてやらんでもない」


 目を閉じ、腕を組みながらそんなことを言う。


「デート?」

「そうだ。デートだ」


 レクスからの提案。

 許してほしければ一日デートをしてもらう。

 一緒にアイスクリームを食べる。

 デート中は何でも言うことを聞いてもらう。

 お昼は当然アッシュのおごりだそう。


 ちょっとおかしい気もしなくはない。

 だがレクスとのデート。

 したくないのかと言われれば、したい。


「分かったさ。それでいいなら」

「何を言っている。お前がしたいんだろ」

「えっ?」


 これはあくまでアッシュからのお誘いにより始まるデート。

 この10日間、迷惑をかけたことの誠意の証だ。


 すでに始まっているのか。


「その、レクスとデートしたい、です……」


 アッシュは顔がとても真っ赤になる。

 まともに相手を見れなくなっていた。


「いいだろう。デートしてやる」



 デートした。

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