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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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ちゃっかりアッシュ

これは第1話でプラスが、アッシュを教会から引き取った後のお話です。

 ここはプラス宅。その玄関前。


「じゃじゃーん! ここがわたしのお家! 今日からここで暮らすのよ!」


 教会に保護されていたアッシュとお話し、晴れて保護者になる了解を得たプラス。

 少しお買い物をした後、さっそく自宅へと招いていた。


「…………」


 アッシュは無言。

 ここまでお姉さんに言われるがまま付いてきた。

 なので展開に追い付いていなかった。


「ちゃんと靴は揃えて入りなさいよ」


 脱ぎ脱ぎ。

 アッシュは言われた通り、脱いだお靴を綺麗に並べる。


「フフッ」


 まだ小さな背中。

 そんなアッシュの後ろ姿を見て、プラスは不思議と微笑ましくなる。


 そして、お待ちかね、家の中へ。


 一般的な家庭よりちょっと広い程度。

 置いてある家具やら、建物の構造やらが少々古風ではある。

 だが、それがまた良い感じの雰囲気となっている。


「広いさ」


 アッシュは家内をキョロキョロキョロ。

 初めてきた子どもにはそう感じるみたいだ。


「気に入ってくれた? 二階にはあなたも部屋もあるからね」


 最初から保護する気満々だったのだろう。

 アッシュをお迎えする準備は万全である。


「ステラはまだ帰ってないみたいね。それなら……とりあえずお風呂にしましょうか」


 その間に帰って来るやもしれない。

 プラスがお風呂を提案した。名案だ。


「どっちが先に入るのさ?」

「ん? なに言ってるの? 一緒に入るに決まってるでしょう」

「へっ?」


 初めてだから色々分からないだろう。

 これから一緒に暮らすのだから遠慮はなしだ。

 というわけで、


「お風呂はこっちよ」

「あ、ちょっと……」


 お風呂場へ向かった。


 そして、カコンッ

 

「どう? かゆいところはない?」

「な、ないさ」


 現在、プラスがアッシュの背中に回り、後ろから髪を洗っている。

 たまにメイドのステラと一緒に入ることがあるため、他人の髪を洗い慣れている


 アッシュは男の子、しかも小さいので洗いやすい。

 弟がいたらこんな感じだったのだろうか。

 プラスはそんな気持ちになっていた。


 一方のアッシュはされっぱなし。

 目に泡が入らないようにギュッとしている。


「はい、これでおしまい。次はわたしの番、お願いするわね」


 泡を流し終えると、今度はアッシュが洗う番となる。

 2人は向きを逆にした。


「…………」


 まずはその綺麗な髪を、次にお姉さんの背中を。


 ピトッ

 アッシュの髪を洗う手が止まる。


「どうしたの? 目が痛くて開けられないんだけど」

「……なんでもないさ」

「そう。あっ、そこ。そこ良いかも」

「ここ?」

「ええ、悪くないわ」


 ゴシゴシ、手を進めた。


 お互いに身体を綺麗にした後は、温かい湯船につかることになる。2人で。


「ふう~。疲れが吹っ飛ぶわね~」


 何の疲れかは不明。

 けれどプラスは気持ちが良さそう。

 浴槽の中で足と腕を広げてまったりしている。


「…………」


 一方、アッシュはブクブクブク。

 やはり緊張している。

 のびのびするお姉さんと違い、こじんまりと座りながら、顔以外を湯船の中にぶっこんでいる。


「どうしたの? そんなに浸かってるとすぐのぼせちゃうわよ?」


 ……ブクブク


 明らかに警戒している。

 そんな子どもの様子を、プラスは少しの間、無言で見ていたが、


「えいっ」


 ピュルル、お手製水鉄砲、発射。


「うわっ」


 ぬるい熱湯が、アッシュのお顔を襲う。


「な、なにするのさ」

「すごいでしょう。手をこうやってすると水鉄砲になるのよ」


 と言って、実演してみせるプラス。

 アッシュは、試しにお姉さんと同じようにやってみるも、水は発射されない。


「えいっ、えいっ」


 そうしている間にも、プラスの容赦ない砲撃が、顔面を襲う。


「ほ~ら、早くしないと顔がふやけちゃうわよ~」


 やがて、


 バシャッ!


 アッシュが直接飛ばしてきた。

 諦めた、よって強硬手段に出た。

 

 それは水鉄砲とは比較できなほどの威力。

 プラスの顔が前髪にかけてびしょ濡れとなる。


 アッシュはフンス。

 やってやったぞ感が顔によく出ている。


「…………」


 しかし、お姉さんは無言。

 やり過ぎてしまったか。

 アッシュは不安げに顔を覗き込もうとしたが、


「やったわね! えいっ!」

「うわっ⁉ なにさ!」


 バシャバシャバシャ


 しばらくお湯をかけ合っていた。







 ──すっかりホカホカになり、お風呂から出てきた2人。

 部屋に戻ると、すでにメイドさんのステラが帰っていた。

 彼女の用意した夕飯を、3人で美味しく食べた。


 その後はアッシュの部屋について、置いてある家具、おもちゃ、本棚の絵本など。

 何があるのかを一通り説明。


 そして、お話をするうちに、あっという間に眠りにつく時間となる。

 

「どうかしら? やっぱり最初はわたしと一緒に寝る?」


 今日来たばかりの、慣れない部屋で寝るのはさぞかし不安なことだろう。

 なので、プラスが自分の部屋へお誘いした。

 早くも過保護、いや、単に彼女がそうしたいだけなのかもしれない。


「一人で寝るさ」


 アッシュは即答。

 このお姉さんと一緒に寝たら、枕投げとか始まりかねない。

 お風呂の時の二の舞にはなりたくない。


 今日は色々あってもう疲れた。

 そうだ、ヘトヘトなのだ、ゆっくりしたいのだ。


「そう。あなたが平気ならそれでいいわ」


 やはりまだ警戒されている。

 ここは一人で寝かせた方がいいだろう。

 それにアッシュは10歳、別に一人で寝れない年ではない。


「でも寂しくなったら、いつでもわたしのところに来ていいからね?」

「…………」

「寝るまで見ててあげよっか? あっ、そうだわ! なんだったら読み聞かせとか──」


 バタンッ


 アッシュが自室に入った。

 カチッ、鍵もロックした。


「あっ、ちょっとアッシュ! お休みは⁉ お、や、す、み、がまだよ! ダメじゃない!」


 ガンガン、ガンガンガン


「──お休み」


 ドア越しからアッシュの声が。


「もう、よく分からないわね……お休み、アッシュ」


 プラスも自室へ向かった。


 バタンッ


「…………」



 アッシュは眠りにつく。







 ──それからおよそ、半月が経った。

 とある夜の出来事。


 スー、スー


 比較的お淑やかな寝息が聞こえてくる。

 ここはプラスのお部屋。 

 月明りに照らされた元、彼女がベッドで眠っていた


 そんな静まり返った部屋で、ギギィー。

 ドアがゆっくりと動く。


 ヒョコ


 誰かが入ってきた。


「…………」


 アッシュだ。

 自室からマイふわふわを持参してきたアッシュだった。


 忍び足とかこっそり感はない。

 ゴソゴソとお姉さんのいるベッドへと入っていく。

 そのまま布団から顔をスポン出して、さも当たり前かのように、お姉さんの横で眠り始めた。


「う、う~ん……」


 ベッドの違和感に気づき、プラスが目を覚ます。


「…………」


 何かいる。

 それはくっついてくるワケでも、ましてや甘えてくるワケでもない。

 ただ横で寝ている。一緒のベッドにいるだけ。


 アッシュだ。

 これは、珍しいこともあるモノだ。

 

(まさかこの子の方から来るだなんて……フフフッ)


 自分と一緒に寝たいくらいには懐いているのだろう。

 そう思い、プラスは自然と笑顔が溢れてしまう。


「……フフッ」


 眠りについた。



 ──翌日、朝食にて、


「プラス様? 何かあったのですか? 朝からそんなにウキウキしていらして」


 メイドさんのステラが、調子の良さそうな家主に疑問を送る。


「いいえ、なんでもないわよ。ねえアッシュ」


 プラスはそう言って、向かいの席にいるアッシュを見た。


「…………」


 モグモグモグ


 子どもは黙々と食べ進めている。


「……あら?」


 なんか反応が薄い。

 おかしい、だって昨晩は一緒に……。

 プラスはハテナを浮かべた。


「ねえ、アッ──」

「──どうですかアッシュさん、お口に合いますか?」

「ああ、今日も美味しいさ。ステラさん」

「ウフフ、ありがとうございます」

「…………」


 プラスは無言だった。



 ──そして、さらにおよそ半月が経った。


 グー、グー、グー


 プラスが寝ている。

 自室のベッドでいびきをかいて眠っている。

 どうやら今夜は、寝相が良くない日のようだ。


「うぅ~ん……ムフフフッ、くまさんでいっぱいだわ~」


 むにゃむにゃむにゃ。


 すると、ギギィー。

 ドアがゆっくり開く。


 ヒョイッ、何か入ってきた。


 ご存じの通り、アッシュだ。

 アッシュがまたお姉さんの寝室にやってきた。


 ゴソゴソゴソ

 いつも通り、ベッドの下の方から侵入し、スポッと顔を出す。

 そのまま何食わぬ顔で眠り始めた。


 グー、グー、グー


「ムフッ、ムフフフッ。くま、くまさん……くまっ!」


 寝相が酷かった。


 

 ──それから週に2日、3日、4日と、お邪魔する日が段々増えていった。

 朝起きたら隣にアッシュがいることなんてザラではない。


 ついにはほぼ毎日侵入するように。

 ちょっとこれはどうかと思う。

 プラス的には、はたまた保護者としては、流石に良くないと思い始めていた。


 なので、


「ねえ、アッシュ。まだ起きてるわよね」

「……なにさ」


 いつも通り、横でちゃっかり寝ているアッシュに話しかける。 


「わたしは別に嫌ってわけじゃないんだけど、こういうのはもうやめた方が良いと思うの」


 いきなり何をいうかと思えば。

 アッシュは無視、聞く耳を持たない。


「夜中こっそり入ってくるのはもうやめにして、明日からはわたしの部屋で寝ましょう」


 お姉さんからの提案。

 しかし、アッシュの返事は一向にない。

 というより、このお話自体したくなさそうに見える


「なんでよ? どうせわたしの部屋に来るんだったら、始めからそうした方がいいでしょうに」


 嫌だ。

 アッシュは寝返りを打つ。


「…………」


 どうやらこの子どもは、毎晩一緒に寝ているという行為そのモノを、存在しない出来事にしたいらしい。

 ここに来て謎のプライド。

 だから毎回朝になると、すまし顔で知らないフリをする。

 話題にされると嫌がるワケだ。


 しかし、それではいけない。

 これでは子どもの貴重な睡眠時間が妨げれてしまう。

 良い子は早く寝なければならない。


 ここは厳しく接しなければ。

 甘やかしてはいけない。

 よって、お姉さんはこう言った。


「そっ、イヤなら明日から一人で寝なさい。分かったわね」


 子どもの返事はない。


「ふん、もういいわ。おやすみ、アッシュ」


 呆れたお姉さんが背を向けた。


「…………」


 アッシュは無言だった。



 ──それからというもの、アッシュは一切来なくなった。


 ホー、ホー、ホー


 正体不明の夜鳥が不気味に鳴いている。


「ホントに来なくなったわね。たまになら構わないのに……」


 自室のベッドについて、独り言を言うプラス。


 アッシュのためを思い、厳しく接してしまった。

 仕方ないとはいえ、ここ毎日一緒に寝ていたというのも事実。

 これはこれで何だか寂しいモノがある。


「はあー。ホント、わたしも大概ね……」


 大きなため息が室内を飽和。

 プラスは正しい姿勢で横になり、天井を見ている。


「アッシュ……」


 何だかんだで言いつけは守ってくれている。

 日中だって特に変わったところはない。

 ああ見えて素直で可愛い。

 自分はちゃんと保護者としてやっていけている、はず。

 

「そう言えばあの子。最近ステラと仲がいいわね。よくお手伝いしてるのを見かけるし」


 メイドさんと良好な関係を築けているようだ。


「ええ、とても良いことだわ」


 大丈夫そう。

 プラスはそう思い直し、安心感が生まれる。


 そして、ピコン!


「そうだわ。今日は一緒に寝てあげようかしら」


 久しぶりに、今日くらいは良いだろう。

 それに自分から行けば何の問題もない。

 来ないなら、自分から行けばいいではないか、お姉さん。


「ええ、それがいいわ! そうしましょう」


 思い立ったら早い。


 バタンッ


 自室を飛び出した。


 あっという間にアッシュのお部屋へ。


「フフフッ」


 プラスはベッドにお邪魔するために、ふわふわをズラそうと、ベッドを見てみると、


「……ッ⁉ アッシュ⁉」


 しかし、いない。

 アッシュがいなかった。

 正確に言うと、彼だけではなく、彼のふわふわごと無くなっていた。

 ベッドには枕以外、何も存在しなかったのだ。


「ど、どういうことよ……」


 こ、これは一体、どうなっている。

 プラスは困惑の色を隠せない。


 そう言えば、さっき隣の部屋からドア音がしたような。

 というか、いつも決まった時間に誰かが廊下を歩く音が。

 考えられるとしたら……

 

「はっ! まさか⁉」


 バタンッ!


 またを部屋を飛び出した。


 プラスが急いで向かったのは、2つ隣にあるメイドさんの寝室。

 ステラの部屋だ。


 プラスは遠慮なしにズケズケと中に入る。

 そして、ベッドの先に立ち、膨らんだ布団を思いっきり、


 バッ!


「あっ⁉」


 そこには、やっぱり。

 アッシュがいた。

 メイドさんの横で一緒に眠るアッシュがいたのだ。


どうやらお姉さんの代わりに、こっちにお邪魔していたようだ。


「ウフフ、見つかってしまいましたね、アッシュさん」

「ア、アッシュ~!」



 アッシュはふわふわに籠る。

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