19.秘密の部屋
「わっ! なにさ⁉︎」
「この音、もう始まっているようだな」
「ひえええ⁉︎ あっしまだ死にたくないっス!」
少しさかのぼり。
アッシュ、レクス、マルトンの3人も教会に到着した。
爆発や金属が擦れ合う音、叩きつけるような音が鳴り響く。
建物が揺れている。
ここからでも戦闘の激しさが伝わってくる。
「誰か戦ってるのか」
「ザイコールとゴーではないのか」
「ならプラスはどこにいるのさ」
「知らん。ワタシに聞くな」
「ヒェッ、まさか地下室に待ち伏せっスか⁉」
廊下を走っていると、急に奥の扉が破壊された。
中から椅子やら瓦礫やらが飛び出してきた。
何かバチッとした、青い光が流れ出る。
「ひっ、なんスか⁉︎ 椅子が飛んできたっスよ⁉」
すぐに到着。
怯えたマルトンが先陣をきり、地下室への階段を下る。
続けてレクスも下りた。
アッシュはふと、奥を見た。
誰が戦っているのか気になったからだ。
プラスかもしれない。
そこにいるのかと思い、覗こうとしたが、
「おいアッシュ! 早く来い!」
地下室へ入る。
「──これが地下室?」
「なんだ、また随分と辛気臭いところだな」
地下室というより、モノ置きと言った方がいい。
長い間掃除されていないようでホコリもすごい。
「どこでしたっけねえ~」
マルトンが何かを探している。
「おい貴様、何をして」
「おっ! ありやしたぜ!」
散らばったガラクタをどけると、隠し通路の入り口が出てきた。
通路は真っ暗で何も見えない。
「さっ、これがあっしの発見した地下室の秘密でっせ!」
マルトンは自慢げにする。
「この先には何があるのさ?」
「それは入ったことないんでわからないっス」
「なぜ入らない?」
レクスの質問。
「真っ暗なんで、あっし一人じゃ無理っス。3人で行きやしょう」
気持ちは分かる。
アッシュも暗いのが苦手だ。
「フンッ、くだらん」
レクスは呆れた。
3人はオーブを明かり代わりにして進む。
しばらく進むと出口が見え、そこからまぶしい光が差し込む。
顔を出すと、そこにはただっ広い空間が広がっていた。
その光景に、3人は息をのむ。
「こんな広い場所が地下に……」
「おお! これは世紀の大発見でっせ!」
辺り一面が白い壁に覆われている。
やけに近未来的な建物だ。
「サッパリしているな。一体何のために作ったんだ」
「さあ、わからない」
ハンターの訓練場だろうか、十分に動き回れる広さだ。
「坊ちゃん! こっちに何やら怪しい部屋がありますぜ」
「おい、あまり動くな」
年長者のマルトンが一番はしゃいでいた。
左側にある部屋に勝手に入り、2人も追って入っていく。
「なんスかね、この部屋」
狭くなった。
研究室だろうか。
実験道具のようなモノが散らかっているし、辺り一面に資料が転がっている。
「悪魔召喚の方法?」
アッシュは落ちていた資料にふと目を通す。
しかし、書いてあることが難しくて理解できない。
「怪しい匂いがプンプンしやすねえ」
物色した。
──しばらく調べていた。
ふいに、マルトンの耳がピクッと反応する。
「まずいっスよ、坊ちゃん。誰かこっちに来るようですぜ」
アッシュは耳を澄ませてみる。
たしかに薄っすらとだが、足音が聞こえる。
──カン、カン
この音に聞き覚えがある。
「どうする、レクス?」
「聞く必要があるのか? 隠れるしかないだろう」
身を隠せそうな場所を探すが、
「ちょっと2人とも、あっしの所に来てくんさい」
ふと、マルトンが呼びかけた。
「貴様、こんな時になんだ」
「いいからいいから。ささっ、肩を掴んで」
そう言われ、肩を掴むと、それを確認したマルトンがオーブを出す。
「──擬態迷彩」
すると、3人の身体が周りの色と同化した。
「なにさこれ!」
アッシュは感激する。
まるで、透明人間になったかのようでテンションが上がってしまう。
「しっ! 動いたらダメっス」
「おい貴様、なんだこれは」
「周囲に同化したんでさ。でもよく見ると普通にバレるんで、動いたらダメっスよ」
これもオーブによるモノなのか。
「おお!」
「アッシュ、お前は落ち着け」
「……わかったさ」
注意を受けたアッシュは息を殺して潜んだ。
──カン、カン
人影が階段から姿を現した。
それは老人だ。
(おい、あれはザイコールだぞ)
(なんでここにいるのさ⁉)
(旦那が引きつけているんじゃなかったんスか⁉)
ゴーと戦ってるはずのザイコールがここに来た。
それなら今、上にいるのは一体誰なのか。
ゴーは一体なにをしているのか。
「来て正解のようじゃな」
考える暇もなくザイコールが動き出す。
「侵入した痕跡があるわい」
辺りをくまなく探り始めた。
まずは机の下、次に物置の中。
じっくりと調べている。
3人がいるのは室内の角っ子。
徐々に近づいてくる。
ワザと知らないフリをしているのかと思うほどだ。
(無機物になるっス! あっしは今無機物っス!)
いよいよ老人がすぐ目の前まで迫ってくる。
真下を見られたら終わりだ。
3人は息をひそめる。
心臓の音が聞こえてないか不安になる。
「変じゃな。確かに気配はするのじゃが」
と言って離れていく。
アッシュは胸を撫で下ろした。
あとはこのままいなくなってくれることを願うだけだ。
しかし、隣にいるマルトンの様子が変だ。
(まずいですぜ。そろそろあっしのオーブが切れやす)
(えっ、もう⁉)
(一人ならまだしも……3人はきついっス)
(ふざけるな!)
これを3人同時に使用したことが無かった。
オーブの消費量を見誤ってしまった。
やがて、その小汚い身体が小刻みに震え出す。
(もう無理っス)
シュンッと音を立て、オーブが解除されてしまった。
「そこか!」
アッシュとマルトンが発見されてしまった。
レクスは解除される寸前に、その場を離れて身を隠す。
「ぬっ? お主は」
ザイコールが少年を見てニヤッとした。
「愚かな。自らノコノコとやってくるとは」
獲物を見つけた老人。
さっそくアッシュに向けて、オーブを発射する。
「ヒッ⁉︎」
マルトンとアッシュ。
それぞれ反対方向に身をかわす。
「こっちはどうにかするさ!」
「ヘ、ヘイ! 分かりやした! 坊ちゃんも早く逃げてくだせえ!」
マルトンは戦えない。
なので早々にこの場から離れるよう指示を出す。
「逃がすと思うてか!」
目撃者は逃すまい。
ザイコールがマルトンに構える。
「ヒエッ」
突如、身を潜めていたレクス。
彼女が老人の背後から現れ、光撃で奇襲をかけた。
「ネズミがもう一匹いたか」
手首を掴まれて阻止された。
「ぬっ、貴様はレオストレイトの娘か⁉︎」
「レクス!」
アッシュが両手にオーブを出し、連続で発射。
レクスは掴まれた手を蹴りで振りほどき、ただちにその場から離れた。
ザイコールは丸盾を展開して身を守る。
しかし、辺りの書類が撒き散り、そのまま紙の中に埋もれてしまう。
「逃げるぞアッシュ!」
「わかってるさ!」
階段で上の階へ逃げていく。
「逃がさんぞ、イーナス」
ザイコールが書類の山から出てきた。
薄く笑みを浮かべた。




