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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
135/142

129.お嬢様のお見舞い

 この度、色々戦果をあげた教王率いる遠征部隊。

 彼らは一度隊を解散させ、各々が中央教区、第一教区へと帰還した。


 旅の疲れを癒す者、家族との一時を過ごす者、また、名誉ある傷の治療に専念する者。

 そう遠くない未来に備え、各自束の間の休息を取ることになる。

 

 それから2日が経っていた。


 教会にある病室の一部屋。

 ここでは、戦いで負傷したために入会している、プラス=スターバード。

 と、執事のハリス=ハロウズがいた。


「珍しいわね。アンタがわたしのお見舞いに来るだなんて」


 お嬢様のプラス。

 わざわざ来てくれた執事に対して、心許ないセリフを吐く。

 今は完全にオフモードのようだ。

 落ち着かないのか、たまに身体をユラユラさせており、こういう所はまだお子様っぽく感じられる。


「そうですね。以前お嬢様が入会した時は、私もそうでしたから」


 対して、静かにお花を入れ替える執事のハリス。

 粗暴なお嬢様の取り扱いにはもう慣れている。


「すっかりお元気になられたようで、少し安心しました」

「当ったり前よ! ご心配には及ばないわ! はあーあ、今回も余裕だったわね~」


 エッヘン!

 お嬢様があまり大きくないお胸張って浮つく。


「…………」

「なによ? 何か言いたそうな顔ね」

「いえ、そのご様子でしたら、もう大丈夫そうかと思いまして」

「ええ、明日から復帰してもいいそうよ!」


 侵入者を排除したプラスは、いち早く教会に戻っていた。

 彼女が帰った時には、すでにイービルは殲滅されており、街に受けた被害を見積もっている所だった。

 

 プラスはそれを確認した途端、力が抜けてその場に倒れてしまった。

 余程その侵入者とやらに苦戦したのだろう。

 教会についた頃にはフラフラで目も当てられない姿だったそうだ。


「みんな少し大袈裟なのよね、もう大丈夫だって言っても聞かないのよ。そんなにわたしって信用されてないのかしら?」


 それから丸2日、今日まで眠っていたというわけだ

 おかげですっかり元気になっていた。

 あれだけ負傷していたのにこの驚異的な回復力。

 部下たちも恐怖で震えあがっていたそうだ。


「きっとお嬢様、いえ、ギルド長が心配なのでしょう」

「そうかしら? だといいのだけれど……」

 

 すぐお仕事に復帰しようとしたところ、医者たちに取り押さえられ、今日まで一応安静にしておくことになった。


「そういえば、今ジャックおじさんが来てるんでしょ? どこいるのかしら?」


 教王は、遠征部隊が解散したあと、中央ではなくこの第一教区について来ていた。

 国民たちの様子も気になる。

 なので、ついでに寄って行くことにしたのだ。


「ええ、今は街の子供たちと遊んでいます。ああいう所は未だ健在で何よりです」

「そう、相変わらずね」

「何か用があるのでしたら、私がお連れしますが」

「いいえ、後でいいわ。もうおじいちゃんだし!」

「はて、お子さんの間違いでは……?」


 子供と全力で戯れる50代男性。

 ジャックおじさん、この国の最高権力者だ。


「いいのよ。話は大体カールから聞いてるし、今はゆっくりさせてあげましょう」


 ハリスがここを訪れる少し前、鎧を着たカールが報告がてらに訪ねてきた。

 そのため、プラスは今回のことを大方知っている。


「聞いたわよ、手柄をあげたそうじゃない」

「はい、例の敵を撃破したそうです」

「ええ! これは凄いことだわ!」


 敵陣の調査、例の装置の破壊、強敵ガルスロードの排除。

 これら全てがアッシュによる功績が大きい。


 ちなみに教王からの謝礼や報酬は一切なかった。

 みんな頑張ったので、一人だけ贔屓にはしないとのことだ。

 代わりに頭を目一杯ナデナデしてあげたそうだ。


 ともあれ、子供が良い結果を出すのは、大人たちにとっても大変喜ばしいこと。

 2人の熱気が高まってきた。


「フッ、やはり例の品をアッシュさんに持たせて正解でしたね」

「そうね! これもわたしのおかげ、やっぱりわたしって天才⁉」


 プラスは目をキラキラさせた。

 ちなみに、最初に提案したのは部下のティゼットである。

 

「でも説得したのはわたしよ! だからぜ~んぶわたしの手柄! フフッ」


 両手を顔の前に組んで、とても嬉しそうにしている


 終いには自分をべた褒めする保護者のお姉さん。 

 手柄も自分のモノだと本気で思っている顔だ。

 本当にどうしようもない。


「あの子の様子はどう? 一時は敵に捕まっていたって……大丈夫なの?」


 無事に救出したとは聞いていた。

 でも心配なことに変わりない。

 敵の言っていた話では、ひどい拷問を受けていたはず。

 プラスは不安そうに尋ねた。 


「それが、私も何度かお見舞いには行ったのですが、放心状態でして……」


 試しにハリスがお見舞いに行ってみたところ、アッシュは窓の外を眺めたままボーっとしていた。

 話をする中でも、どこか無理しているような、そんな感じだったそうだ。


「よっぽど酷いことされたのね、可哀そう……」

「おいたわしや、早くお元気なってくれることを願うばかりです」

「…………」


 プラスは斜め下の辺りを見ている。


「アッシュさんが心配ですか、お嬢様」


 少し間をおいて、


「そうね。わたしが早く癒してあげないと……それでどの部屋にいるのかしら? 今から会いに──」


 プラスはベッドから出ようとしたが、


「お嬢様、それはいけません」

 

 執事に止められてしまった。


「ちょっと、どきなさいハリス! あの子が可哀そうだわ!」

「どきません、今のお嬢様にはギルドから外出禁止令が掛かっています」

「えっ、ギルド長のわたしが? なんでよ?」

「それです」


 病室の外に出すと、また仕事に取りかかる可能性が高い。

 今回倒れたのは過労のせいでもあると医者が断言した。

 なので、今日はしっかりと休んでもらうために、部屋から一歩も出さないようにと、ギルドから通達があったのだ。


「隣の部屋くらい行ってもいいじゃない!」

「お気持ちは分かります。ですが彼らのことも分かってあげてください」


 部下たちは皆、ギルド長のことが心配だ。

 それを言われたらプラスは言い返せない。


「見張りの方も数名おります、良かったですね」

「えぇっ⁉」


 交代制で厳重に監視しているそうだ。

 少しやり過ぎな気もする。


「やっぱり信用されてないのね、わたしって……」


 なんてリーダー思いの部下たちなのだろう。

 ギルド長は感激のあまり涙を流してしまう。

 決してアッシュに会えないからとか、そういうわけではない。


「アッシュさんが心配です、少し様子を見てきます」


 やがて長い話も終わり、面会終了のお時間だ。

 ハリスは椅子から立ち上がる。


「そう、お願いするわね。きっとあの子、わたしに会えなくて今ごろ泣いてるんじゃないかしら……でもお生憎この有り様だし」


 今日は我慢して明日にするそうだ。

 お姉さんはシクシクと涙を拭う仕草をし、悲しいアピールをしている。


「はい、それがいいです。くれぐれも抜け出そうなどとは考えないように」

「そ、そんなことしないわよ。失礼しちゃわね」

 

 ハリスはドアを開き、部屋から出ようとした。


「──お嬢様」


 ところが、


「なによ? まだ何かあるわけ?」


 執事がギロリと目を光らせた。


「これは一つ借りです」


 今日は自分がお見舞いに来たのだ。

 なので、もしまた自分が入会した時は、必ずお見舞いに来てもらう。


「絶対に忘れません」


 ギギギー、パタッ


 ハリスはそう言い残して去っていった。


「……ホント、いけすかない執事だこと」


 お花を見た。







 ──そして、少し時間が経ち、ここはアッシュのいる病室。


「…………」


 アッシュは天井を見たままどこか遠い目をしている


「はあー……」


 何か思い悩んでいるのか、時折大きなため息を吐く


 よく見るとその頬が紅潮している。


 そして、


「はあー……レクス……」


 

 敵に骨抜きにされていた。

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