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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
21/142

20.悪魔復活

 上の階へ。


「どこに行く?」


 入れそうな部屋がいっぱいある。

 アッシュが尋ねた。


「知らん。お前はアレだな、いつもワタシに聞こうとするな」


 少しは自分で考えたらどうだ。

 レクスが素っ気なく返した。


 見ての通り、2人は迷子になっていた。

 敵の追跡を振り切ったまでは良い。

 だが、無駄に入り組んでいるため、どこに行けばいいのか分からない。


「なんだ、なにを見ている」


 今日のレクスはなんだか冷たい気がする。

 今は逃亡の身であるため、ゆったりはできない。

 だが、久しぶりの再会だというのにこの素っ気なさ。


 こっちまで不機嫌になりそう。

 アッシュは後ろでほっぺを膨らませた。

 

「この部屋にするぞ」


 決めたようだ。

 レクスが指をさした先には、ひと際大きな怪しい扉。

 これは子ども心がくすぐられてしまう。


「おい、さっきから何を呆けている。置いていくぞ」


 アッシュは扉を眺めていた。

 

「しっかりしろ!」

「あっ、ちょっと」


 頼りない。

 アッシュの手を掴み、部屋の中に連行する。


 中に入ると、またしても何もないだだっ広い空間であった。

 ハズレだろうか。

 

「なにさ、これ」


 しかし、何かある。


 中央に真っ黒な石碑のようなモノが。

 まるで祭られているみたいな、人の胴体サイズの大きな黒石だ。

 絶対に触ってはいけない。

 子どものアッシュでもハッキリ分かる。 


「ザイコールのヤツ、ここで一体なにをしていた。コイツはなんだ」


 本でも見たことのない未知の物体に、レクスが興味深そうに顔を近づける。


 教会地下にこれほどの施設があることもそうだが、見慣れない光景が多すぎる。

 明らかに実験室。

 それも大規模な研究が行えるほどの巨大なモノだ。


 地上との文明の差をものすごく感じる。

 カルチャーショックだ。

 ザイコールはここで一体何をしていたのだろうか。


「どうしたアッシュ」

「いや、これおかしくない?」

「何を言っている。そんなのは見てわかる。バカなのかお前は」

「そうじゃなくてさ。なんか、身体が引き込まれるような……」

「ワタシは何ともないぞ」


 アッシュが不調を訴えた。

 目の前にある黒石を見ると、身体が吸い込まれそうな嫌な感じがする。

 まるで石に呼ばれているような。

 オカルトの類が苦手なため怖くなる。


「……別の部屋にしない?」


 部屋を出ることを提案した。


「そうだな。ここはろくに隠れる場所もない。移動した方が良さそうだ」


 その返事にアッシュは一安心。


 黒石に背を向けて部屋を出ようとした。

 

 しかし、


「うっ⁉」


 突然、アッシュの左腕に激痛が走る。


 ボワンッと、腕が例のごとく黒くなる。

 アッシュの意思ではない。

 強制的に変身させられた。


 同時に黒石からパキッと亀裂が入り、中からはちきれんばかりの光が漏れ出した。


「どうした⁉」


 苦しそうに腕を抑える少年に、レクスが駆け寄る。


「ここヤバい、早く出た方がいい……」

「言われなくても分かっている。立てるか?」


 今にも何か出てきそうな勢い。

 ここは何も見なかったことにして早く出よう。

 アッシュは身体を支えられながら、その場から離れようとした。


「うぐっ⁉」


 しかし、痛みが急激に増加する。

 これ以上動くな。

 そう宣告されているような感覚を痛みで受け取った。


 絶叫して立つのが難しくなる。


「おい! しっかりしろ! アッシュ!」


 レクスの声が遠くから聞こえる。


 パキッ、パキパキパキパキッ、パキッ


 亀裂が大きくなり、光がさらに溢れ出す。 


 突然、腐ったみたいに崩れた。

 そこから黒い煙が立ち込めた。


 徐々に生物の形を生成し、肉と骨を得る。


 形が明確になり、やがて一体の生き物となった。


 周囲が一斉に闇へと沈んでいく。


「なっ……」


 その禍々しい姿に、レクスは絶句した。


 全体が赤みがかった黒、胴体よりも大きく広がる翼、異常に細長い尻尾。

 無機質のような白い瞳を持つ。

 3メートルはある巨体。


「コイツは……」


 イービルではないのか。


 特徴はよく当てはまる。

 だが、同生物とはとても思えなかった。

 全く別次元に生きる、出会ってはいけない存在。

 

 動けない。

 前を見られない、顔を上げられない。

 ここにいたくない、逃げたい、動いたら死ぬ。目があったら殺される。

 これまで体験したことのない恐怖に支配された。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 突然、生物が咆哮をあげた。

 轟音が部屋を突き抜ける勢い。

 衝撃が全体に広がっていく。


「逃げるぞ!」

 

 戦う意志はない。

 レクスが動き出した。


「おい! 今度はどうした⁉︎」


 しかし、アッシュは動こうとしない。

 その目は震えながらも、生物を一点に見ている。

 何かを覚悟した少年の目だ。


 立ち上がった。


「レクス、先に行け」


 黒い腕を前に出す。


「アレとやり合うつもりか⁉︎ バカなのかお前は!」


 いくらなんでも無謀過ぎる。

 レクスが黒くない方の手を掴んで静止した。


「逃げられる相手じゃないって、分かってるはずさ」

「囮になるつもりか⁉︎ カッコつけている場合じゃないだろ!」


 2人で逃げても助からない。

 だったらせめてレクスだけは。


 最後くらい良いところを見せたい。

 その一心で勇気を振り絞っていた。


「何を言っている。ふざけるのはそのほっぺだけにしろ」

「あうっ」


 しかし、レクスに頬を摘まれた。

 アッシュから変な声が漏れた。


「こんなだらしのない顔のどこに説得力がある!」

「ふぁはふ〜!」

「ワタシより弱いくせに、生意気だ!」

「うう〜〜〜っ!」

「お前を残して助かるくらいなら死んだ方がマシだ!」


 アッシュのふざけた考えを訂正すべく、レクスがほっぺをグリングリンする。


 カッコ良いところを見せるつもりがこんな事に。

 せっかく色々覚悟を決めたのに。

 これでは締まらない。

 アッシュのお顔も締まらない。


「……ん?」


 ここでふと、ある異変に気づく。


 目の前にいる生物を見た。

 この生物、先ほどの咆哮をあげてから一歩も動いていない。


 2人がじゃれ合ってからもう一分は経っている。

 普通ならとっくに攻撃されているはず。

 あの世に送られていてもおかしくない。


 よく見ると、ワンワンみたいにお座りしているようにも見える。


 黒い腕に、何やら強烈な眼差しが。


 もしかして、

 

「んっ」


 アッシュは黒い腕を用いて右の方を指差した。


 ズズズ


 生物が右を向いた。


 左を指差す。


 左を向いた。


 右を、左を、


 右、左、右、左、右、左、


「……おおっ!」



 目を輝かせた。

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