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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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26.つかまえた

「ん~……」


 プラスは目を覚ました。

 見渡すとそこは自分の寝室でベッドだ。

 

 頭が全然動かない。

 ぽけーっとしながら天井を見ている。


 ふと、すぐ隣から誰かの寝音が。

 

 横に目を向けると、


「えっ……」


 アッシュだ。

 ベッドに顔を埋めて眠るアッシュがいた。

 看病をしていたらしい。

 手には水で濡らしたタオルを握っている。


 起こそうと手を伸ばすが、一瞬動きを止めた。


 今はそのままにしておくべきなのではないか。

 そう思ったのだが、自分の意志とは無関係に腕が勝手に動いてしまった。

 真顔で小さな身体を揺らした。


 アッシュも起きた。

 目を擦りながらゆっくりと顔をあげる。


「プラス、起きてたのか」

「あ、ああ……あ」

「プラス?」

「アッシュ!」


 勢いよく飛びかかった。


「いぎぃ⁉」


 しかし、突如として全身に痛みが走る。

 ガッチリ痺れて動けない。

 

「しばらく安静にしておけってさ」

「フンッ! フンッ!」


 すぐ目の前にいる。

 だが触れられない。


「フンッ! フンッ!」

 

 世界はなんと無常なのか。

 どんなに頑張ってもたどり着くことができない。


 どうしても我慢できないらしい。

 今度は腕をバッと広げた。


「んっ!」


 全力で目で訴えかけた。


「なにさ?」

「こっちに来なさい!」

「急にどうして」

「お願い!」


 アッシュはやって来ない。

 病体のプラスを気遣っての判断だ。


 そんな少年の気遣いに感動しているのか。

 お姉さんは涙が止まらない。

 

 しばらく落ち着くのを待ち、アッシュが話し出す。

 

「あれから3日、寝たきりだったんだ」

「えっ、そんなに⁉」


 余程疲れていたのだろう。

 つい昨日の出来ごとのように感じていた。

 アッシュがいなくなってから、あまり寝ていなかったというのもあるが。


「あの後どうなったのよ?」

「それがさ」


 ザイコールには逃げられてしまったこと。

 地下室はつぶれて無くなったこと。

 教会は崩壊。

 壊地には大穴が空き、現在立ち入り禁止となっていることを伝えた。


「そんなー! 将来わたしのギルドにしようと思ってたのにー!」

 

 プラスがキーッと悔しがる。

 あれほど綺麗で広い空間は中々ない。

 結構気に入っていたのだが、綺麗に埋まってしまったそう。


「ゴーはどうなったのかしら?」


 地盤沈下が原因だと教会の調査で判明した。

 穴を掘りまくっていたゴーがその責任を問われ、現在は復興作業に駆り出されている。

 今も教会にこき使われているそうだ。


「疑いが晴れてよかったさ」

「きっとわたしに絡んだ報いね。いい気味だわ」


 ゴーの処遇に満足のようだ。


 ザイコールの悪事がバレたことで、ゴーの罪が解消された。

 晴れて街中を歩くことができるようになった。

 まだ周囲から恐れられてはいるが、それは時間が解決して、難しいかもれしれない。


 一方、支部長のグレンがいなくなったことで第二教区は大騒ぎ。

 街を守るシンボル的存在が消え、不安になる者も多い。


 ここ第一教区も同様に。

 一度に2人の支部長が消えたのは初めてのことで、各教会は対応に追われている。


「レクスは大丈夫なの?」

「それが一人にしてくれって、部屋に入れてくれなくて」

「まあ仕方ないわね。お父さまがいなくなっちゃったんだもの」


 アッシュは暗い顔になる。

 グレンのことを思い出していた。


 娘を見るあの冷たい目は親のする目ではない。

 レクスのことを考えると自分まで苦しくなる。

 

「今あなた、部屋って言ったかしら?」

「レクスの部屋がどうしたのさ」


 プラスは少し間をおいて、


「えっ、もしかしてあなた、レクスの家に行ったの? えっ、わたしの看病をサボって?」

「いや、だって心配だし」

「もうっ、なによそれ! ひどいじゃない!」


 プラスは頬をあからさまにむぅ~っと膨らませた。


 表ではこういう反応をして見せる。

 だが、自分が知らない間に仲良くなっていく2人に、ちょっぴり悲しいような、寂しいような、そんな気持ちになってしまう。


「まあいいわ。今回はレクスも大変だったし許してあげる」

「さっきから何を言ってるのさ」

「そういえばあなた、ゴーのところで何をしていたの?」


 アッシュはこれまでのことを話した。

 ゴーに助けてもらったことや、一緒に修行して破裂(バースト)ができるようになったこと。

 エリーやマルトン、洞窟で半野生生活をしたこと。

 色々お話しした。

 プラスもよく頷いて聞いていた。


「そう、あなたも色々あったのね。それにしても……」


 プラスの顔が険しくなる。


「ゴーのヤツ! 破裂(バースト)なんて危険なことをやらせていたのね! わたしの大事なアッシュに!」


 この過保護っぷり、アッシュは苦笑い。


 実際、破裂(バースト)ができたおかげで助かった場面は多い。

 ゴーには感謝している。


 そんなことを知る由もないプラスはプンプンである。


「でも無事でよかったわ。もうホントに心配したんだから」


 優しい笑みを浮かべてそう言った。


「悪かったさ」

「なんで謝るのかしら」


 今回ばかりは心配をかけた。

 アッシュは申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 自分だけではどうにもならないことが多かった。

 色んな人に助けてもらったし、迷惑もいっぱいかけた。

 

 でも助けに来てくれたことはすごく嬉しかった。

 アッシュは素直に言う。


「ありがとうプラス。本当に助かったさ」

「と、当然よ! なんたってわたしはあなたの保護者なんだから!」


 一瞬照れたかと思われた。

 が、すぐ自信ありげに胸を張ってみせる。


「これからもどんどん頼っていいからね!」


 プラス、エッヘン。

 鼻が伸びそうな勢いだ。


「じゃあ、そろそろ横になって」

「えっ、もっとお話したいわ」

「怪我人なんだし、今は身体を休めないと」

「イヤよ!」


 寝かしつけようとするも、プラスがプープー言ってそれを拒む。


「あっ! そうだわ……フフフ」


 ふと、何かを思いついたらしい。

 お姉さんがとても悪い顔になる。


「そうね。ならアッシュがわたしを寝かせなさい」

「なんでさ? それくらい自分で」

「あー、身体が痛くて動かないー」


 棒読みのプラス。

 チラチラとアッシュを見ている。


「さっ、早く寝かせなさい」


 ベッドをバンバン叩いている。

 呆れたアッシュはため息をつき、寝かせようと近づく。


 が、


「はいっ、つかまえたっ!」


 ガバッと、アッシュに抱き着いた。


「わっ⁉︎」

 

 そのまま思いっきり抱きしめてあげた。


「ん~、アッシュ~!」

「な、なにするのさ……」


 これは紛れもないアッシュの温もり。

 そう思い、プラスは幸せに包まれた。

 ここにいる事をようやく実感し、アッシュへの愛が止まらなくなる。


「フフッ、もう放さないわ」

「苦しい……」


 

 このままでいた。

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