表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
23/142

22.神と悪魔

 しばらくして。


 何かに衝突したような、鈍い音が響く。


「──クソッ、なにが起こった」


 頭を押さえるアッシュとレクス。

 2人とも目が回ってピヨピヨしている。


「レクス……」

「ああ、問題ない。お前はどうだ」

「平気さ。うぅ、でもちょっと気持ち悪いかも……」


 うまく立つことができない。

 起き上がるのに苦戦していると、


「──フッフッフッ」


 ザイコールの笑い声。


「おいアッシュ! あれを見ろ!」

「なにさ、まだ頭がくらくらして……なっ⁉」


 アッシュは言葉を失った。

 見上げた先には、こちらに不敵な笑いを向ける黄金の存在。

 光を放つ怪しげな老人が宙に浮いていたからだ。


 ザイコールだ。

 しかし先ほどとはまるで別人。

 そこに神がおられる。

 姿がザイコールでなければ拝んでいたところだ。


「やはりダメじゃな。ガルスは力を持て余す」


 神様がちとぼやく。


「まあよい」


 目を少し左に向けた。


 そこにはアッシュのペットである、例のイービルが転がっている。

 おそらく再起不能。

 見るも無残な姿で倒れている。

 ザイコールの存在感が凄すぎて全く気付かなかった。


「あ、ああ……なんてことさ……」


 飼い主がペットのもとに駆け寄る。


 ユサユサと揺らしても全く反応がない。


 ザイコールにやられてしまい、飼い主をかくまう力が無くなったのだ。

 約束は力及ばす果たせなかった。

 それでも飼い主を守るために必死だったのだろう。

 庇っていた翼は比較的綺麗なままだった。


「うぅ、どうしてこんなことに……」


 ついさっき生まれたばかりだったのに。

 これが片付いたら一緒に暮らそうと約束したではないか。

 アッシュは涙を流さずにはいられない。


「考えられんわい」


 イービルの死を悲しむ少年。

 その奇妙な光景に、ザイコールは額にしわを寄せた。


「安心せい。お主もすぐにあの世に送ってやる」


 時間をかけ過ぎた。

 上の様子も気になる。


「今のワシは慈悲深い。そういう神じゃ。痛みも感じず一瞬で……ん?」


 アッシュが静かに立ち上がった。

 

 悲しみを力に、自身の底に眠る力を呼び起こす。


「──悪魔の左腕(デーモンハンド)


 左腕が黒く変化。

 アッシュが異形の力を解放した。


 名前は昨日、ゴーが考えてくれた。


 ザイコールに構える。


「やめろアッシュ! 無理に決まっている!」


 あれは自分を神と名乗っているヤバい人間。

 相手にしない方がいい。

 レクスが黒くない方の手を握ってそう説得した。


「いいから逃げるぞ!」

「放せよ、コイツをこのままにしておけないさ」

「バカか! もう死んでいる! それにコイツは」


 イービルだろうと何だろうと、もう大切なペットだ。

 もう家で飼うって決めた。

 毎日お散歩にも連れて行くし、ウンウンの時はお掃除だってちゃんとする。

 プラスだってきっと許してくれるはずだ。


「許すワケないだろ! やはりお前はアレだ、 本物のバカだ!」

「アイツの狙いはオレだけ。レクスは逃げろ」

「いつまでふざけている!」

「嫌だ! オレは絶対ここから離れないさ!」

 

 しばらくワーワー言い合っていたが、


「チッ、仕方がない」


 レクスが手の甲からオーブを出した。


「──爆殺光撃(バーニングクラッシュ)


 両手に真っ赤な炎を纏い、戦闘態勢に入る。


「勘違いするな。ワタシの面子がないだけだ」


 自分より弱いヤツを見捨てて一人助かるくらいなら、死んだ方が遥かにマシ。


「レクス」

「ふんっ」


 彼女はそういう人間である。


「神に挑むか」


 愚かなり。

 嘲笑うかのようにザイコールが見下した。


「構えるでない。子ども相手に力を使うほどワシは……ん?」 


 ズズ、ズズズ……


「まだ立つか、悪魔め」


 かなり痛めつけた。

 動ける肉体ではないはずだ。


 アッシュが呼びかけるも、相変わらず反応はない。


 イービルは翼を広げ、自身の大きさを誇示する。

 今までは飼い主たちを守りながら戦っていたため、全力が出せなかった。

 しかし今は違う。

 大きな翼でバッサバサとそうアピっている。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 すごい勢いで標的へ向かう。


 ザイコールは構えた。


 両者は再び衝突し、接近戦が始まる。


 ザイコールの方が何枚かうわてのようだ。

 的確な攻防で相手を攻めている。


 一方のイービルは、駆け引きなどヘッタクレもないと言った様子。

 がむしゃらに攻撃していた。

 先程受けたダメージをまだ引きづっており、動きがあまりよくない。


「ぐはっ⁉︎」


 突然、翼でザイコールをぶん殴った。

 そういう使い方なのか。


 そのまま両翼を含めた4本の腕で、怒涛の連撃を繰り出した。


「うぐっ⁉︎」


 流石の神でも、これは厳しいみたいだ。

 やや防戦気味になってしまわれる。


「図に乗るでない!」


 ザイコールはスキをみて、うっとおしい翼を掴み、


 無理やり根本からちぎり抜いた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 インクのような血が大量に噴き出し、悲痛な叫びをあげる。


「どれ、少し軽くなったか」


 たまらず反撃するも、破裂(バースト)でかわし、瞬時に背後を取る。


 左も頂く。

 もう片方も強引に根元からもぎ取った。


 またインクのように噴き出る。

 辺りはその返り血で染まり上がる。


 そのまま背中から光撃(ハード)で殴り抜き、壁際まで吹っ飛ばした。


「フッ、みすぼらしいモノよ。のう、悪魔や」


 グッタリとしたまま動かない。

 翼が無いせいか、随分と小さく見える。

 

「うわあああ! やめろおおお!」

「よせ! 行くな!」

「放せよ! オレのっ、オレの友だちがああああ!」


 駆け寄ろうとするアッシュ。


「なんじゃあヤツは。まだやっておるのか」


 ザイコールは呆れた。


 イービルが現れた。

 

 飼い主の言葉には相変わらず反応がない。

 禍々しくお座りしたまま、老人の方を向いている。


 突然、口が裂けるほど大きく開いた。


 黒い光が浮かび上がり、質量が集まっていく。


 密度を高め、徐々に大きくなっていく。


「ぬっ、この気配……まさか分離(リーブ)か」


 次の瞬間、一気に解放。

 ビーム状のオーブを放射した。

 それはアッシュの黒い腕から放たれるアレにそっくりだ。


「いかん!」


 ザイコールは破裂(バースト)で素早く身をひいた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 首を捻らせると、それに応じて光線も角度を変え、薙ぎ払うように追尾する。


 ザイコールは縫うように移動してかわす。


「おのれ! 建物ごと破壊する気か!」


 やたら滅多らに光線を振り回している。

 世界の終わりを連想させるような光景。

 お座りをしていた時とは想像もつかない、世にも恐ろしい怪物へと変貌していた。


 このままでは建物が破壊され、生き埋めになってしまう。

 ザイコールは避けながら光を集中させた。


 黄金に光り輝く巨大なオーブを作り出し、


「死ねい!」


 全力でぶつけた。


 互いのオーブが衝突し、激しく火花を撒き散らす。


 競り合っていたが、やがて黒い光線が打ち負け、


 巨大なオーブが直撃。

 身体ごと押し潰された。


 衝撃の余波が部屋全体を覆い尽くす。


 オーブのエネルギーが消えた時には、周りは火の海に包まれていた。


「ア゛ア゛、ア゛ア゛……」

 

 決したようだ。

 風前の灯。

 イービルは地面に這いつくばったまま動かない。


「生命力だけはいっちょ前じゃな」


 ザイコールがスタッと着地し、ゆっくり近づいた。


「どれ、完全に消滅させてやろう。これもハンターの務めじゃからな」


 次の一撃で葬るべく、手のひらのオーブを圧縮させる。


「終わりじゃ」


 とその時、


「──やめろおおおお!」


 真上から叫び狂ったアッシュが、


 悪魔の左腕(デーモンハンド)を構え、


「うわああああ! 魔王分離(ディモンリーブ)!!!」


 例のごとく、ビーム状のオーブを至近距離からぶっぱなした。


 ザイコールの身体は一瞬で飲まれ、床にボッカリと穴があく。


 少年の容赦のない一撃が、殺意が、老人に向けて放たれた。

 ペットを殺された恨みは何よりも深い。

 

 ちなみに技の名前は、昨日ゴーが考えてくれた。


「ハア……ハア……」


 光線は消えた。

 全てを出し切ったのか、アッシュはヘトヘトだ。

 貫いた穴が、その凄まじさを物語っている。


「ど、どこさ……」


 よろよろとペットの元へ駆け寄った。


 すでに消滅してしまい、その残骸が灰となって積もっている。


 アッシュが灰をすくおうとする。

 しかし、砂のようにサラッと抜け落ちていく。


 目の前の現実に、大粒の涙が溢れてくる。


 非常に短い間であったが、それでも大切なペットだったことに変わりない。

 お別れは突然やってくるモノ。

 悲しい現実を受け止めることができず、一人号泣した。


「そういえばお前……」


 横で達観していたレクス。

 泣き崩れる少年を見て何かに気がついた。


「平気なのか?」

「うぅ、なにがさ?」

「いや、前にそれを使って倒れただろ」


 レクスの指摘。

 前回、魔王分離(ディモンリーブ)とやらを使用したとき、しばらく動けなくなるほど消耗していたはず。

 あの時は家まで送るのにとても苦労した。

 それが今では何ともないご様子で、しかもワンワン喚く元気まである。


「そんなこと、どうだっていいさ」


 それよりも今は一緒に泣いてくれ。

 アッシュは泣きながらに懇願した。


「くだらん」


 レクスは舌打ちする。


「まあいい。それより早くここから出るぞ。ザイコールがまた──」


 突然、近くの床が抜け、上に吹き飛んだ。


 そこからザイコールが上がってきた。


 服が全体的に焼け焦げているものの、致命傷にはなっていない。


「ええい! もう許さん! 絶対に許さんぞ!!!」


 黄金の輝きはもう失っている。

 神ではない、普通の老人に戻っている。

 代わりに顔がとても怖くなっていた。


「あれでダメなのか⁉ 逃げるぞ!」

「うぅ……」

「いつまでメソメソしている! しっかりしろ!」

「うわあああああん!!!」



 逃亡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ