23.絶体絶命
引き続き逃亡する2人。
「レクス、もういいからさ」
「ダメだ! 今のお前はただの足手まといだ!」
様子がおかしい。
「でもさ、これはちょっと思うところが」
「それどころではないだろ!」
ザイコールから逃げている。
もう遊びは終わりと言わんばかりに、本気で息の根を止めにかかっていた。
全力で逃げるしかない。
「いい加減オーブは使えないのか! そろそろ限界だぞ!」
おんぶしていた。
レクスがアッシュをおんぶしながら、破裂で移動していた。
アッシュは技の反動でしばらくオーブが使えない。
丸腰なためこうするしかなかった。
「──逃がさんぞ!」
ザイコールの声。
「後ろ! すぐ後ろまで来てる!」
「分かっている! もうしゃべるな! 余計な体力を使わせるな!!!」
かなり近いところまでザイコールが迫っていた。
さらに加速して距離を縮めてくる。
「分離!」
アッシュがようやく回復。
敵の脚部を狙ってオーブを放つ。
運よく命中。
ザイコールがバランスを崩し転げまわる。
「今さ! レクス逃げろ!」
しばらく行くと、また広い空間に出た。
「行き止まりだと⁉」
周りを見渡しても、出口は見当たらない。
引き返そうとしたが、後からきたザイコールに入口を破壊されてしまった。
3人とも閉じ込められて出られなくなる。
「鬼ごっこは終わりじゃな」
とうとう追い詰められてしまった。
「あのさ」
「なんだこんなときに!」
「そろそろ下ろしてほしいんだけど」
丁寧に下ろしてあげた。
2人はオーブを出し、戦闘態勢に入る。
「このワシに勝てると思うてか?」
ザイコールも合わせて構えた。
「行くぞ!」
2人は破裂で突っ込む。
アッシュは光撃、レクスは爆殺光撃で攻撃。
同時に仕掛けた。
ザイコールは2人の猛攻を軽々とかわす。
「まだ子どもじゃな。動きが直線的すぎるわい」
しばらくは子どもの遊びに付き合っていたが、
「捕まえたぞ」
「なっ⁉︎」
ザイコールがレクスの足首を掴む。
「クソッ! 放せジジイ!」
もう片方の脚で老人の顔面を蹴りまくる。
しかし、放そうとしない。
「レクス!」
アッシュが助けに入ろうとするも、
「ほれい!」
狂暴な少女をぶん投げ、アッシュにぶつけた。
2人は綺麗に重なって地面に衝突する。
「クソッ、完全に遊ばれているぞ」
2人とも息が上がっていた。
先ほどの戦いでザイコールは消耗している。
今なら戦えると考えていたレクスだが、その予想は外れた。
「ああ、やっぱり歯が立たないさ」
アッシュの方はすでに体験済みだったが、改めて力の差を痛感する。
「終いか? ならワシから行くぞ」
ザイコールが破裂で接近。
アッシュに向かって光撃を構えた。
「悪魔の左腕!」
とっさに黒い腕を出し、攻撃を打ち消す。
「うぐっ!?」
オーブは消えた。
だが、拳の威力は殺すことができず、後ろの壁まで吹っ飛んでしまう。
「なんと、ワシの光撃を!」
たかだかCランク風情にオーブを消された。
驚くザイコールだが、切り替えが早い。
背後から襲ってきたレクスの存在にいち早く気づく。
「しねジジイ!」
攻撃をスルッとかわし、即座に回し蹴りを入れた。
その動きは老人ができるモノとは思えない。
蹴りを受け、レクスは遠くまで転がった。
「まとめて始末してやる!」
終わらせる。
ザイコールはジャンプして空中で静止。
大きく手を広げる。
そして、両手から出したオーブが拡散され、2人めがけて降り落とした。
「レクス!」
先ほどの攻撃でお腹を押さえて動けない。
アッシュは破裂で降り注ぐオーブを避けながら、少女の元まで駆け寄る。
「──魔王丸盾!」
レクスの頭上に黒い灰のようなモノをぶちまけた。
「なんじゃ⁉」
灰に当たったオーブは砂のように消えていく。
アッシュも灰の下に潜り込み、攻撃をやり過ごした。
またしても防いでみせた。
ザイコールは仰天する。
同時に、見たこともない技を使う少年に、薄く笑みを浮かべた。
「ハア……ハア……」
アッシュは息が絶え絶え。
またも大きな力を使ってしまった。
今のでもう動くことができない。
「すまない、アッシュ」
レクスが、倒れそうになるアッシュの身体を支えた。
「イービルの力をモノにしておるな。良いものを見せて貰ったわい」
ザイコールがゆっくり近づいてくる。
この老人はアッシュのことを知っている。
レクスは睨むが、
「小娘の知ることではない」
そして、右腕をかかげ、巨大なオーブを出した。
「なっ⁉」
そのあまりの大きさに、レクスは目を見開く。
「小僧を置いて去れ、レオストレイトの娘」
「なに⁉」
「分からんか、命だけは助けてやると言っておるんじゃ」
今日見たことは全部黙ってもらう。
その後、落ち着いた後でいいので、もう一人の小汚い男も連れてきてほしい。
というザイコールの提案だ。
しかし、
レクスはアッシュを放さない。
絶対に渡さないと目で訴えていた。
「出来ればお主は手にかけたくはなかったのじゃが」
一度腕を高くあげ、
「共に逝け!」
目をギュッと閉じた。
──次の瞬間、いきなりあさっての方向の壁が破壊。
「──なにやってんのよ!」
中から一瞬、人影が。
横からもの凄い速さでザイコールをぶん殴り、壁までぶっ飛ばした。
「間に合ったわ!」
プラスだ。
間一髪でプラスがやってきた。
「遅いぞ!」
「ごめんなさい。少し手間取ったわ」
敵から目を離さないで言う。
「──やれやれ、こんなとこに居やがったのか」
もう一人。
壁の中からぬるりと出てくる巨大な腕。
「会いたかったぜ、ザイコール」
ゴーだ。
ギリギリのところで2人が助けに来てくれた。
「アッシュ……」
プラスは、ぐったりと動かない少年を見る。
やっと会えた。
感動の再会を果たそうとしたが、そうはいかないようだ。
「あー、お嬢さん。悪いが前を見てくれ」
「わたしに指図しないで」
「チッ、親切に教えてあげたんだがな」
ザイコールが立っていた。




