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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
22/142

21.ペット

 場所は少し変わって。

 上の階へきたザイコール。

 逃げたアッシュを探している。

 

「完全に見失ったわい」


 見ての通り捜索は難航していた。


「ちいと不味いな」


 老人はちと嘆く。

 どうしてあの小僧がここにいたのかは不明。

 だが、これはうれしい誤算だ。


 現在、間抜けなゴー=ルドゴールドは、地上で部下のプラス=スターバードと戦っている。

 ヤツがいない今が絶好の機会である。


 同時に問題も生じていた。

 それは、この秘密研究所を見られてしまったことだ。

 あの小僧はここで始末するとして、すでに一匹逃がしてしまった。

 

 さらに厄介なことに、もう一匹のネズミがあのレオストレイトのお嬢さんだ。

 

「どうしたモノか」


 もう歳だ。

 あまり考えたくない。


「ぬっ?」


 そんな風に考えていると、左側の壁から何やら破壊音が聞こえてきた。


 こちらに近づいている。


 耳が遠いザイコールは壁に寄ろうとした。


 とその時、


 突然、左の壁が粉々に吹き飛んだ。

 

「な、なんじゃ⁉」


 真っ黒な手が現れ、巨大な塊がズンムリと出てきた。


 イービルだ。

 ザイコールは目を大きく見開いた。

 なぜここにイービルがいるのか。

 しかもこの威圧感、見るからにヤバめな個体である。


「もしや、じゃがアレは失敗作のはず」


 心当たりはある。

 だが、アレは不完全な存在であったため、実験の過程で石になってしまった。

 仕方なく研究所の一室に保管していたモノだ。

 それがどうして今になって元気に起動しているのか。

 

 その答えはすぐに出てきた。


「──ふう。どこさ、ここ?」


 綺麗に折りたたまれた翼がパカッと開く。

 中から子どもが顔を出した。


「──知らん、まだ地下のようだ」


 もう一人出てきた。


「やはりダメだな、何も分かってないぞコイツ」


 少女がイービルの頭をパシッと引っぱたく。


「う~ん、オレの言葉には頷いてたし。意思疎通はできると思うんだけど」


 少年が叩かれた部位を優しくなでた。


「だから言ったんだ。人の言語を理解できるワケがない」

「きっと道が分からないだけさ。よしよし、レクスのことは気にしなくていいからさ」


 アッシュとレクスであった。

 あれからなぜかイービルとお友だちになっており、ちゃっかり後ろにまで乗せてもらっていた。

 背中はフサフサで意外と快適そうだ。


「全く、お前はいつも変なことばかり……ん?」


 レクスが先ほどから置いてけぼりのザイコールの存在に気付いた。


「おいアッシュ……んっ!」


 隣にいる少年の肩を叩き、老人を指さした。


「なにさ?……あっ」


 アッシュも気がつき、


「んっ!」


 同じく指をさす。


 ズズズ……。


 イービルが向きを変えた。


 敵を補足したようだ、狙いはもちろん、


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」


 ザイコールだ。

 禍々しい咆哮を放ち、空間が大きく振動する。


 子どもたちは背中に隠れると、翼が綺麗に折り畳まれていく。


 飼い主は避難した、準備完了。


 イービルがものスゴイ勢いで襲い掛かる。


「なんじゃとっ⁉」


 色々と頭が追い付かないザイコール。

 ただ一つだけ言えることがある。

 そう、これは歳のせいではない。それだけだ。


「ぬう、丸盾シェル!」


 通路が狭くて躱せない。

 老人はとっさに盾を展開して身を守る。


 しかし、振り上げた腕にいともたやすく破壊され、容赦なく吹っ飛ばされた。


 壁を貫通し、隣の部屋に勢いよく入室する。


「おのれ、無茶苦茶やりおる」


 今の一撃、腰に来た。

 老人は瓦礫を払い、ヨロヨロと立ち上がった。


 突っ込んだ部屋は何も置かれてなく殺風景。

 人を襲うには十分な広さだ。


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」


 イービルも部屋に入り、標的を見るや否や、再度突っ込んできた。


 ザイコール。

 今度は破裂バーストを使って、紙一重で避ける。


 イービルは進路を変え、再び標的に食らいつく。

 その巨体からは考えられないほどの俊敏な動き。

 しつこくピタッと張り付いてくる。


「ちぃっ、うっとおしい!」

 

 中々振り払うことができない。


「いい加減にせい!」


 大振りしてきたところを狙う。

 ザイコールはかわして、オーブを乗せた拳を放つ。


 しかし、身体に触れた瞬間、拳の光がろうそくの火のように消失した。


「なんじゃと……ぐはっ⁉」


 うろちょろするハエをはたき落とすかの如く、イービルが腕を大きく薙ぎ払う。


 ザイコールは吹っ飛ばされ、壁に腰から激突した。


 ぶつかる寸前、丸盾シェルを出して腰を守る。

 すぐ立ち上がり、破裂バーストで向かっていく。


 拳にオーブを纏い、光撃ハードで攻める。


 が、やはり通ようしない。

 撃ち込んだところで全てのオーブが無に返っていく。


 イービルはそっぽを向いたままお座りしている。

 興が失せたのか。

 相手の攻撃にまるで無関心だ。


「がはっ⁉」


 またハエをはたき飛ばした。

 

 ザイコールは壁に腰から激突する。


 この老人は曲がりなりにも第一教区の支部長である。

 だというのに全く歯が立っていない。


「──よっと!」


 スポンッ、アッシュが顔を出した。

 今どうなってるのかが気になり、様子を見に来たのだ。


「ザイコールはどこさ? もうやっつけたのか! えらいさ! よーしよし」


 素晴らしい。

 アッシュはご褒美に頭をナデナデしてあげた。


 飼い主が可愛がってくれている。

 だと言うのに、ペットは相変わらず微動だにしない。


 側から見ると笑顔でナデナデする子どもと、されるがままのイービル。

 控えめに言ってかなり異様な光景だ。


「ぶはっ!」


 瓦礫の中からザイコールが飛び出てきた。

 まだまだ元気だ。


 アッシュはそれに気が付くと、頭を優しくトントンして、


「んっ!」


 また老人を指さす。

 自分はすぐ翼の中に入っていった。


 どうやらこのイービルは、こうやって定期的に指示を与えないと動いてくれないらしい。

 ボーッとしやすい所がネックな性格だ。


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」


 ただし一度指令を出せばこの通り。


 腕を上げて襲い掛かる。


「フンッ!」


 突っ込んでくる時は、事前に雄たけびを上げてくるので非常に分かりやすい。

 ザイコールは上に飛んでかわした。


「おもちゃじゃないんじゃぞ!」


 こういう時の子どもほど恐ろしいモノはない。

 無邪気な分余計に太刀が悪い。

 何をしてくるのか想像もつかないからだ。


 現に今、信じ難いことにイービルを操っている。

 やはり子どもに色々と触らせてはならない。

 老人はしみじみに思う。


 だが、とりあえず目の前の敵をどうにかしなければ。


 ザイコールは両手から大量のオーブを放つ。


 直撃しても爆発はなく、全て蒸発するように溶けていく。

 やはり効果がない。


「まさか、こやつは!」


 オーブによる攻撃が通用しない。

 というよりオーブそのものに効果がない。


 元来イービルは物理攻撃に強く、普通の武器では傷をつけることすら困難だ。

 だからオーブが必要になってくる。

 人間が対抗できる唯一の手段である。


 しかし、コイツにはそれさえも通じない。

 

 ──シュンッ


 突然、イービルが視界から消えた。


「なっ⁉」


 今のは破裂バーストだ。

 それもザイコールが見失うほど精度の高いやつだ。


 急にザイコールの視界が真っ黒に染まる。


 イービルが容赦なく叩きつけた。


「ぶはっ⁉」


 攻撃をもらい過ぎだ。

 このままでは身体が、腰が持たない。

 飼い犬にかまれるとはこの事か。

 

「イービル風情がなめおって! そんなに死にたいようじゃな」


 もうただのイービルとは思うまい。

 倒してしまうのは惜しい気もする。

 だが、いま最も重要なのはあの少年の息の根を止め、この場所を隠蔽すること。


 そう思うザイコール。

 ふと、懐から丸い玉を取り出し、それを胸に押し当てた。


 吸収されるように胸に溶け込んでいく。


 そして、突如として身体から黄金の光が発せられた。


「神の力、とくと受けるが良い」


 

 神々しい輝きを放つ。

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