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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
130/142

124.最後の審判

 力いっぱいに押し込もうとするアッシュ。

 対して、両手で踏ん張ってみせるガルスロード。


 どちらも引くに引けないこの状況。

 互いに必死な形相で食らいつく。

 ここが頑張りどころ。

 彼らの長きにわたる戦いは、ようやく終わりを迎えようとしていた。


「くっ……!」


 アッシュの身体が少しずつ後方に追いやれていく 


「どうした少年! 力が落ちているではないか!」


 ガルスロードが一歩ずつ進み出す。


「これで終わりではないだろう! 否、終わってもらっては困る!」

「っ⁉」

「ハハハハハッ! ハーッハハハハハッーー!!!」


 この土壇場で、ガルスロードの力が増してきた。

 正体を現したと言わんばかりに豪快な笑みを浮かべる。


 見ての通りアッシュがピンチだった。

 慣れない力の多岐にわたる使用により、本人が気づかないうちに疲労が蓄積されていた。

 加えて、ここ来て相手がなぜか元気になっている。

 もう本当に勘弁してほしいところ。


 やがて、アッシュのオーブ、浮遊分離ホーミングクラッシュが少しずつ縮小していく。


「ハハハハハ! もっと気を引き締めたまえ! さもないとこのまま押し返してしまうぞ! 本当に終わってしまうぞーー!!!」


 しかし、


「くっ! うおおお!!!」


 アッシュが突然、右手をパーにし、真横に突き出した。


「──浮遊分離ホーミングクラッシュ! 行って来い!」


 手に光を集中させ、次の瞬間、一つのオーブを発射


 緑の光弾が森の中へと消えていく。


「っ⁉……君は何をやっている! 無駄撃ちではないか!」


 血迷ったか。

 何をするかと思えば、唐突で無意味な行動。

 右手のオーブで、威力の落ちた浮遊分離ホーミングクラッシュに再度パワーを加える。

 それならまだ理解できる。

 しかし、あろうことか全く関係のない所に放射した


「操作するつもりか! だがそれは不可能! 頼みの彼女は今ここに──」

「──フッ」


 アッシュの口元が緩む。


「っ! まさかっ⁉」


 ガルスロードは目を大きく見開いた。

 目の前のオーブからラズラの気配が消えていた。

 彼女がそこにいなかったのだ。


「ああ、そのまさかさ! 戻ってこい!」

「なにィッ⁉」


 やがて、先ほど放ったオーブ、ラズラが敵の背後に現れ、


「──浮遊分離ホーミングクラッシュ……」


 一直線、


双撃ツインクロス!」


 アッシュも手元のオーブを強く押し込んだ。


 ガルスロードを態勢を崩す。


「っ⁉」

「お前の負けさ、ガルスロード!」

「うがああああああ!!!」


 そして、2つのオーブが板挟みの形で直撃。


 挟み撃ちにされたガルスロードが両面から爆発する


 アッシュは素早く距離を取り、その場から離脱した


 シュウウウウ……


 決まった、そのまま煙が引くのをジッと待つ。


 ──浮遊分離ホーミングクラッシュ双撃ツインクロス……。

 またしても偶然生まれてしまったアッシュの奥義。

 浮遊分離ホーミングクラッシュを2つ出し、片方にラズラの意思を入れることで、二方向から仕掛けることを可能にした技である。

 

 オーブを分散させているため、単体時の浮遊分離ホーミングクラッシュに威力面では劣る。

 しかし、その分当てやすさは段違い。

 さらに、2つとも命中させることが出来れば、大ダメージを与えることができる

 これはもうロマンの域を超えている。

 必殺技だ、クロスオーブ使用時限定で使えるアッシュの必殺技だ。


 また、先ほどアッシュのオーブが小さくなっていたのは、これの準備をしていただけであって、別に疲れていたわけではない。

 もちろん消耗はしているが、ラズラは初心者に優しいありがたいクロスオーブ。

 どこかの扱いにくいのとは違うのだ。

 なので、まだまだ余力は残っていた。


 ガルスロードとの激しい競り合い中、アッシュは彼女の意志を引っ込める作業を密かに行っていた。

 マルチタスク。

 その間、少し押されていたというだけであった。

 相手の力が上がって、押し返されそうになったのは、ちょっぴりヒヤリとしたが……。


 やがて、立ち込めていた煙が晴れ、敵の姿を確認できるように。


「…………」


 ボロボロで今にも崩れ落ちてそうなガルスロード。

 生きている。

 瀕死の状態ではあるが、まだ生きていた。

 その生気のない瞳を、自身を追い詰めた相手に向けている。


「……終わりさ」


 敵ながら何かくるモノがある。

 アッシュはトドメを指すべくオーブを構えた。


「……っ」


 ところが、ゆっくり近づいてくる。

 フラフラながらも相手に接近しようとする。

 まだ戦おうとしていた。


 パシッ!


 ガルスロードの打つ弱々しい拳を、アッシュが片手で受け止めた。


「……もういいさ」


 戦いは終わったのだ。

 アッシュが諭すように言うが、


 スッ……スッ……スッ……。


 また打ってくる。無言で拳を放ってくる。

 立つことすらままならないその身体で何度も挑んでくる。


「くっ」


 なるほど、そういうことか。

 戦士として命のある限り戦い続ける。

 おそらくそういった類のモノだろう。

 なら話は早い、望み通りにしてやる。

 

 アッシュはそう考え、トドメのオーブを放つ。


 ボンッ!

 

 ガルスロードに直撃。


「…………」


 一瞬静止するも、すぐにまた動き出す。


 ボンッ! もう一発。


「…………」


 さらにもう一発。


 しかし、相手は倒れない。

 何度撃ち込んでも、執拗に反撃を繰り返してくる。


「っ! 浮遊分離ホーミングクラッシュ!」


 アッシュはしびれを切らし、本気で終わらせようとしたが、


「うっ⁉」


 突如、瀕死のガルスロードが放った拳。

 その拳圧に凄まじさにたじろいでしまう。


「な、なにさっ⁉」


 アッシュはギョッとする。

 目の前の男から異様な雰囲気、これまで経験したことのない何かを感じた。

 よく見ると、ドス黒いオーラのようなモノがドロドロと浮かび上がっている。


「……フッ」


 不気味に笑ってみせた。








 ──戦いは終わらなかった。

 数分前までは瀕死だったはずのガルスロード。

 しかし、今ではその名残りは全く感じられず、負傷前となんら変わりない動きを見せていた。


「くそっ! どうなってるのさ!」


 アッシュの額から冷たいモノが流れた。

 相当焦っているのが様子からしてうかがえる。


 敵が息を吹き返したこともそうだが、それ以上に不可解なことがある。

 倒れない。

 攻撃を何度当てても、一向に倒れないのだ。


 怯みはするものの、構わず突っ込んでくる。

 オーブの直撃した部位は焼け焦げており、ダメージは確かにあるはずだ。

 しかし、痛みなど気にも留めない様子。

 肉体に備わる本来の機能が失われている。

 無傷であるかの如く攻めてくる。


「…………」


 ガルスロードは無言、あのおしゃべり口が一言も発しない。

 ただ、その顔はケタケタと笑っている。

 これまでもいくらか笑みを見せていた。

 だが、これは違う。

 常に笑っている、表情がそのままに固定されていた

 

 まるで仮面をつけているよう。

 気味が悪すぎる。

 アッシュはその狂気にずっと当てられ、どうにかなってしまいそうだ。

 

「──浮遊分離ホーミングクラッシュ!」


 アッシュの一回り大きなオーブが相手に直撃。

 

 標的の身体は瞬く間に爆発に覆われた。


「……なっ⁉」


 しかし、煙が晴れる前に、ガルスロードが中から飛び出した。


 面食らったアッシュは反応が少し遅れ、相手の光撃ハードが直撃。


「うぐっ」


 ギリギリのところでガードしたが、受け止めきれず、殴り飛ばされてしまう。


 ガルスロードが一瞬でその背後を取り、そのまま追撃。


「ぐはっ⁉」


 アッシュの身体が宙に浮いた。


 さらに攻撃を加えられそうになったところを、ラズラが助けに入る。


 ガルスロードに襲いかかり、相手の注意を引く。


 そのスキに、アッシュはすぐに態勢を立て直し、自身も加勢する。


 ──戦闘能力が向上したわけではない。

 むしろ、最初の頃に比べれば幾分か落ちており、身体的影響はしっかりと受けている。

 ただ、考えらないほど耐久力が増している。

 攻撃が一切通じない。

 これだけのオーブを浴びせられて、まだ生きていることは異常である。

 まさに不死身という言葉が相応しい。

 

 悪足搔きをしているようには見えない。

 勝ちにいっているとか、まだ諦めてないとか、最後に一矢報いるとか、そういうのでもない。

 今のガルスロードからは意思というモノを全く感じられなかった。

 

 戦うことそのモノが目的。

 修羅と化しているわけでもなく、また、何かが乗り移ったとかでもない。

 あくまでガルスロードそのモノ、自身の戦い方に興じている。


 ただ恐ろしいほどに冷静。

 表情だけが不気味に笑っている。

 今の彼は、生、はたまた死にすら執着がない。

 それは本能とは違う、もっと歪な何かだった。

 

「ハア……ハア……」


 苦しそうに息をするアッシュ。


 そろそろクロスオーブを維持するのが限界だった。

 せっかく頑張ってここまで追い詰めたというのに……。

 倒せる気が全くしない。

 このままでは力尽きて負けてしまう。


「…………」


 あのドス黒いオーラ、アレもオーブなのか。

 相手に何が起きているのか見当もつかない。

 ただ一つ、これだけはハッキリと分かる。

 コイツを皆のところに行かせるのはダメだ。

 自分がなんとしても食い止めなければならない。

 

 方法は分からない。

 でも、例えこの命に代えても……。

 アッシュは乱れた息を整え、


「……っ!」


 死を覚悟した。


「──浮遊分離ホーミングクラッシュ!」


 ラズラを真横につけ、敵に突っ込んでいく。


 が、しかし、


「っ⁉」


 突然、ガルスロードの左腕が、砂のようにボロッと崩れ去った。


「……時間切れか」


 自身に起きた異変に、ガルスロードがそう言った。

 表情はもう元に戻っており、どこか清々しさを感じられる。


「なに、私の肉体は当に滅びていた。ただそれだけの事ではないか」


 あの時、アッシュの浮遊分離ホーンミングクラッシュ双撃ツインクロスを受け、すでに彼の身体は死んでいた


「この戦い、君の──いや、君たちの勝利だ」


 ガルスロードの肉体が欠けていく。

 もう下半身の辺りはほとんど消失しており、残された時間はあと僅かであった。


「ところで、君はもう勘付いているだろう、私たちの正体が何なのか」


 神の使い、番人の隠された秘密。

 その問いに、首を振って否定するアッシュ。


「まあいい……最後に一つ、君にお願いしたい」

「……聞くだけなら聞いてやるさ」

「フッ、それで構わない。今は確か、ヘルナという名であったな」


 アッシュはゴクリ……。


「君を認めたわけではないが……」


 その澄み切った瞳を相手に向け、


「娘を、どうかお願いしたい」


 最後に深々とお辞儀し、砂となって消失した。


 その場に立つのは、アッシュだけとなり、辺りは静寂に包まれた。


 ドサッ


「はあ……はあ……」


 アッシュは膝をつき、地面と向かい合う。


「なんだったのさ……アレ……」


 危なかった。

 良く分からないが助かった。

 勝利の余韻に浸る間もなく、生き残ったことにただ安堵していた。


「…………」


 本当に終わったのか。

 そう思い、アッシュは静かに顔をあげた。


 真っ白な砂が風に流され、空へと登っていく。


 スー……


 アッシュは立ち上がり、腕をかかげた。


 そして、


「っ!」



 空に撃ち上げた。

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