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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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25.敵の正体

 突如現れた謎の男。


「お前は、グレン=レオストレイト」


 大きく目を見開くゴー。


「生きていたのか、ゴー=ルドゴールド」


 グレンと言われた男が、静かにそう言った。


「支部長になったとは聞いちゃいたが、コイツは一体」


 現在の第二教区支部長、グレン=レオストレイト。


 ここは第一教区で、所属はお隣の教区のはず。

 別の支部長がなぜこんなところにいるのか。


「まさか……お前、教区を間違って」

「相変わらず貴様はよくしゃべるな」

「あん?」

 

 ゴーはイラッとした。


「どうやら呼んで正解じゃったな」


 耳を疑う。


「分からんか。ワシが呼んだんじゃ、念のためにな」


 アッシュはゴーのところにいる。

 始末するのは難しいと考え、保険のためにグレンを呼んでいた。


「どうして父さんが……」


 一方、遠くから見ていたレクスは、父親の登場に戸惑っていた。


「あれがレクスの」


 髪の色や雰囲気が似ている気がする。

 アッシュも横で見ていた。


 全員が沈黙する中、


「無様だな、ザイコール」

「まったくじゃな。お主のおかげで助かったわい」

「貴様に死なれてはまだ困る」

「フンッ、お互い様じゃ」

 

 様子を見るに仲が良いようだ。


「お前、ザイコールと組んでやがったのか!」

 

 あと少しというところで邪魔された。

 ゴーは腹が立ってくる。


「貴様こそどうした。ヴァリアードに堕ちたと聞いていたが」

「あん? それはザイコールの野郎に」

「相変わらず間抜けだな」

「あっ?」


 かつて同僚だったこの2人。

 お互いの性格が合わないようで、いつもこんな風にいがみあっていた。

 犬猿の仲というやつだろうか。

 年下のクセに生意気なグレンにムカついていた。


 それを思い出し、ゴーのイライラが増加する。 


「フッフッフッ……」


 大人たちがいがみ合う中、


「ちと馬が合ってな。グレンはワシの協力者じゃよ」


 大いなる野望に賛同してくれたのだと。

 グレンに抱えられたまま話を続ける。


「ワシの目的はただ一つ、教王ジャック=ダイアスをこの手で討ち倒す。そしてこの国をワシのモノにすること」


 老人の野望。

 それは壮大だった。


「真の強者が全てを決める、我々だけの理想国家を作る」

「なによそれ!」


 自分がユースタント教の異端者、ヴァリアードであることを告げた。


「我々ハンターは力を持ちながら、なぜ教会の言いなりになる? ワシらがいなければイービルもろくに狩れない連中に」


 こちらはいつも命がけで戦っていると言うのに。

 自分たちは上でふんぞり返って指示をするだけ。

 ふざけている。


「違うわ! 教会がみんなを守ってるの! 教会があるからこそのハンターよ!」


 逆もまた然り。

 プラスが真っ先に否定した。


 老人はそれを鼻で笑う。


「戯言じゃな。ワシは全ての元凶である教王を倒し、今は亡き友、ハンレッド=ヴァリアードの意思を継ぐ」

「なるほど、敵討ちってわけか」

「それもある。だが弱者などどうでもよい。今度はワシが王に、いや神になる番じゃ」

「あなたはただの疫病神よ!」


 ヴァリアードの意思を継ぐ。

 先代が破れた憎き王、ジャック=ダイアスを討つ。

 そして自らが新しい王として君臨する。

 それがザイコールの目的だ。


 それを聞いたプラス。

 自分の上司がとんだ屑野郎だった。

 元から嫌いだったが、話を聞いてさらに嫌悪感が増す。


「話はそれくらいにしておけ。報告がある」

「ん? なんじゃグレン?」


 ここで、グレンから報告があるそうだ。

 腕に抱える老人に対して冷ややかに言う。


「貴様の悪事が全てバレた。いま教王と側近のコッティルが向かっている」

「な、なんじゃと⁉」


 老人はギョッとした。


 ここに教王とその側近が直々にやってくるらしい。

 グレンはそれを知らせるためにここに来たのだ。


「流石はワシの宿敵じゃ。グレン、撤退するぞ」


 いま教王はまずい。

 

「ヤツらはどうする」

「放っておけ。相手にするだけ時間の無駄よ」


 全てがバレた今となってはどうでもいい存在。

 もう2度と関わりたくないだけの忌々しい存在だ。


「そうか」


 グレンは一瞬、2人に目を向けた。


 お荷物を抱えたまま相手にするのは厳しい。

 そう考えたのかもしれない。

 すぐに背を向けた。


「父さん、どうして……」


 父親がヴァリアードだった。

 レクスは膝から崩れ落ちる。


 そんな娘の様子を気づき、冷ややかな目を向けた。


「レクス、そんな所で何をしている」

「あっ……」

「スターバードを倒すまでは顔を見せるなと言ったはずだ」


 父親を前にして怯えるように身体を震わせている。


 自分の子どもにこんなに冷たく接するのか。

 そう思い、アッシュがグレンを睨む。


「やれやれ、相変わらずじゃな」

「ヤツはなんだ。なぜ俺を睨む」


 娘の隣にいる子どもがなぜか睨んでくる。


「あれが例の小僧じゃよ」

「アイツが、似てるな」

「じゃろう」

「ヤツと関係があるのか?」

「ほう、やはり気になるか。あとで話してやろう、ゆっくりとな」


 グレンも睨み返す。

 それはまるで、因縁の相手を見るかのような目つきだ。


「待ちなさい! このまま逃がすと思ってるの!」


 プラスの強い声。


「そうだ。逃げるってんならザイコールは置いていけ!」

 

 ゴーも続く。


 そこの動けない老人だけは絶対に逃さない。

 彼をこちらに引き渡すのなら、命だけは助けてやるとグレンを脅迫した。


 2人を前に、グレンはなお冷静だった。


「やめておけ。消耗しているのは見て分かる」


 こちらがその気になれば、荷物を捨てていつでもやれる、と。


「貴様がヤツの兄妹か?」

「だったらなによ? あなたには関係ないわ!」


 プラスはイラッとする。

 亡き兄のことは大好きだが、比べられるのは嫌なのだ。


 そんな彼女を、グレンは品定めするかのように見て、


「少しはやるようだ。貴様はいずれ俺が倒す」


 宣戦布告した。


「はあ? 何よいきなり」


 なぜ初対面の人間にそんなことを言われないといけないのか。

 

「これは宿命だ。貴様を倒して俺が決着をつける。レクスには荷が重かったようだ」

「父親までそんなことを言うのね」


 お家同士の争いなんて心底どうでもいい。

 親たちもそうだったが、嫌悪感すら覚える。

 仲が良いアッシュとレクスを見習ってはどうか。

 プラスはそう思う。


「手負いの貴様とやっても意味がない。勝負はお預けだ」

「知らないわよ、そんなこと!」

「命拾いしたな、次は覚悟しておけ」

「あなた、頭おかしいんじゃないの?」


 話が通じない。

 これが両家の宿命。


「アッシュよ。どうじゃ、ワシのとこに来んか?」


 突然、ザイコールからの勧誘を受けた。

 アッシュは驚く。


「はあ!? あなたまで何言ってるのよ! さっきアッシュを殺そうとしてたじゃない⁉︎」


 保護者がうるさいが無視する。


「お主は中々見所がある。ワシが強くしてやるぞ」

「そんなのお断りよ!」

「ついて来ると言うなら、お主について知ることを全てを話す」

「ダメよ! わたしが許さないわ!」

「望みはなんじゃ? ほれっ、言うてみい。なんでも叶えてやるぞ」


 冗談ではなさそうだ。


「アッシュ! 今度あなたの好きなモノをなんでも買ってあげる! 何個でいいわ!」


 しかし、


「なに言ってるのさ、行くわけないだろ」


 キッパリ断った。

 なぜわざわざ怖い人のところに行かなければならないのか。

 意味不明だった。


「そうよ! 行くわけないでしょう!」


 プラスは一安心して加勢する。


「残念じゃ。グレン、行くぞ」

「さらばだ、スターバード」


 グレンが背を向けた。


「いつでも待っておるぞ。ワッハッハッハッハ!」


 ザイコールを抱えたまま、破裂(バースト)で逃走した。


「待ちなさい!……うっ⁉」


 追いかけようとしたプラス。

 だが突然、フラッと地面に倒れ込んでしまう。


「プラス!」


 アッシュがあわてて駆け寄った。


「落ち着け。ただの疲労だ。緊張が解けて気を失ったんだろう」


 相当無理をしていたのだろう。

 グッタリとしたまま動かない。

 ゴーはまるで他人事のように言う。


 ──ドドッ!


 急に大きな音がした。


「な、なにさ⁉」


 突然、4人のいる空間が大きく揺れる。


「どうなってやがる⁉」

 

 ここに来るまでにゴーが、がむしゃらに地面を掘りまくっていた。

 そのせいで上にある教会が崩れ落ちようとしていた。


「よく分からねえが逃げるぞ!」


 ゴーは倒れているプラスを担ぐ。


「そこのお嬢ちゃんは大丈夫か⁉」

「あっ、レクス!」


 放心状態のレクスを呼びかけても反応がない。


「仕方ねえ。コイツも俺が担ぐ。さっさとズラかるぞ!」

「わかったさ!」


 ゴーが少女2人を担ぎ、アッシュと掘り進めた穴に向かって走る。


「早くしろ!」

「わかってるさ!」


 今にも崩れそうな勢い。

 地下室から必死に逃げる。

 

 アッシュが遅い。

 アッシュも担いで、ゴーが一人で走り出す。


「崩れる、ゴー! もっと早く!」

「うるせえ! 黙ってろ! 余計な体力を使わせるんじゃねえ!」


 やがて、上にある教会が崩れ落ち、地下室ごと潰された。

 

 巻き上がる砂煙の中、


「ハア……ハア……危ねえ」


 ギリギリで教会から脱出した。


 疲れたゴーは、地面に倒れ込む。


「すげえな」

 

 そして大きく崩れた教会と、ボッカリと空いた大きな穴を見た。


「プラスとレクスは?」

「ああ、この通り無事だ」


 そう言って、手に持っていた2人の少女を投げ捨てた。


「そっか、よかったさ」



 穴を眺めた。

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