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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
133/142

127.仲間たちとの再会

 現在、帰還中の、教王率いる遠征部隊。

 各々が自分のペースで進んでいるため、隊列などは特に組まれておらず、組織としてあまり機能していない。

 このままでは遭難者の出る危険性がある。

 家に帰るまで遠征。

 トップにはしっかりして貰いたいところであった。


「はあー……」


 そんな悲しい列の最後尾に、ひと際大きなため息を吐く、小さな男がいた。

 これはマルトン、小汚い男だ。

 中々戻ってこないアッシュとティゼットを心配していた。


「ふわあ~……」


 そんな彼の隣をフラフラと歩く、眠り姫のヘルナ。

 ご主人様の言いつけ通りにちゃんと戻っていた。


「なんスか、のんきに欠伸なんてしやして……お嬢さんは心配じゃないんスね」

「……?」


 ヘルナのはてな。


「坊ちゃんのことでさあ、全然帰ってこないじゃないっスか!」


 この胡散臭い従者いわく、もうすぐ戻って来るそうだが、背後からアッシュの現れる気配はない。

 ティゼットのことだって心配だ。

 きっと逃げ遅れたに違いない。

 今頃一人オロオロしながら、寂しいと言っている姿が容易に想像できる。


「やっぱり引き返した方が良いっスよ!」


 自分たちだけでも迎えに行こう。

 マルトンが懇願気味にそう提案したが、


「必要ない……それに、来た」

「っ⁉」


 そして、


「──お~い! みんな~、待ってさ~!」


 後ろの方からアッシュがノコノコと姿を現した。

 肩には後輩のティゼットを抱えており、隊に追いつこうと速足で歩いている。


「ぼっ、坊ちゃん!」


 マルトンがいち早く駆け寄った。


「ティゼの旦那ッ⁉ どうしたんでさあ、大怪我してるじゃないっスか⁉」


 意識のないティゼットを見て飛び上がる。


「ああ、命に別条はないさ。でも早く治療しないと」

「そ、そうですかい……」

「教王はどこにいるのさ?」


 とりあえず一旦止まってどこかで手当てしたい。

 なので帰還の報告がてら、トップにその旨を伝えようとした。


「あのヒトデナシでしたら先頭にいやしたよ、頭に包帯を巻いていたっスね。いい気味でさあ!」


 マルトンは先頭に向かって唾を吐き捨てた。


「分かったさ。じゃあ行ってくる……おい、ヘルナ」

「うん」

「ティゼットを頼んださ」


 と言って後輩をパスした。

 受け取った従者のヘルナは、「またコイツを運ぶのか……」みたいな顔をする。


 アッシュが教王のところへ行こうとすると、


「……坊ちゃん!」


 マルトンに呼び止められた。


「ん? なにさ?」

「無事そうで何よりっスよ!」

 

 アッシュとは会うのは実にあの夜以来。

 ずっと心配だった。


 友人の言葉に、アッシュは少し微笑み、


「そっちも無事でよかったさ、情報を持ち帰ってくれたんだろ? おかげで助かったさ」


 自分が囮になっている間、マルトンが敵陣の調査を遂行してくれた。

 そのおかげで教王に発見してもらい、結果的に自分は助かった。

 アッシュは感謝の気持ちを述べる。


「そ、そんな……ヘヘッ、当然のことをしたまでッス。それに坊ちゃんには助けてもらってばかりでさあ、あれくらいお安い御用ッスよ」


 と言って、どこか照れくさそうするマルトン。

 流石は元盗──いや、優秀な諜報員。

 潜入に関してだけはなんだかんだ言って頼りなる。


 そう思い、アッシュは先頭へ向かった。







 ──そして、教王に連絡を済ませた。

 今は広場を見つけて、みんなで仲良く休憩している最中だ。

 後輩の手当てを終えたアッシュは、辺りを一人でウロウロしていた。

 誰かを探しているみたいだ。

 

「あっ、イダイルさん」


 そして、見つけたらしい。

 岩にズッシリと腰をかける、ちょんまげ男のところに駆け寄った。


「おおっ! 無事であったか、おんどれ!」


 イダイルも少年に気がつき、豪快な笑みで向かい入れた。


「もう大丈夫なのか?」

「心配は無用まんねん! あの程度でくたばるおいドンではないゾ!」


 そういう割には結構傷だらけ、自慢のちょんまげも萎れている。


「そっか、よかったさ」


 でもなんか喋ってるし元気そう。

 アッシュは安心した。


「そ、それと……」


 次に、右側の地面に顔を向ける。


「…………」


 そこには仰向けになって寝そべっている、ちっこい女性がいた。

 顔には白い布が乗っけられている。


「シェ、シェリーさんは?」


 ピクリとも動いていない。

 アッシュは不安そうに見ていると、


「……うん、大丈、夫……」


 シェリーは力のない声でそう言い、親指をグッと立てる。

 ガルスロードにこっ酷くやられてしばらく動けない

 今はあんまり話したくないそうだ。


「そんなことより聞いたゾ! 奴を亡者にしてやったと! 教王から聞いたまんねん!」

「ああ、みんなのおかげさ」


 2人が先に戦って、相手の耐久値を削ってくれたのが大きかった。

 アッシュはつつしみ深さを見せる。


「よくぞおいドンたちの仇を取ってくれたゾ! あの畜生、今ごろピタ様に処されているまんねん!」


 悲しいことに、クロスオーブの番人は7年経てば再生する。

 なので、あの世で裁かれることは決してない。

 というのを知らないこのイダイルは、陽気に笑っていた。


「奴の首がないのが少し残念ゾ、しかしこの際それはどうでもよい! いや~、めでたい! 実にめでたいまんねん!」


 敵の死に、これでもかと歓喜している。

 イダイルが笑い声が広場で合唱された。


「ところで教王はどこさ? 見当たらないんだけど」


 辺りを一通り探してみたのだが、ジャックおじさんは見つからなかった。


「教王ならあっちの水辺の方にいるゾ。おおう! さてはおんどれ、さっそく褒美の交渉をする気か!」

「へっ? いや、そんなつもりないさ」


 自分はこれでもユースタント教の熱心な信徒。

 寝る前にはちゃんとお祈りだって捧げている。


 ”何ごとも質素であれ、

 さすれば汝はきっと救われる”


 という大変ありがたい教えに背くわけにはいかない

 自ら報酬を求めるなんてもってのほか。

 アッシュはその旨を伝えようとしたが、


「わっはっはっは! 誤魔化すでないゾ! なんだかんだ言っておんどれもやはりスターバード! そのようなところもあの親子にそっくりゾ!」


 貰える物は遠慮せずに全て頂戴する。 

 それが名家の作法というモノ。

 無宗教──いや、イベントなどがある時はしっかり参加する。

 ちなみに、この国では結構こういうご家庭は多い。

 国民的宗教がゆえに起きうる、悲しい裏事情だった


 とにかくにも、アッシュもこれで立派なスターバードの一員。

 存分に褒美をご所望すると良い。

 イダイルは高笑いしながらそう言った。


「はあー、違うって言ってるさ……」

「わっはっはっはっはっ!」


 まんねん、まんねん、まんねん


「──う、うるさいですよイダイルさん、笑うならもっと上品にして下さい」


 シェリーの音。


「はあー……」


 アッシュはガックリ肩を落とす。

 






 ──しばらくして、アッシュは川辺にいた。

 心地よい水流の音がする。小自然のささやかな恵み

 綺麗な天然水だ。


「…………」


 彼の他には、川の流れをただジッと見ている、大きな男がいた。

 これは教王、お国のトップだ。

 水に映る自分をたそがれるように眺めている。


「どうしたアッシュ? この水は飲めないぞ」

「ちょっと聞きたいことがあってさ」

「……減ってるだろう」

「えっ?」

「前はもっと賑やかだった」

「…………」


 教王の言う通り、確かに襲撃前と比べてメンバーが少なくなっている。

 自分たちは無事に撤退できた。

 しかし、中には逃げ遅れて殺された者や、敵に捕まった者もいるのは、目を背けられない事実。


 また、負傷者も多く出ており、対応に追われる医療班の人たちが忙しそうにしていた。

 いくら敵国に打撃を与えたとはいえ、受けた被害も無視できない。

 それが現状であった。


「……全部、俺の責任だな」


 今回の襲撃を決行したのはトップである自分。

 突発的な思いつきによる行動の数々。

 犠牲が出るのは最初から分かっていたこと。

 しかし、上に立つ者として何か思うところがあるのだろうか。

 教王は空を見上げながらそう言った。


「やっぱり俺には合わないな、そう思うだろ?」

「……教王」


 決して部下や民の前では見せない王の素顔。

 そこにトップな雰囲気はない。

 あるのは、ただ仲間たちを想う、一人の男の顔だけであった。

 それを目の当たりにした平民の少年は、かける言葉が見つからなかった。


「その様子を見るに、アイツからもう聞いたんだな」

「アイツ? なにをさ?」

「今更とぼけなくていいぞ。あの盗賊から俺のことを、その件でここに来たんだろう?」

「……ん?」


 ジャックおじさんの言っていることが良く分からなかった。

 聞きたいことがある以外、別に用はない。

 アッシュがさも不思議そうにしていると、


「……っ! なんだお前、ひょっとしてアイツから何にも聞いてなかったりするのか?」


 目を丸くする教王。


「聞いたも何も、そうしたいのは初めからオレの方なんだけど……」

「…………」

「盗賊ってマルトンのこと? 聞いたって何をさ?」


 疑問を浮かべるアッシュ。

 その間も、教王は面食らっている。


 すると、


「ハッハッハッハッハ! そうか、聞いてなかったのか!」


 突然、大声をあげて笑い出すジャックおじさん。


「えっ」

「いや、何でもないぞ! 子供は気にするんじゃない!」


 そんな風に言われたら、気になってしまうのが子供の性。


「なんか引っかかるさ……ってオレはもう子供じゃない! 何度もそう言ってるだろ!」

「そんなことよりもアッシュ、お前の打ち上げたオーブを見たぞ! いや、コイツは驚いた! まさかお前が打ち取ってくるなんてな!」

「話をそらすなよ!」

「ハハハハハ! 凄いじゃないか! お前を寄こしたプラスに感謝しないとな! よ〜しよし、ちゃんと帰ってきて偉いぞ〜!」

「うわっ⁉」


 ポヨン、ポヨンポヨン


 結局はぐらかされ、頭をガシガシされる、


「痛い! 痛いさ教王!」



 アッシュだった。

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