25.敵の正体
突如現れた謎の男。
「お前は、グレン=レオストレイト」
大きく目を見開くゴー。
「生きていたのか、ゴー=ルドゴールド」
グレンと言われた男が、静かにそう言った。
「支部長になったとは聞いちゃいたが、コイツは一体」
現在の第二教区支部長、グレン=レオストレイト。
ここは第一教区で、所属はお隣の教区のはず。
別の支部長がなぜこんなところにいるのか。
「まさか……お前、教区を間違って」
「相変わらず貴様はよくしゃべるな」
「あん?」
ゴーはイラッとした。
「どうやら呼んで正解じゃったな」
耳を疑う。
「分からんか。ワシが呼んだんじゃ、念のためにな」
アッシュはゴーのところにいる。
始末するのは難しいと考え、保険のためにグレンを呼んでいた。
「どうして父さんが……」
一方、遠くから見ていたレクスは、父親の登場に戸惑っていた。
「あれがレクスの」
髪の色や雰囲気が似ている気がする。
アッシュも横で見ていた。
全員が沈黙する中、
「無様だな、ザイコール」
「まったくじゃな。お主のおかげで助かったわい」
「貴様に死なれてはまだ困る」
「フンッ、お互い様じゃ」
様子を見るに仲が良いようだ。
「お前、ザイコールと組んでやがったのか!」
あと少しというところで邪魔された。
ゴーは腹が立ってくる。
「貴様こそどうした。ヴァリアードに堕ちたと聞いていたが」
「あん? それはザイコールの野郎に」
「相変わらず間抜けだな」
「あっ?」
かつて同僚だったこの2人。
お互いの性格が合わないようで、いつもこんな風にいがみあっていた。
犬猿の仲というやつだろうか。
年下のクセに生意気なグレンにムカついていた。
それを思い出し、ゴーのイライラが増加する。
「フッフッフッ……」
大人たちがいがみ合う中、
「ちと馬が合ってな。グレンはワシの協力者じゃよ」
大いなる野望に賛同してくれたのだと。
グレンに抱えられたまま話を続ける。
「ワシの目的はただ一つ、教王ジャック=ダイアスをこの手で討ち倒す。そしてこの国をワシのモノにすること」
老人の野望。
それは壮大だった。
「真の強者が全てを決める、我々だけの理想国家を作る」
「なによそれ!」
自分がユースタント教の異端者、ヴァリアードであることを告げた。
「我々ハンターは力を持ちながら、なぜ教会の言いなりになる? ワシらがいなければイービルもろくに狩れない連中に」
こちらはいつも命がけで戦っていると言うのに。
自分たちは上でふんぞり返って指示をするだけ。
ふざけている。
「違うわ! 教会がみんなを守ってるの! 教会があるからこそのハンターよ!」
逆もまた然り。
プラスが真っ先に否定した。
老人はそれを鼻で笑う。
「戯言じゃな。ワシは全ての元凶である教王を倒し、今は亡き友、ハンレッド=ヴァリアードの意思を継ぐ」
「なるほど、敵討ちってわけか」
「それもある。だが弱者などどうでもよい。今度はワシが王に、いや神になる番じゃ」
「あなたはただの疫病神よ!」
ヴァリアードの意思を継ぐ。
先代が破れた憎き王、ジャック=ダイアスを討つ。
そして自らが新しい王として君臨する。
それがザイコールの目的だ。
それを聞いたプラス。
自分の上司がとんだ屑野郎だった。
元から嫌いだったが、話を聞いてさらに嫌悪感が増す。
「話はそれくらいにしておけ。報告がある」
「ん? なんじゃグレン?」
ここで、グレンから報告があるそうだ。
腕に抱える老人に対して冷ややかに言う。
「貴様の悪事が全てバレた。いま教王と側近のコッティルが向かっている」
「な、なんじゃと⁉」
老人はギョッとした。
ここに教王とその側近が直々にやってくるらしい。
グレンはそれを知らせるためにここに来たのだ。
「流石はワシの宿敵じゃ。グレン、撤退するぞ」
いま教王はまずい。
「ヤツらはどうする」
「放っておけ。相手にするだけ時間の無駄よ」
全てがバレた今となってはどうでもいい存在。
もう2度と関わりたくないだけの忌々しい存在だ。
「そうか」
グレンは一瞬、2人に目を向けた。
お荷物を抱えたまま相手にするのは厳しい。
そう考えたのかもしれない。
すぐに背を向けた。
「父さん、どうして……」
父親がヴァリアードだった。
レクスは膝から崩れ落ちる。
そんな娘の様子を気づき、冷ややかな目を向けた。
「レクス、そんな所で何をしている」
「あっ……」
「スターバードを倒すまでは顔を見せるなと言ったはずだ」
父親を前にして怯えるように身体を震わせている。
自分の子どもにこんなに冷たく接するのか。
そう思い、アッシュがグレンを睨む。
「やれやれ、相変わらずじゃな」
「ヤツはなんだ。なぜ俺を睨む」
娘の隣にいる子どもがなぜか睨んでくる。
「あれが例の小僧じゃよ」
「アイツが、似てるな」
「じゃろう」
「ヤツと関係があるのか?」
「ほう、やはり気になるか。あとで話してやろう、ゆっくりとな」
グレンも睨み返す。
それはまるで、因縁の相手を見るかのような目つきだ。
「待ちなさい! このまま逃がすと思ってるの!」
プラスの強い声。
「そうだ。逃げるってんならザイコールは置いていけ!」
ゴーも続く。
そこの動けない老人だけは絶対に逃さない。
彼をこちらに引き渡すのなら、命だけは助けてやるとグレンを脅迫した。
2人を前に、グレンはなお冷静だった。
「やめておけ。消耗しているのは見て分かる」
こちらがその気になれば、荷物を捨てていつでもやれる、と。
「貴様がヤツの兄妹か?」
「だったらなによ? あなたには関係ないわ!」
プラスはイラッとする。
亡き兄のことは大好きだが、比べられるのは嫌なのだ。
そんな彼女を、グレンは品定めするかのように見て、
「少しはやるようだ。貴様はいずれ俺が倒す」
宣戦布告した。
「はあ? 何よいきなり」
なぜ初対面の人間にそんなことを言われないといけないのか。
「これは宿命だ。貴様を倒して俺が決着をつける。レクスには荷が重かったようだ」
「父親までそんなことを言うのね」
お家同士の争いなんて心底どうでもいい。
親たちもそうだったが、嫌悪感すら覚える。
仲が良いアッシュとレクスを見習ってはどうか。
プラスはそう思う。
「手負いの貴様とやっても意味がない。勝負はお預けだ」
「知らないわよ、そんなこと!」
「命拾いしたな、次は覚悟しておけ」
「あなた、頭おかしいんじゃないの?」
話が通じない。
これが両家の宿命。
「アッシュよ。どうじゃ、ワシのとこに来んか?」
突然、ザイコールからの勧誘を受けた。
アッシュは驚く。
「はあ!? あなたまで何言ってるのよ! さっきアッシュを殺そうとしてたじゃない⁉︎」
保護者がうるさいが無視する。
「お主は中々見所がある。ワシが強くしてやるぞ」
「そんなのお断りよ!」
「ついて来ると言うなら、お主について知ることを全てを話す」
「ダメよ! わたしが許さないわ!」
「望みはなんじゃ? ほれっ、言うてみい。なんでも叶えてやるぞ」
冗談ではなさそうだ。
「アッシュ! 今度あなたの好きなモノをなんでも買ってあげる! 何個でいいわ!」
しかし、
「なに言ってるのさ、行くわけないだろ」
キッパリ断った。
なぜわざわざ怖い人のところに行かなければならないのか。
意味不明だった。
「そうよ! 行くわけないでしょう!」
プラスは一安心して加勢する。
「残念じゃ。グレン、行くぞ」
「さらばだ、スターバード」
グレンが背を向けた。
「いつでも待っておるぞ。ワッハッハッハッハ!」
ザイコールを抱えたまま、破裂で逃走した。
「待ちなさい!……うっ⁉」
追いかけようとしたプラス。
だが突然、フラッと地面に倒れ込んでしまう。
「プラス!」
アッシュがあわてて駆け寄った。
「落ち着け。ただの疲労だ。緊張が解けて気を失ったんだろう」
相当無理をしていたのだろう。
グッタリとしたまま動かない。
ゴーはまるで他人事のように言う。
──ドドッ!
急に大きな音がした。
「な、なにさ⁉」
突然、4人のいる空間が大きく揺れる。
「どうなってやがる⁉」
ここに来るまでにゴーが、がむしゃらに地面を掘りまくっていた。
そのせいで上にある教会が崩れ落ちようとしていた。
「よく分からねえが逃げるぞ!」
ゴーは倒れているプラスを担ぐ。
「そこのお嬢ちゃんは大丈夫か⁉」
「あっ、レクス!」
放心状態のレクスを呼びかけても反応がない。
「仕方ねえ。コイツも俺が担ぐ。さっさとズラかるぞ!」
「わかったさ!」
ゴーが少女2人を担ぎ、アッシュと掘り進めた穴に向かって走る。
「早くしろ!」
「わかってるさ!」
今にも崩れそうな勢い。
地下室から必死に逃げる。
アッシュが遅い。
アッシュも担いで、ゴーが一人で走り出す。
「崩れる、ゴー! もっと早く!」
「うるせえ! 黙ってろ! 余計な体力を使わせるんじゃねえ!」
やがて、上にある教会が崩れ落ち、地下室ごと潰された。
巻き上がる砂煙の中、
「ハア……ハア……危ねえ」
ギリギリで教会から脱出した。
疲れたゴーは、地面に倒れ込む。
「すげえな」
そして大きく崩れた教会と、ボッカリと空いた大きな穴を見た。
「プラスとレクスは?」
「ああ、この通り無事だ」
そう言って、手に持っていた2人の少女を投げ捨てた。
「そっか、よかったさ」
穴を眺めた。




