24.神激
ギリギリのところで助けに来てくれた。
先ほどまで上で戦っていた2人。
駆けつけたエリーが割って入り、戦闘を中止させた。
こっぴどく叱られるゴー。
それを茫然と見ていたプラス。
ボロボロの2人を治療している間に、マルトンが慌てた様子でやって来て、アッシュたちが危ないと伝えた。
そして、ゴーが地下を強引に掘り進め、なんとか間に合った。
「アッシュは大丈夫なの?」
レクスに聞いた。
先ほどからぐったりしている。
「ああ、オーブの使い過ぎだ」
「そう。ありがとね。アッシュを守ってくれて。もう少し任せてもいいかしら」
前を向きながら言う。
「やれやれ、とんだ邪魔が入ったわい」
目先にいるのはザイコール。
服に着いた汚れを払いながら壁から出てくる。
「よお、最近よく会うじゃねえか」
ゴーが話しかけた。
この老人とは前に、アッシュを助けた時に会っていた。
「なんじゃ、ワシは会いとうないぞ」
「おいおい、傷つくじゃねえか」
「貴様はガキの頃からそうじゃ。身勝手でワシを困らせる。上で共倒れになっておればよかったモノを」
何かと迷惑な存在。
だから色々擦り付けて闇に葬ってあげたのに。
「安心しろ。ソイツも今日でおしまいだ」
ゴー的には全てどうでもよかった。
早く目の前の老人をぶん殴りたい。
そのためにここに来たのだから。
腕を組んで戦闘態勢に入る。
「解釈の一致じゃな」
ザイコールも構えた。
「悪いがここは一人でやらせてくれ」
プラスに申し出る。
「はっ?」
「二対一は性に合わん」
「イヤよ。生憎、わたしにそんなポリシーはないわ」
と言って、プラスは構える。
気が済まないのは彼女も同じだ。
「ほう、同時に来るか。流石にワシでも厳しいな」
2人を相手取るのは少々厳しい局面。
そこでザイコールは懐から丸い球を取り出した。
「これ抜きでの話じゃがな」
体内に取り込み始める。
「アイツ、何してるのよ」
怪しい行動。
プラスが尋ねた。
「あの野郎、クロスオーブを使う気だ」
「クロスオーブ? なにかしら?」
聞き慣れない単語に首を傾げる。
説明してほしいようだ。
「ああ、一体どこから拾って来やがった」
クロスオーブとは神さまの力が宿ったオーブだ。
自分の体内にあるオーブと重ねることで強大な力を得ることができる。
その効果は一度使えば、CランクハンターであってもAランク相当の力を発揮出来るようになる。
世界でたったの2つしか存在しないと言われる超レアな代物だ。
その内の一つをザイコールが持っていた。
「フッフッフッ」
やがて、終わったようだ。
身体から神々しい光を放ち、先ほどの老体が若干若返ったように。
「ヤバそうね」
強さの段階が変わったことは明らかだ。
敵から発せられる、ただならぬ雰囲気を感じ取る。
「俺は一人でやってもいいんだぞ」
2人はオーブを出す。
「──雷神電来」
「──全身丸盾!」
初めから全開だ。
2人の力が急激に増大する。
鋭い眼光のプラス。
まだ未完成なため、時おり身体から雷が漏れている。
ゴーの身体は荒々しいオーブで身を包まれる。
対して、ザイコールは余裕なのか神々しい笑みを浮かべた。
それは神さまにでもなったかのように、愚かな民を見降ろすかのように。
「来るがいい」
神の合図で戦闘が始まった。
「行くぞ!」
ゴーが突進。
それに合わせプラスが、仲間を巻き込みオーブを大量連射。
ザイコールは空中に避難。
ゴーはすかさず破裂を出し、タックルの軌道を修正した。
ザイコールは吹っ飛ばされ、壁の中に埋まってしまう。
「今だ、ぶん殴れ! ガハハハハッ!」
壁に埋まった神さまを殴りまくる。
そこにプラスも参戦。
ゴーの荒々しい拳が地面を深く削っていく。
プラスのオーブが周囲に放電される。
しばらく2人がかりでボコボコに殴っていたが、
「なに⁉」
いない。
気がつくと敵は消えていた。
「お返しじゃ!」
近くの地面が盛り上がったかと思うと、そこから出てきた。
背後についたザイコールは、オーブを拡散してぶっ放す。
プラスはいち早く破裂で回避、瞬時にその場を離れる。
「うおっ⁉」
この中では鈍足なゴー。
無情にも神のオーブの餌食となる。
「うおおおおおおおお⁉」
腕を固めてガードするも、その凄まじい火力を前に動くことができない。
そんな彼を犠牲に、背後を取ったプラスが光撃で殴りかかる。
が、神は全てを見通している。
と言ったところか。
ザイコールは瞬時にゴーへの攻撃を中断し、プラスと撃ちあった。
「ワシに勝てると思うてか!」
神の力は強力だ。
プラスが徐々に押され始めた。
「俺を忘れるなよ、ザイコール!」
しかし、そこにゴーも参戦。
さすがに分が悪くなる。
2人の猛攻を凌ぐことができず、たまに被弾してしまう。
スキをついたプラス。
怯んだところにアッパーを繰り出し、空中に跳ね飛ばした。
神さまはそのままクルクルと回転し、天に昇っていく。
しかし、プラスは分離で追撃し、還るのを許さない。
「チイッ!」
ザイコールはすぐに体制を立て直し、破裂で空中に飛んでかわすが、
「捕まえたぜ!」
ガシッ! 先回りしていたゴーに捕まってしまう。
「俺ごとやれ!」
言い放つ。
ザイコールはゾッとし、振り払おうとするも、ガッチリ掴まれてどうにもできない。
「ええい! 気色わるい! 放せい!」
「誰が放すかよ! じっとしやがれ!」
モガモガしている。
プラスが両手をかかげ、オーブを収集。
雷が混ぜながら徐々に大きくしていく。
周囲にその余波が流れ出る。
「──超・雷電分離」
青い光がバチッと弾ける、轟音の鳴る巨大なオーブを作り上げた。
それを忌まわしい男ども2人に叩きつけた。全力で。
本当に仲間なのか。
ザイコールは一瞬、自分を拘束している男を見た。
しかし、
「すうううううう!」
急に大きく、息を吸う。
「ハアアアアアア!!!」
口を大きく開け、凄まじい勢いでビーム状のオーブが放射された。
それがプラスの奥義を打ち消した。
「わっはっは! これが神の力じゃ!」
なんて下品なオーブなのか。
プラスは驚きよりもドン引きの方が強い。
「いつまでくっついておるんじゃ、離れい!」
ゴーが吹っ飛ばされ、再び戦闘が始まった。
──アッシュとレクス。
2人は大人たちの戦いをポカンと見ていた。
あまりにも次元が違うために言葉が出ず、ただ見ることしかできなかった。
「プラスってあんなに強かったのか」
アッシュは本気のプラスを見て驚く。
マルトンの話を聞くにそれなりに強いのだろうとは思っていた。
だが予想を遥かに超えていた。
彼の言う通りあれはまさしく雷神だ。
これからはちゃんと朝早く起きることを心に誓った。
「いや、ワタシも初めてみる」
レクスは疑問に思っていた。
たしかBランクのはず。
だが今の彼女は、Aランク2人に対して全く遅れを取っていない。
あれは完全にAランクの実力だ。
もう2度とケンカをふっかけないことを心に誓った。
──戦いは終わりを迎えようとしていた。
「うがっ⁉」
ザイコールとしては、いくら二対一とはいえ、クロスオーブを使用した自分がここまで追い込まれるとは思いもしなかった。
ゴーならまだ分かる。
だがプラスがここまで強いのは誤算だった。
やがて、壁に叩きつけられて動かなくなった。
クロスオーブも解除され、ただの萎れた老人に戻ってしまう。
「終わりだな、ザイコール」
ゴーは腕を組んだ。
プラスも巨大なオーブを作る。
「少しは年寄りを労わったらどうじゃ……」
その壮大な光景に、ザイコールが泣き言を漏らす。
完全に戦意を喪失していた。
2人は許さない。
大事なアッシュを傷つけた。
仲間を殺された挙句に犯罪者にされ、間抜けを晒した。
怒りを目の前の老人にぶつけるべく、容赦なく奥義を発動する。
「──超・雷電分離」
「──全身丸盾!」
と、その時、
「──偽りの聖剣」
もの凄い振動音が。
突如として、強烈な殺気。
2人の頭上から塔のような巨大な光が差し迫る。
垂直に振り下ろされた。
ザイコール含め3人が、その爆風に巻き込まれていく。
爆心地から衝撃がほとばしり、周囲のモノを空気ごと吹き飛ばす。
今度は一体なんだ。
ギリギリの所で難を逃れた。
突然の襲撃に、プラスは動揺を隠せない。
「コイツは……いや、このオーブはまさか」
ゴーも同じく。
やがて煙が晴れ、その人物が姿を出す。
青い髪をした長身の男。
瀕死のザイコールを片手に持つ。
冷酷な雰囲気を身に纏う。
「グレン=レオストレイトだと⁉」
目を見開いた。




