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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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1.お願い

「ん、うぅ……」 


 少年は目を覚ました。

 まだ眠たいのか、目をこすりながら辺りを見る。


 部屋の中を見渡す。

 ここがどこだかわからない。

 とりあえず自分の姿を鏡で確認すると、


 そこには小さな男の子が映っていた。

 焦げ茶色のくせっ毛のある髪に、くすんだ緑の瞳をした素っ気なさそうな子どもだ。


「だれさ、コイツ」


 少年の知らない、見知らぬ人物だった。


──コンコン


 突然ドアをノックする音がした。 

 少年は反応し、サッとベッドに入る。

 

 開くドアを見つめる。


「──あら、起きてたのね」


 女の人が入ってきた。

 腰まである綺麗な金色の髪に、晴れやかな水色の目をした凛々しい顔つきの少女だ。


「お隣、いいかしら」


 近くにある椅子を置いて座る。


「体調はどう? どこか痛むところはない?」


 少年は何も答えない。

 いきなり現れたキレイなお姉さんをじっと見るだけだ。

 警戒しているのだろうか。

 何を言っても反応がなく、少女は困ってしまう。


「あっ! まだ名乗ってなかったわね。わたしはプラス、プラス=スターバード。あなたは?」


 少年は答えようとしたが名前が出てこない。

 そればかりか自分が誰なのかも分からなかった。

 家族、生まれ、思い出、何一つ出て来ない

 どんなに振り絞っても頭の中はまるで空っぽだ。


 本当に何も浮かんでこない。

 少年は頭を抱えた。


 そんな少年に、プラスと名乗る少女がゆっくり近づく。

 何やらお顔が気になるようで、腕の隙間から無理やり覗こうとする。


「ん?」


 視線を感じる。

 少年が顔を上げた。


 すると、目と鼻の先にプラスの顔が迫っている。

 びっくりして身を引いた。


 凛々しい顔が追いかけてくる。

 やがてその瞳に捕まった。


「な、なにさ?」


 プラスのする息が顔に当たるほど近い。


 目をジッと見てくる。


 近い、しばらく見つめ合っていたが、


「……やっぱり似てる」

「うん?」

「……なんでもないわ。それよりあなた、名前分からないの?」


 分からない。

 少年はそう伝えた。


「そうねえ……」


 プラスは腕を組み、難しい顔。


「まあ、あんなことがあったら記憶の一つや二つは失くなるわ」


 あんなこと、とは。


「少し話が長くなるけどいいかしら?」


 少年はうなづく。


「いい? 一度しか言わないからね」


 プラスがこれまでの経緯を説明した。

 このユースタント教国には、イービルと呼ばれる人に危害を加える魔物がいる。

 自分はそれを撃退するイービルハンターだということ。


 街に突然現れた巨大なイービルを撃退したら、中から子どもが出てきた。

 その子は発見されてから今日まで3日間、ずっと眠ったままだったこと。

 それがあなただということを伝えた。

 

「もうホントに、すごい大変だったんだから! あなたが出てきた時はすごくびっくりしたわ……ホントに何も覚えてない?」


 少年は首を横に振る。

 申し訳なさそうだ。


「あっ、気にしなくていいわ! おかげで教会からいっぱいお金もらえたから」


 励まそうとするも、少年は落ち込んだままだ。

 このお姉さんの話から自分は人間ではなく、そのイービルとやらではないのかと、子どもながら思っていた。


「人に憑依するイービルもいるし、あなたもきっとそれよ」


 まだ不安そう。


「大丈夫。あなたは人間よ、だってこんなに可愛い子がイービルなはずないわ」


 と言って微笑み、頭をナデナデしてあげた。


 いきなり触れられた少年は、身体が反射的にビクッとしてしまう。

 思わず手で、頭にある手をパシッと払う。

 

「あら、せっかく慰めてあげてたのに」


 顔が赤い。

 少年はバレないようにそらした。


「はいこれ! あなたのよ。返しておくわ」


 ナデナデして元気になってくれた少年に、安心したプラスが何か差し出した。

 それは手のひらに収まる金属のプレートのようなモノ。

 泥まみれでひどく汚れている。


「気を失ってたあなたが大切に握りしめていたの。それになにか書いてあるわ」


 何か書いてあるが、よく見えない。


「たぶんだけど、あなたの名前が書いてあったはずよ」


 名前の部分が塗り潰されて読めない。

 プレートには年齢が10歳とだけ記載されている。


「10歳か、わたしと結構離れてるわね」


 プラスは15だと言う。

 15なのか、自分は10でプラスは15。

 少年はプラスを見ていたが、


「どこを見てるのかしら?」


 なにか勘違いしたのか。

 今までと声のトーンが違う。

 自身のまだ薄い胸を腕で覆って、少年をにらみつけた。


 少年がまた顔をそらす。

 そちらと同じように相手を見ていただけ。

 なぜ一方的に怒られるのか分からない。


「フン、まだまだこれからよ」


 そう言ってプラスは睨んだままであったが、10秒ほど経って、元のお顔に戻りある提案を持ちかけた。


「それで、あなたこれからわたしの家に来ない? っていうかわたしがもう引き取ることになってるの。行く当てがあるのなら別だけど」


 話が勝手に進んでいる。

 しかし行く当てがないのもまた事実。

 よく分からないがそうするしかない。


「じゃ、決まりね」


 初めからプラスが引き取る事になっていた。

 でも一応確認を。

 少年からも許可をもらっておけと教会に言われていたからだ。


「それでね、あなたにちょっとしたお願いがあるのだけど」


 プラスが身体をモジモジさせる。

 よほど頼みにくいことなのだろうか。

 上目遣いで少年を見つめた。


「ハンターになってくれないかしら?……お願い」


 静寂。


「大丈夫。恐くないから、ねっ?」


 少年は目を点にして固まる。


 まあそうなるだろう。

 プラスはとりあえず話を進めた。


「ハンターは人手不足なの。まあ、危ない仕事だから仕方ないんだけどね」


 多くが一人前になれず、命を落としてしまうそうだ。

 負傷して戦えなくなる者、イービルが恐くなって逃げ出す者など、とにかく後続が育たない。


「だから一人でも人手が欲しいの。見たところあなた才能ありそうだし。大丈夫! わたしが死なないように特訓してあげるから」


 少年は不思議そうに聞いてる。

 ハンターがどうこうとか、正直あまりよく分かっていない。


「あなた何気にすごいのよ? イービルに憑依された人はほとんど死んじゃうし、生きていたとしても重い後遺症が残るんだけど……」


 早口で力説。


「あなたの場合、憑依されても寝込んだだけでピンピンしてるじゃない? だからイービルに対抗する素質は十分あると思うのよ」


 そう言いながら目をキラキラさせて少年を見た。

 目の前の子どもに相当期待しているようだ。


「どう? ハンターにならない?」


 簡単に承諾していいものか。

 とりあえず少年は悩んでみる。


「これでもハンターは高給なの。イービルを倒すとお金がもらえるからお金には困らないわ!」


 少年は悩む。


「好きなものも好きなだけ食べられるわ」


 悩む。


「他には……あっ! 女の子にモテるかも!」


 悩む。


「はあ、そうよね……」


 プラスはガックリ肩を落とす。

 それもそうだ。こんな小さな子にこんなことをお願いするのもどうかしてる。

 そう思って諦めようとしたが、


「……なる」


 少年がそう言った。


「いいの⁉︎ ホントに⁉︎」


 プラスが勢いよく小さな肩を掴む。

 少年はいきなり触れられてビクッとする。


「いい? 男に二言はないわよ?」


 ない。


「やったー! ありがとね!」


 プラスが嬉しそうに手を握ってきた。

 よく分からないが、喜んでくれたのなら良いと少年は思う。

 

「……コホン」


 しばらくはしゃいでいたプラスだが、落ち着いてまた話を始める。


「もう一つ、あなたに頼みたいことがあるの」


 まだあるのか。

 少年の眉が少しだけピクついた。


「フフフ、わたしの夢についてよ!」


 勝手に語りだした。

 ハンターが足りないのは新人を育成する機関がないからだと。

 だから自分がハンターを育成するためのギルドを作りたいと。

 まるで子どものように楽しく語る。


「あなたもわたしの夢に協力してもらうわ、いいわね!」


 少年はコクッとうなずく。

 よく分からないが、要はそのハンターとやらになればいいのだろう。


「それじゃ、あなたはわたしの家に来なさい。その間、ハンターの特訓とか周りの事とかいろいろ教えてあげる」


 話もまとまり、さっそく移動する。

 少年に動けそうかを確認。 


 しかし、プラスは椅子から立ち上がり、ハッとする。

 

「そういえばあなたの名前も決めないとね。いつまでも『あなた』って呼ぶのもアレだし。う~ん、そうねぇ〜」


 そう言ってまたじっと見た。

 少年はこの攻撃にも慣れてきたようで、今度は顔色に変化がない。


「決めた! あなたの名前はアッシュにするわ。アッシュ=スターバードよ」

「アッシュ?」

「そう、良い名前でしょ? はい!」


 プラスが手を差し伸べた。


「なにさ?」

「握手よ、よろしくの握手。ほら手!」


 少しの間、出された手を見ていたが、


「……よろしく」

「よろしくね、アッシュ」



 仲良く握手した。

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