17.プラス 対 ゴー
プラス、ゴー
互いに戦闘態勢に入る。
張り詰める空気の中、
「おお! ひょっとしてプラスか⁉ でかくなったなあ!」
ゴーが話しかけてきた。
「母親に似て美人になったもんだ」
「は?」
「ああ、だが胸の方は遺伝しなかったようだ。やれやれ」
「なんですって!」
敵のクセに馴れ馴れしい態度。
プラスはイラッとする。
「あん? 覚えてねえのか? 昔あんなに遊んであげたじゃねえか」
「さっきから何を言ってるのかしら。わたしはあなたのことなんて知らないわよ」
「なっ、なんだと⁉」
完全に忘れられているとは思いもしなかった。
ゴーはショックを受ける。
「俺の髪をあんなにむしり取りやがっただろうが。覚えてねえのか」
「わたしがそんなことするワケないでしょう」
ガックリと床に手をつき、何かブツブツと嘆いている。
「それよりあなたがゴーね! 聞きたいことが山ほどあるわ!」
「それよりだと⁉」
「アッシュはどこにいるの! 答えなさい!」
アッシュと聞いたゴー。
「……ほう」
途端に悪い顔になる。
「さあな、教えないと言ったらどうする?」
「無理やり吐かせるわ」
「生意気なとこは変わってねえな。おじさん嬉しいぞ」
気持ち悪っ。
プラスがいきなりオーブを放つ。
予想通りの行動でゴーはニヤッとなる。
戦いが始まった。
ゴーは迫るオーブを軽々と弾く。
しかし前を見ると、プラスの姿がない。
「おおっ⁉」
プラスは今の一瞬で破裂を使い、敵の懐まで潜っていた。
その両手はすでにオーブを纏っている。
プラスの光撃がゴーの身体につき刺さる。
さらにそのまま数発殴り、壁までぶっ飛ばした。
壁の崩れた破片がバラバラと落ちる。
「おいおい、いきなりかよ」
効いていないのか。
ゴーは立ち上がり、壁からあっさりと出てきた。
「残念だったな。この程度じゃ俺は倒せねえ」
「そうかしら? あなた、鼻から血が出てるわよ」
「なんだと⁉」
あわてて確認したが、鼻血なんて出ていない。
一瞬気を取られた相手のスキをつき、プラスは再び接近。
先ほどと同じように何発も殴りつけた。
「ぐっ⁉ クソが!」
それはアッシュの光撃とは桁違いの威力だ。
ゴーもダメージを隠せない。
一度距離を置こうとしたが、
「ぐっ⁉︎ 動かねえ!」
身体が動かない。
まるで感電したように痺れている。
そのままプラスが横から蹴りをお見舞い。
壁まで叩きつけた。
「終わりよ!」
早くアッシュの居場所を吐かせる。
プラスは右手にオーブを出し、それをどんどん大きくしていく。
オーブに雷を纏い、バチッとうるさく音が鳴る。
その音を聞いたゴーが、壁からひょっこり顔を出す。
「なんだ⁉︎」
そこには巨大な光の玉を、片手でかかげるプラスがいた。
オーブのエネルギーが雷となって放電される。
「──雷電分離!」
思いっきり叩きつけ、ゴーの身体がプラズマに吞まれていく。
「うおっ⁉ おおおおおお!?」
教会の一階は巨大なオーブで埋まり、その轟音とともに辺りの物を吹き飛ばす。
プラスはその様子を無言で見ていた。
オーブ製のプラズマが消えるまでは相手を確認できない。
やがて少しずつ雷が小さくなり、
「──ふぅー、いきなりかましやがって」
ゴーが現れた。
その肌は至る所が焦げ、プスプスと煙を上げる。
だが見た目とは裏腹に、薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「……あまり効いてなさそうね」
倒せたとは思っていなかった。
だが、想定よりダメージがない。
「そうでもねえよ。にしてもすげえな。オーブに雷を混ぜてるのか」
「褒められても全く嬉しくないわ」
「チッ、可愛くねえ」
「可愛いわよ」
オーブは元々爆発する性質があり、それだけでも十分強力である。
レクスの爆殺光撃はその性質を利用し、手の甲にオーブを乗せて裏拳で攻撃する技だ。
プラスの場合は、雷を混ぜることでさらに威力を高めている。
また、プラスのように別の性質をオーブに入れることは、並大抵のことではできない。
相手はそんな世にも珍しい雷のオーブの使い手。
ゴーは立ち合えてとても嬉しそうだ。
「そういえばお前、昔から雷を見るのが好きだったもんな。それをオーブで表現するとは大したもんだ」
「知らないわ、気持ち悪い」
「流石に今のを何発も食らうのはまずい。こっちもそろそろ行くぞ」
ゴーは手を広げてオーブを出した。
それは力強くやけに存在感がある。
来る。
相手は元Aランクハンター。
伝説と呼ばれた支部長、ゴー=ルドゴールド。
その実力はどれほどのものか。
なんであれ警戒を怠るわけにはいかない。
プラスは敵の凄まじいオーブに身構える。
オーブの波が徐々に激しくなる。
丸いはずのオーブがトゲ鉄球のような形に。
前にかかげて、見せびらかすように構えた。
「なによ、それ」
「ああ、今思いついた。こんなのでくたばらないでくれよ! スターバード!」
足裏からオーブを出して突っ込む。
その巨体から繰り出される破裂。
プラスにも匹敵するほど信じられない速さだ。
一瞬で少女の元までやってきた。
「名前は、そうだな……荊棘光撃だ」
手にかざしたままオーブを振り上げ、標的を狙う。
プラスが移動してかわすと、オーブが地面を抉る。
物凄い風圧。
背中から冷や汗が流れた。
ゴーはすかさずもう一度腕を振り上げる。
「ハハハハッ!!」
プラスはひたすら棘のオーブをかわし続けた。
そのたびに風圧に巻き込まれ、次の動きが一歩遅れる。
避けるだけで精一杯だ。
「くっ……」
アレに当たると一瞬で終わる。
丸盾で防ごうものなら、盾ごと抉り取られるだろう。
プラスはたまらず距離を取る。
「分離!」
一度離れて分離で攻撃した。
放たれたオーブは雷を纏う。
「オラァ! 無駄だ!」
ゴーが豪快に振るい、雷のオーブをあっさり掻き消す。
プラスはさらに連続でオーブを出し、両手で限りなく撃ち続けた。
「オラオラオラァ! しつけえぞおお!!」
ゴーがすべて打ち消す。
自分の分離が効かない。
プラスの顔に焦りが見えた。
「こんなもんか! スターバードおおお‼」
その雄叫びで教会が丸ごと揺れ、上から大量のホコリが落下。
「なっ⁉︎」
雄たけびが衝撃波となって広がる。
そのでたらめさ。
プラスは動きを止め、目を大きく見開いた。
──しばらく逃げ回っていた。
彼女は本来、近接戦が得意なはず。
しかし、ゴーの凄まじい攻撃の前にそれは叶わない。
むしろ近づくのは諦め、遠距離攻撃に徹しているように見えた。
「あん?」
不意にゴーが動きを止めた。
「お前、ひょっとしてザイコールが来んのを待ってんのか?」
一瞬、プラスの口元が緩んだ。
その反応を見て全てを確信した。
「つまんねえことしやがって。一気にシラけたぜ」
ゴーの顔がみるみる変わっていく。
先ほどは戦いを楽しんでいた。
だが、今は鬼の形相でプラスを睨みつけている。
「かかって来ねえんならこっちから行ってやる!」
荊棘光撃を引っ込めた。
手遅れだった。
プラスは今まで敵が本気ではなかった事に気づかされる。
「おう! 良いもんがあんじゃねえか!」
ふと、ゴーが近くにあった椅子を掴み、
「オラァ!」
思いっきりぶん投げた。
「なっ⁉」
プラスは急ぎ破裂を使い、高速移動。
椅子をかわす。
しかし、次の瞬間、
どこから持ってきているかのわからないほどの、大量の椅子がビュンビュン飛んできた。
「オラァ! 逃げろ逃げろぉ! ガハハハ!」
なんて品のない戦い方。
逃げるプラスは戸惑いを隠せない。
椅子の数が多すぎる。
一度逃げ回るのをやめ、光撃で叩き落とす。
「ちょっと待ちなさい! 投げすぎじゃない⁉︎」
勢いに吞まれていく。
「あん?」
椅子を全部使ってしまった。
仕方ない、ゴーが距離を詰める。
「遅えんだよ! オラァ!」
目の前に現れ、プラスを殴り飛ばした。
プラスは壁に激突。
すぐに立ち上がり相手に接近する。
荊棘光撃がない今がチャンスだと、両拳にオーブを纏い襲い掛かる。
至近距離からの光撃で連続攻撃。
しかし、先ほどとは打って変わり、今度はゴーが軽い身のこなしで全てをよけてみせた。
急に当たらなくなった。
プラスの顔に焦りが見えた。
ゴーは今まで相手の攻撃をあえて受けていた。
それは戦いを楽しむためにわざと当たっていたに過ぎない。
だが、今は本気で倒そうとしているため、その必要がないだけのことだ。
全てをよけたゴーが右、左と二回腕を大振り。
プラスは瞬時にかわし、再び飛びかかる。
が、分かっていた。
そこにゴーは大きく蹴りを入れた。
先ほどの攻撃は陽動。
「かはっ⁉︎」
急な蹴り技に対応出来ない。
プラスは吹っ飛ばされ、またも壁に激突する。
「うぐっ……」
大男の蹴りがもろに腹部に入ってしまい、お腹を押さえ苦しそうに悶えている。
「チッ、もう終わりか。つまんねえな」
動かない少女にゆっくり近づく。
プラスは何とか立ち上がるも、すでに満身創痍だ。
身体がグラついている。
「お前にはガッカリだ。もうちょいやるかと思ったが、とんだ期待外れだったな」
息はもう絶え絶え。
続けるのは厳しい状態に見えた。
「やっぱ、アイツとは違えか」
一瞬、哀しげな表情を浮かべるゴー。
「……兄、さん?」
意識が朦朧とする中、プラスはそれを見逃さなかった。
「コイツで終わりにしてやる」
ゴーの堅い拳に、光が集中する。
ガンッと鈍い音が響き渡る。
──しかし、
「なんだと⁉」
ゴーは驚愕した。
目の前にいるボロボロの少女が、自分の光撃を片手で受け止めていたからだ。
殺すつもりはなかった。
だが、それなりのオーブを込めて殴ったはず。
プラスが静かに口を開く。
「どいつもこいつも、兄さん兄さんしつこいのよ」
「あん?」
「さすがに頭に来たわ」
危険を感じたゴーは距離を取る。
プラスは目を閉じて、身体から大量の雷を放電した。
一度出した雷を、再び身体の中に取り込み始める。
この少女は一体何をしているのか。
まさかここに来て隠し玉があるのか。
何もわからないゴーはその身を震わせる。
だがそれは恐怖から来る震えではない。
やがて全ての雷を中に入れ、プラスが目を開けた。
眼光に鋭さが増し、たまに身体から青い光が弾ける。
「ごめんなさい。まだ未完成だから」
少女の雰囲気が変わった。
ゴーは息を呑む。
「──雷神電来」




