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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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12.洞窟の熊

 アッシュは目を覚ました。

 周りは岩で囲まれている。

 どうやら洞窟の中にいるみたいだ。


 乱雑に敷かれた布団で寝ていたせいか、身体がとても痛む。

 実に最悪の目覚めである。


「わっ!?」

 

 ふと隣を見ると、そこには巨大な熊がいた。

 驚いたアッシュは腰を抜かしそうになる。


「おう、やっと起きたか」


 しかし、話しかけてきた。

 目を凝らして見てみると、熊ではなく大きな人間であった。


 それは熊のような大きい図体をして、強面な顔。

 見るからに柄が悪そうな、誰がどう見ても悪人である。


「ここか? ここは俺の掘った洞窟だ。すげえだろ?」


 冬眠でもしていたのかと、目の前の人間を疑う。


 焚火をして暖を取っている。

 それが洞窟内を照らす明かりにもなっている。


「ほれ、腹減ってんだろ。食え」


 男は焼いた魚を差し出す。


「ありがとう……」


 アッシュはお腹がペコペコだったため、ありがたく頂いた。

 2人は無言で食べる。


 頭が冴えてきたアッシュは、謎の老人に襲われたことを思い出した。

 途中で気を失ったので、あの後のことが分からない。

 このおじさんが助けてくれたのだろうか。


「さて、積もる話もあるがお前、名前はなんて言うんだ?」


 少し間をあけて答えた。


「アッシュ? あん? 聞き覚えのある名前だな」


 少年の顔をじーっと見る。

 大きな顔面がとても恐く、アッシュは動けなくなる。


 さらに男の尋問が続く。


「お前、下の名は?」

「ス、スターバード」

「スターバードだと⁉ アイツ、いつの間にガキなんか……いや、あの年でガキは……ギリギリいけるか?」


 男は驚いた様子でブツブツ言う。


「ならよ、お前の父ちゃんはなんて名前なんだ?」


 アッシュは自分が記憶喪失で、この名前も引き取ってくれた人がつけてくれたと説明した。

 そう聞いた男は、難しい顔で割れたアゴを触る。


「記憶がねえのか。そんじゃあ今はスターバードの家にいるってことか?」


 アッシュはうなづく。


「そうか。にしてもお前……あーん?」


 と言って、またアッシュを見た。

 大きな顔が恐すぎて、アッシュはちびりそうになる。

 あまり見ないで欲しいと願うばかりだ。


「やっぱ似てるな」

「似てる?」

「ああ、アイツの面影がある。ところでその名前をつけたのは誰なんだ?」


 この悪人にそこまで教えていいのか。

 でも言わなかったら何をされるか分からない。


「プラスが……」

「プラス? って、たしかスターバードの嬢ちゃんか?」


 どうやらこの男はプラスを知っているようだ。


「ガハハハッ! わかったぞ。そうかそうか!」


 いきなり男が笑い出した。

 品のない笑い方だ。


「兄ちゃんにそっくりだもんな! そりゃあ、こんな名前つけるよな!」


 アッシュは困惑する。


「いやあ、すまんすまん。ついおかしくて笑っちまった」

「あのさ、プラスの兄って?」

「おう、ナッシュ=スターバードだ。笑っちまうだろ」

「ナッシュ?」


 男からまた笑いが漏れた。


 自分の引き取った子どもが、死んだ兄のナッシュに似ていた。

 だから少年にアッシュと名付けた。

 それを知って男は笑ってしまったと言う。


「兄ちゃんにベッタリだったもんな。いつも後ろからトコトコついて来てよ、アイツも困っていたぞ」


 笑わせてもらった次いでにと、プラスの昔話をしてくれた。


「俺もたまに遊んであげてたんだが、これがまた生意気なガキでよ。勝手に俺の頭に登って命令するんだよ」


 クマさんゴー、はっしーん! っと。


 男の話を聞いて、アッシュも笑った。

 プラスの知り合いということもあり、緊張も解けてきた。


 ところで、一つ気になることがある。

 そもそもこの男は誰なのか。


「あの、おじさんは?」

「あん? 俺か? 俺はゴーだ」


 アッシュの目が丸くなる。

 この男は、あのヴァリアード残党のゴー=ルドゴールドだった。

 そのゴーと今までのんきにお話ししていたのだ。


「あん?」


 本当に極悪人だった。

 少年の反応を見ると、頭を触りながらめんどくさそうに言う。


「あー、そうだったな。俺はヴァリアードってことになっていたな」

「なっていた?」

「そのことなんだが、なんでお前はアイツに襲われていたんだ?」


 アッシュは老人の言っていたことを思い出した。

 「記憶が戻ると厄介」だと。

 自分の記憶喪失に、あの老人が関与しているのではないか。

 ことの経緯をゴーに伝えた。


「なるほどな。お前を襲った爺さんは、ザーク=ザイコール。第一教区の支部長だ」

「えっ⁉︎」

「そしてこの俺をヴァリアードに仕立て上げたクソッタレだ」


 ゴーの顔が険しくなった。

 

「あの野郎に仲間を殺されたんだ。あろうことか、その容疑を俺に擦り付けやがった」


 当時、支部長だったゴーは、怪しいザイコールの動きを探っていた。

 だが、それがバレてしまった。

 仲間を殺された上、周囲にヴァリアードだとでっち上げられたそうだ。


「で、教会に追われて今に至るってワケだな」


 こうやって隠れて洞窟暮らし。

 ゴーは高らかに笑う。


「なんで昨日はあんな所にいたのさ? 助かったけど」

「ああ、近いうちに教会に攻め込む。その偵察だ」


 噂は本当だった。


「ここの暮らしも思いのほか悪くねえ。だがそろそろやり返さねえとな」

「ホントにやるのか?」

「馬鹿野郎、もう予告状まで送ったんだ。やめちまったらカッコ悪いだろうが」


 国の象徴である教会を奇襲するのは如何なものか。

 そんなことをしたら、名実ともにヴァリアードになってしまう。

 そこで丁寧に予告状を送り、襲撃を知らせることにしたそうだ。


「これでザイコールの野郎を気兼ねなくぶっ殺せるってもんだ。そうだろ?」

「なにか違う気がする」

「いいんだよこれで。ガハハハ!」


 本人が良いのならきっと良いのだろう。

 アッシュは突っ込まないことにした。


「んで、お前はどうする? 来るか?」

「行かない」

「即答かよ。やられたままでいいのか?」


 行ってもすぐ殺されるだけだ。

 昨日は逃げることすら出来なかったのだ。

 次ザイコールに会ったら命は無い。

 なぜわざわざ怖い目に会いに行かなければならないのか。


「ヤツの相手は俺がするから問題ねえ。お前には教会の地下室に行って貰いてえんだ」

「地下室?」

「仲間の情報によると奥に何かあるってよ。ソイツと2人で調べて来てくれねえか?」


 自分が教会で暴れているうちに、地下室に潜入して調べてほしい。

 何も無いならすぐ戻っていいとゴーは言う。


「イヤならここでお留守番だが」


 アッシュは少し考え、


「わかったさ。でも危なくなったらすぐ帰るからな」


 助けてもらったことだし、ゴーの提案に乗ることにした。


「ああ、十分だ」


 返答に満足したようだ。


「よし、そうと決まれば修行だな! お前の実力も気になるしよ!」

「修行? 特訓じゃなくて?」



 首を傾げた。

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