14.ゴーからの刺客①
翌日。
アッシュは洞窟から少し離れた広場にいた。
ゴーもいる。
今回、アッシュの実力を把握するのと、その修行が目的だ。
少し特訓したくらいでは、あのザイコールがどうにかなるとは思えない。
かと言って、洞窟で何もせずゴーと過ごすのは気が引ける。
渋々その修行とやらに付き合うことにした。
「まずはお前が実力が見たい。話はそれからだ。遠慮せずかかって来い」
「わかったさ」
さっそくアッシュが構えた。
それに合わせて、ゴーは腕を組み、仁王立ちになる。
これが相手の構えなのか。
一見、隙だらけに見えるが。
アッシュは警戒する。
「分離!」
まずは牽制。
アッシュはオーブを放つ。
ゴーは仁王立ちのまま動かない。
そのまま大きな顔面に直撃。
が、効いていないのかビクともしない。
すぐに連続でオーブを撃ちまくるが、どれだけ当てても無傷無反応だ。
「どうした、これだけか?」
ゴーが挑発する。
それならとアッシュは、今度は拳にオーブを纏い接近した。
「光撃!」
光る拳がゴーの胸に直撃する。
しかし、目の前の男はなおも動かない。
「なっ⁉」
アッシュは目を丸くした。
分離ならまだしも、光撃まで効かない相手は初めてだった。
ムキになる。
両手にオーブを纏い、2発、3発と光撃を連続で打ち込んだ。
ゴーは変わらず、ただ涼しい顔で見るだけだ。
全く効いてない。
いくら殴っても傷一つ付かない。
本当に人間なのか。
もしかして新種のイービルではないか。
殴りながらに頭をよぎる。
「もういい、十分だ」
ストップが入り、攻撃するのをやめた。
「すげえな。半月でこれなら大したもんだ」
全力だったのに。
ゴーには一切ダメージがない。
元Aランクハンターと聞いていたが、全く底が測れない。
「褒められてる気がしないんだけど」
「んなこたねえよ。十分見込みあるぞお前」
「こっちは自信無くしたさ。はあ……」
「あん?」
キョトンとしているが、全然可愛くない。
アッシュは深いため息を吐いた。
「──探したわ。こんなところにいたのね」
突然、背後から女性の声がした。
振り向くと、そこには長い黒髪でスラッとした綺麗な大人の女性がいた。
「なにか用か、エリー」
「あなたにはない。その子はもう大丈夫なの?」
エリーと言われた女の人が、ポカンとする少年を見る。
アッシュは初対面なので緊張ぎみだ。
「紹介する。コイツはエリーだ」
「初めまして。エリー=レザーフットよ。腕の調子はどう?」
腕、言われてみれば、
「どうしたの?」
「いや、腕がさ」
治っていたことに今さら気がついた。
破裂で暴発したことで打った骨折だ。
たしか全治3カ月だったはずなのに、今まで普通に動かしていた。
「なんだお前、今ごろ気づいたのか? コイツが治したんだよ」
エリーは治癒師として、第二教区で働いている。
ゴーとは古い仲だそうで、教会の目を盗んではここまで会いにきているそうだ。
彼女がオーブを使い、折れた右腕を治療したと説明した。
「オーブでそんなことが」
「そうでもねえ。コイツが特別なだけだ」
「気がついたら出来るようになってたの。ウフフッ」
レクスの爆殺光撃もそうだが、オーブにはまだ秘められた謎があるようだ。
「そういえばあなた、どうして怪我をしていたの? 襲われる前にできた怪我よね、それ」
「最初から包帯巻いてたな、お前」
アッシュは破裂で暴発したことを伝えた。
「なんだお前、破裂に失敗したのか」
「もう、笑っちゃダメよゴー。フフッ」
よくあることだと2人は言う。
フォローはされているようだが、アッシュとしてはムッとくる。
「ハハハッ、いやすまねえ。だが破裂はまだ早んじゃねえか?」
「そうよ。危ないわ」
「でもカッコいいし、破裂」
「あん? なんだそりゃ?」
少年心をくすぐっている。
あんなに速く動けたらカッコいいし、カッコいいではないか。
「そんなにやりてえんなら、今から見てやろうか? ちょうどエリーもいるしよ」
「えっ、いいのか⁉︎」
アッシュが飛びつく。
「ここなら広いから安心だろ? もし怪我してもエリーが治療すればいいしな!」
「そうね」
エリーの治癒力なら、いくらでも怪我し放題だそうだ。
普段は仕事でとても忙しい彼女。
久々の休暇らしくこのチャンスを逃すと、アッシュの破裂習得への道はさらに遠ざかってしまう。
破裂が出来るのならそれに越したことはない。
さっそく取りかかることにした。
「始めるぞ」
「わかったさ!」
破裂に明け暮れた。
──大人たちが見守る中、アッシュは練習した。
何度も暴発しては、その度にエリーが治療する。
本来、長い時間をかけて習得するはずだが、アッシュの飲み込みの早さもあって、多少ぎこちないが使えるモノになっていた。
「はあ……」
疲れた。
洞窟に入ると座りこんだ。
エリーがいたとはいえ、疲労までは回復しないようで、ドッと疲れが込み上げてきた。
このまま柔らかいベッドに飛び込みたい。
だが、そんなモノはここにありはしない。
固い地面で寝なければならないと思うと億劫になる。
「まさかもう出来る様になるとはな!」
「まだ納得はいってないけど」
「おう、バッチリだ! やっぱお前すげえな!」
修行の成果にご満悦のようだ。
ゴーがバンバン叩いてくる。
ちなみに、エリーは第二教区へ戻っていった。
ここからかなり距離があるというのに、結構な頻度で会いに来るそうだ。
「エリーさんってさ」
「あん? アイツがどうした?」
「ゴーとはどういう関係なのさ?」
割れたアゴを手で擦りながら言う。
「かなり古い付き合いだな。それが困ったヤツなんだ。俺がどこに行ってもすぐ場所を突き止めて、ああやって世話を焼きたがる」
「それってさ、ゴーのこと……」
そういう事なのかと思うアッシュだったが、
「ああ、ペットだと思ってやがる。クソが」
彼女の想いが届いていない。
アッシュは悲しくなる。
「エリーさん、可哀想……」
「バカ野郎、どう考えたって俺の方が不幸だろ」
「いや、もういいさ」
「言っとくがマジだからな。俺も最初はそうと期待していたんだ。だがアイツは──」
夕飯を準備した。




