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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
18/142

17.プラス 対 ゴー

 プラス、ゴー

 互いに戦闘態勢に入る。


 張り詰める空気の中、


「おお! ひょっとしてプラスか⁉ でかくなったなあ!」


 ゴーが話しかけてきた。


「母親に似て美人になったもんだ」

「は?」

「ああ、だが胸の方は遺伝しなかったようだ。やれやれ」

「なんですって!」


 敵のクセに馴れ馴れしい態度。

 プラスはイラッとする。


「あん? 覚えてねえのか? 昔あんなに遊んであげたじゃねえか」

「さっきから何を言ってるのかしら。わたしはあなたのことなんて知らないわよ」

「なっ、なんだと⁉」


 完全に忘れられているとは思いもしなかった。

 ゴーはショックを受ける。


「俺の髪をあんなにむしり取りやがっただろうが。覚えてねえのか」

「わたしがそんなことするワケないでしょう」


 ガックリと床に手をつき、何かブツブツと嘆いている。


「それよりあなたがゴーね! 聞きたいことが山ほどあるわ!」

「それよりだと⁉」

「アッシュはどこにいるの! 答えなさい!」


 アッシュと聞いたゴー。


「……ほう」

 

 途端に悪い顔になる。


「さあな、教えないと言ったらどうする?」

「無理やり吐かせるわ」

「生意気なとこは変わってねえな。おじさん嬉しいぞ」


 気持ち悪っ。

 プラスがいきなりオーブを放つ。


 予想通りの行動でゴーはニヤッとなる。

 

 戦いが始まった。


 ゴーは迫るオーブを軽々と弾く。

 しかし前を見ると、プラスの姿がない。


「おおっ⁉」


 プラスは今の一瞬で破裂(バースト)を使い、敵の懐まで潜っていた。

 その両手はすでにオーブを纏っている。


 プラスの光撃ハードがゴーの身体につき刺さる。

 さらにそのまま数発殴り、壁までぶっ飛ばした。


 壁の崩れた破片がバラバラと落ちる。


「おいおい、いきなりかよ」


 効いていないのか。

 ゴーは立ち上がり、壁からあっさりと出てきた。


「残念だったな。この程度じゃ俺は倒せねえ」

「そうかしら? あなた、鼻から血が出てるわよ」

「なんだと⁉」


 あわてて確認したが、鼻血なんて出ていない。


 一瞬気を取られた相手のスキをつき、プラスは再び接近。

 先ほどと同じように何発も殴りつけた。


「ぐっ⁉ クソが!」


 それはアッシュの光撃(ハード)とは桁違いの威力だ。

 ゴーもダメージを隠せない。

 

 一度距離を置こうとしたが、


「ぐっ⁉︎ 動かねえ!」


 身体が動かない。

 まるで感電したように痺れている。


 そのままプラスが横から蹴りをお見舞い。

 壁まで叩きつけた。


「終わりよ!」


 早くアッシュの居場所を吐かせる。 

 プラスは右手にオーブを出し、それをどんどん大きくしていく。

 オーブに雷を纏い、バチッとうるさく音が鳴る。


 その音を聞いたゴーが、壁からひょっこり顔を出す。

 

「なんだ⁉︎」


 そこには巨大な光の玉を、片手でかかげるプラスがいた。

 オーブのエネルギーが雷となって放電される。


「──雷電分離プラズマボルト!」


 思いっきり叩きつけ、ゴーの身体がプラズマに吞まれていく。


「うおっ⁉ おおおおおお!?」


 教会の一階は巨大なオーブで埋まり、その轟音とともに辺りの物を吹き飛ばす。


 プラスはその様子を無言で見ていた。

 オーブ製のプラズマが消えるまでは相手を確認できない。


 やがて少しずつ雷が小さくなり、


「──ふぅー、いきなりかましやがって」


 ゴーが現れた。

 その肌は至る所が焦げ、プスプスと煙を上げる。

 だが見た目とは裏腹に、薄気味悪い笑みを浮かべていた。


「……あまり効いてなさそうね」


 倒せたとは思っていなかった。

 だが、想定よりダメージがない。


「そうでもねえよ。にしてもすげえな。オーブに雷を混ぜてるのか」

「褒められても全く嬉しくないわ」

「チッ、可愛くねえ」

「可愛いわよ」


 オーブは元々爆発する性質があり、それだけでも十分強力である。

 レクスの爆殺光撃バーニングクラッシュはその性質を利用し、手の甲にオーブを乗せて裏拳で攻撃する技だ。


 プラスの場合は、雷を混ぜることでさらに威力を高めている。

 また、プラスのように別の性質をオーブに入れることは、並大抵のことではできない。

 

 相手はそんな世にも珍しい雷のオーブの使い手。

 ゴーは立ち合えてとても嬉しそうだ。


「そういえばお前、昔から雷を見るのが好きだったもんな。それをオーブで表現するとは大したもんだ」

「知らないわ、気持ち悪い」

「流石に今のを何発も食らうのはまずい。こっちもそろそろ行くぞ」


 ゴーは手を広げてオーブを出した。

 それは力強くやけに存在感がある。


 来る。

 相手は元Aランクハンター。

 伝説と呼ばれた支部長、ゴー=ルドゴールド。


 その実力はどれほどのものか。

 なんであれ警戒を怠るわけにはいかない。

 プラスは敵の凄まじいオーブに身構える。


 オーブの波が徐々に激しくなる。

 丸いはずのオーブがトゲ鉄球のような形に。

 前にかかげて、見せびらかすように構えた。


「なによ、それ」

「ああ、今思いついた。こんなのでくたばらないでくれよ! スターバード!」


 足裏からオーブを出して突っ込む。


 その巨体から繰り出される破裂バースト

 プラスにも匹敵するほど信じられない速さだ。

 

 一瞬で少女の元までやってきた。

 

「名前は、そうだな……荊棘光撃フルメタルハードだ」


 手にかざしたままオーブを振り上げ、標的を狙う。


 プラスが移動してかわすと、オーブが地面を抉る。


 物凄い風圧。

 背中から冷や汗が流れた。


 ゴーはすかさずもう一度腕を振り上げる。

 

「ハハハハッ!!」


 プラスはひたすら棘のオーブをかわし続けた。

 そのたびに風圧に巻き込まれ、次の動きが一歩遅れる。

 避けるだけで精一杯だ。


「くっ……」


 アレに当たると一瞬で終わる。

 丸盾(シェル)で防ごうものなら、盾ごと抉り取られるだろう。


 プラスはたまらず距離を取る。


分離(リーブ)!」


 一度離れて分離(リーブ)で攻撃した。

 放たれたオーブは雷を纏う。


「オラァ! 無駄だ!」

 

 ゴーが豪快に振るい、雷のオーブをあっさり掻き消す。


 プラスはさらに連続でオーブを出し、両手で限りなく撃ち続けた。


「オラオラオラァ! しつけえぞおお!!」


 ゴーがすべて打ち消す。 


 自分の分離(リーブ)が効かない。

 プラスの顔に焦りが見えた。


「こんなもんか! スターバードおおお‼」


 その雄叫びで教会が丸ごと揺れ、上から大量のホコリが落下。


「なっ⁉︎」


 雄たけびが衝撃波となって広がる。

 そのでたらめさ。

 プラスは動きを止め、目を大きく見開いた。







 ──しばらく逃げ回っていた。

 彼女は本来、近接戦が得意なはず。

 しかし、ゴーの凄まじい攻撃の前にそれは叶わない。

 むしろ近づくのは諦め、遠距離攻撃に徹しているように見えた。


「あん?」


 不意にゴーが動きを止めた。


「お前、ひょっとしてザイコールが来んのを待ってんのか?」


 一瞬、プラスの口元が緩んだ。

 その反応を見て全てを確信した。


「つまんねえことしやがって。一気にシラけたぜ」


 ゴーの顔がみるみる変わっていく。

 先ほどは戦いを楽しんでいた。

 だが、今は鬼の形相でプラスを睨みつけている。


「かかって来ねえんならこっちから行ってやる!」

 

 荊棘光撃フルメタルハードを引っ込めた。


 手遅れだった。

 プラスは今まで敵が本気ではなかった事に気づかされる。


「おう! 良いもんがあんじゃねえか!」


 ふと、ゴーが近くにあった椅子を掴み、


「オラァ!」 


 思いっきりぶん投げた。


「なっ⁉」


 プラスは急ぎ破裂バーストを使い、高速移動。

 椅子をかわす。


 しかし、次の瞬間、


 どこから持ってきているかのわからないほどの、大量の椅子がビュンビュン飛んできた。

 

「オラァ! 逃げろ逃げろぉ! ガハハハ!」


 なんて品のない戦い方。

 逃げるプラスは戸惑いを隠せない。


 椅子の数が多すぎる。

 一度逃げ回るのをやめ、光撃ハードで叩き落とす。


「ちょっと待ちなさい! 投げすぎじゃない⁉︎」


 勢いに吞まれていく。


「あん?」


 椅子を全部使ってしまった。

 仕方ない、ゴーが距離を詰める。


「遅えんだよ! オラァ!」


 目の前に現れ、プラスを殴り飛ばした。


 プラスは壁に激突。

 すぐに立ち上がり相手に接近する。

 荊棘光撃(フルメタルハード)がない今がチャンスだと、両拳にオーブを纏い襲い掛かる。


 至近距離からの光撃ハードで連続攻撃。


 しかし、先ほどとは打って変わり、今度はゴーが軽い身のこなしで全てをよけてみせた。


 急に当たらなくなった。

 プラスの顔に焦りが見えた。


 ゴーは今まで相手の攻撃をあえて受けていた。

 それは戦いを楽しむためにわざと当たっていたに過ぎない。

 だが、今は本気で倒そうとしているため、その必要がないだけのことだ。


 全てをよけたゴーが右、左と二回腕を大振り。

 

 プラスは瞬時にかわし、再び飛びかかる。


 が、分かっていた。

 そこにゴーは大きく蹴りを入れた。

 先ほどの攻撃は陽動。


「かはっ⁉︎」


 急な蹴り技に対応出来ない。

 プラスは吹っ飛ばされ、またも壁に激突する。


「うぐっ……」


 大男の蹴りがもろに腹部に入ってしまい、お腹を押さえ苦しそうに悶えている。


「チッ、もう終わりか。つまんねえな」


 動かない少女にゆっくり近づく。


 プラスは何とか立ち上がるも、すでに満身創痍だ。

 身体がグラついている。


「お前にはガッカリだ。もうちょいやるかと思ったが、とんだ期待外れだったな」


 息はもう絶え絶え。

 続けるのは厳しい状態に見えた。


「やっぱ、アイツとは違えか」


 一瞬、哀しげな表情を浮かべるゴー。


「……兄、さん?」


 意識が朦朧とする中、プラスはそれを見逃さなかった。


「コイツで終わりにしてやる」


 ゴーの堅い拳に、光が集中する。


 ガンッと鈍い音が響き渡る。







 ──しかし、


「なんだと⁉」


 ゴーは驚愕した。

 目の前にいるボロボロの少女が、自分の光撃(ハード)を片手で受け止めていたからだ。


 殺すつもりはなかった。

 だが、それなりのオーブを込めて殴ったはず。


 プラスが静かに口を開く。


「どいつもこいつも、兄さん兄さんしつこいのよ」

「あん?」

「さすがに頭に来たわ」


 危険を感じたゴーは距離を取る。


 プラスは目を閉じて、身体から大量の雷を放電した。

 

 一度出した雷を、再び身体の中に取り込み始める。


 この少女は一体何をしているのか。

 まさかここに来て隠し玉があるのか。

 何もわからないゴーはその身を震わせる。

 だがそれは恐怖から来る震えではない。


 やがて全ての雷を中に入れ、プラスが目を開けた。

 眼光に鋭さが増し、たまに身体から青い光が弾ける。


「ごめんなさい。まだ未完成だから」


 少女の雰囲気が変わった。


 ゴーは息を呑む。



「──雷神電来ライデン

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