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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
128/142

122.激突! アッシュ 対 ガルスロード

 いくつか木々を突き破り、猛スピードでぶっと飛んでいく高速の物体。


「──ぐはっ⁉」


 やがて、丈夫な木に叩きつけられ、ようやくその動きが停止した。

 衝撃で上から葉っぱがヒラヒラと落ちてくる。


「はあ……はあ……」


 アッシュだ。

 木に背中を預け、酷くうなだれるアッシュだった。

 呼吸も荒い。


 無残にも、ガルスロードとの戦闘でここまで追いやられていた。


「くっ……」


 悔しそうにかみしめた。


 ──前回、完膚なきまでにやられ、ボロ雑巾と化したアッシュ。

 ガルスロードと接近戦はやってはいけない。

 そう考え、今回はセオリー通りの遠距離に徹していたのだが、結果は見ての通り変わらなかった。


 お相手は分離リーブを使えないのか、単にそういう主義なのかは分からない。

 ただ、ひたすらに接近しようとする傾向。

 近距離戦に強いこだわりがあるように見えた。


「はあ……はあ……」


 クロスオーブのおかげで基礎能力は遥かに向上した

 それはいい。

 光撃ハードが強い者ともある程度は張り合えるようになった。

 それもいい。

 しかし、それでも、アッシュの喧嘩センスを以てしても、相手には敵わなかった

 

 いくら条件を対等に近づけたところで、ガルスロードには勝てないのだ。

 スキを突こうと色々やったが、全て駄目だった。

 裏をかこうとしても、ことごとく一蹴された。


 神の力を授かったところで、覆りようのない圧倒的実力差。

 その厳しい現実に、無力な己に、アッシュただ嘆くしかなかった。


「──戦意喪失、と言ったところだろうか」


 ガルスロードが森の影から現れた。


「近距離、遠距離。フッ、どれも器用にこなしているな」


 ゆっくりと迫ってくる。


「だが所詮それだけ、特に秀でた物を持つわけでもない」


 虚しいではないか。


「そのようなやり方では真の強者、このガルスロードには通用しない」


 ピシャッ


 2人は睨みあったまま動かない。

 蛇に睨まれた蛙。

 ガルスロードに睨まれたアッシュの構図だ。


「前にも言ったはずだ、従えるようではダメだと。モノとして扱っては意味がないと。私の時はそれでいいかもしれない、むしろ存分に振り回して貰いたい」


 ラズラはその愛を持って所有者に力を授ける。

 対してガルスは、望むなら誰にだって力を与える。

 ただし、できるものならやってみろ、という意味ではあるが。


「何度もそう忠告したではないか」

「いい迷惑だって言ったさ」


 それはこっちのセリフだ。

 アッシュがうなだれながらも言い返す。


「つまり君は彼女に興味がないと? ならばなぜ彼女の祝福を受ける」

「そんなの、知らないさ」

 

 アッシュは顔をひどく歪めた。

 おそらく本心で言っているのだろう。

 本気で迷惑している時の顔だ。

 少年の濁った瞳を見て、ガルスロードはそう感じ取っていた。


「彼女の愛に、同じく愛で応える。ただそれだけでいい、それだけで君はずっと強くなれる」


 決して簡単なことではない。

 だが、アッシュはその資格を有している。


「……にわかに認め難いことではあるがな」


 とガルスロードは言葉をつづる。


「…………」

 

 なら放って置いて欲しい。

 これ以上、自分とあの女の間に介入しないで欲しい

 DVなアッシュはそう思う。


「君は愛されている、それも考えられない程に、だ。これほどまでの愛を受けているというのに、なぜ彼女に応えようとしない」


 愛してたまるか、勝手に愛されてたまるもんか。


「まぁ、だとしても、この私には勝てないがね」


 結局それに繋げたいだけであったか。

 自我自賛する相手を見て、アッシュは無表情で呆れかえる。


「……愚かだ」

「っ!」

「君のことではない、君を選んだ彼女がそうだと言ったのだ」

「…………」

「ああ、私の可愛いラズラよ、なんてことだ……よりによってこのような、まだ愛を知らぬ未熟な少年を選んでしまうとは……」

 

 とても不憫ではないか。

 ガルスロードは仮面越しから涙を流した。


「言いたいことはそれだけかよ、ガルスロード」


 本当にバカバカしい、アッシュが言葉を挟む。


「ほーう?」


 仮面越しから不気味にのぞかせるダークな瞳。

 空気の流れが刹那的に変わる。


「よろしい。では彼女のためだ、君には消えてもらおうではないか」


 強烈な殺気を放つガルスロード。


「くっ、くそ……」


 それにやられまいと、アッシュは身体を震わせ、必死に立ち上がろうとする。


「どうした、早くしたまえ」

「っ⁉」


 キュピーン!


 ノロノロする少年に見かねたガルスロードが、神の瞳を行使し、アッシュを強引に立ち上がらせた。


「最後の助け舟を出したつもりだったが、君には無用であったか」


 彼女との契約は破棄してもらう。

 それはすでに決定事項。

 だが、もし心を入れ替えると言うなら、彼女を開放すると言うのなら、その命までは取るまい。

 このガルスロードは当初そうするつもりであった。


「だというのに、まだ私とオーブを交えるか、ここまでやられてなお挑もうとするか」


 やはり人間という生き物は愚か。 

 思考があまりにも下等である。


「君の底はとうに見えている、もはや抗うすべは──」

「──分かってるさ、そんなこと」


 アッシュが言葉をさえぎった。


「オレがいくら逆立ちしたって、お前には勝てないことくらい」


 こうなるのも何も、初めから分かっていたことだ。


「でも、いま戦えるのはオレだけさ。だからオレがやるしかない」


 クロスオーブを所持しているのは自分だ。

 だから、自分がガルスロードの相手をしなくてはいけない。

 ただそれだけ。

 本当はイヤだ、レクスのところに行きたい。

 でも、アッシュは我慢してここに来た。


「無駄なことを、君のその小さな牙が私に届くことはない。すでに理解しているだろう」

「それでもやってやるさ」

「ほーう」

「それに、消耗しているのはお前の方さ。そうだろ、ガルスロード」

「……っ!」

「イダイルさんやシェリーさん……ヘルナ。あの3人を相手にして余裕だったはずがないさ」


 アッシュは相手の身体に目を向けた。

 澄ました顔で何ともなさそうにしている。

 だが、服は所々焼け焦げており、左腕から大量の出血が見られる。

 

 強がっているのは誰の目からも明らかだ。

 そうでなければ、自分はとっくにやられていた。


「お前はここで倒さないとダメさ」


 みんなのおかげだ。

 この機を逃したらもう勝てない。

 仲間が作ってくれたチャンス、積み上げたモノを無駄にはできない。


「──浮遊分離ホーミングクラッシュ

 

 アッシュがオーブを作り、それを前にかかげた。


「さあ、行ってこい、オレのオーブ!」


 そのまま敵に向けて発射した。


 一直線に放たれる緑の光弾。

 アッシュが込められるありったけの分離リーブだ。


「フッ、またそれか」

 

 ガルスロードは身体をそらし、簡単に避けてみせた


「悪あがき、見苦しいではないか」

 

 すでに何度も見せられた。

 戻ってくることも承知している。


 視線は相手にやったまま、背後から飛んできたオーブを、何事もなくかわす。


「くっ」


 アッシュは2本の指で操作し、敵に追尾させる。


 が、全く当たる気配はない。

 ガルスロードは腕を組み、さも余裕そうに避けている。

 まるで、子供に玉遊びに付き合ってあげる優しいお兄さんみたいだ。

 

「君はオーブを操るタイプか。フム、凡庸だが実際にそうはいない」


 これまで戦ってきた中で、アッシュを除いて2人ほどいたそうだ。


「精度は君がダントツでいい、やはり器用ではないか」


 操作すると言っても色々あるので、威力とかは一概に比べることはできない。

 ただ、アッシュのやつが一番イキが良いとのことだ


「しかし、やはり悲しいではないか。こういうのは直接戦闘には適していない」


 相手の攻撃をかいくぐりながら、オーブを操作するのは至難の業。

 実力が近い者同士、上の者となると尚のことそうだ

 普通に戦った方が良い。


「扱うには少々工夫が必要、まさしくウィークオーブの性質そのモノ」

「……っ」


 そんなことは言われなくても分かる。

 ずっと向き合ってきた自分が誰よりも理解している

 一々解説しなくていい。

 アッシュはさらにオーブの速度を上げた。


「どれ、君の芸にも飽きてきた。見るに本当に品切れのようだ」


 もうこの少年から何も出てこない。

 そう思い、ガルスロードは一度大きく下がり、追尾攻撃から脱出した。


 地面を強く踏みしめ、足にオーブを込めた。


 しかし、

 

「いまさ!」


 アッシュは指をクイッと上げたかと思うと、即座に下に向けた。


「っ⁉」


 主人の命令通り、オーブは一度真上に跳ね、地面まで一気に急降下。


 そのままバンッ! 両者の真ん中に落ちた。 


 勢いよく巻き上がる砂埃、小規模の爆発。


 アッシュはその場から素早く離れ、森へと姿を消す

 お得意の姿くらましだ。


「──隠れたか」


 煙の中からガルスロードが出てきた。

 

 おそらく一度身を隠して、オーブ操作で一方的に攻撃するつもりなのだろう。

 本来そういう使い方を想定していたはずだ。


「だが、それももう見飽きた」


 ガルスロードは破裂バーストで空高く飛び上がった。


 そして、空中で静止したまま辺りを見渡す。


「っ! そこか!」


 ガルスロードは、同僚の神さま、つまりラズラの気配を感じ取ることができる。

 距離にもよるがある程度なら分かるそう、ストーカー気質だ。

 アッシュは現在、クロスオーブが体内にスッポリ。

 つまりそういうこと、モロバレだった。


 ガルスロードは宙を蹴り、彼女の元まで一直線に向かう。


 そして、あっという間にたどり着き、降り立った先にアッシュが──


「なにッ⁉」


 しかし、そこにアッシュの姿はない。


「これは……⁉」


 代わりに白銀の輝きを放つ、緑のオーブがプカプカと浮かんでいた。

 

 ガルスロードが面食らっていると、


 それが急スピードで襲いかかる。


「っ⁉」


 結構近い距離であり、また動揺していた。

 直撃を受け、周囲に爆炎が昇る。


「──くっ」


 ガルスロードはすぐ煙から飛び出した。


 一度空に退避し、態勢を整えようとしたが、


 シュンッ


「──ガルスロード!」


 アッシュだ。

 躱した先にアッシュが待ち構えていた。


「っ⁉ ぐはっ⁉」


 振り向いたところに、全力の光撃ハードを叩き込む。


 そのまま顔面にねじ込み、地表までぶっ飛ばした。


 ズドンという大きな音と共に、森が全体が振動する


「やったさ!」


 ようやくまともな一撃を決めてやった。

 アッシュは地面にスタッと降り立つ。


「くっ……」


 ガルスロードは膝をつき、ダメージを隠せないでいる。

 

 破裂バーストで逃げた先に、相手の光撃ハードが待ち構えていた。

 いわばカウンターを喰らったようなモノ。

 その相乗効果で、思いのほかダメージが大きい。

 もし少年のオーブが強ければ、首がねじ切れていたかもしれない。

 

 また、直前にアッシュの浮遊分離ホーミングクラッシュを受けており、それも身体にキていた。

 これまでに受けた攻撃が、すべて噴き出てきたという感じだ。

 立とうにも立てない。


「──浮遊分離ホーミングクラッシュ!」


 チャンスだ、アッシュがオーブを出した。


 オーブを手から放し、二手に分かれて突っ込む。


「見くびって貰っては困る!」


 ガルスロードもすぐに立ち上がり、相手を向かい撃つ。


 そして、両者が衝突、再び接近戦が始まった。


「操作しながら戦う気か、愚かだ」

「くっ!」


 激しい肉弾戦の最中、アッシュのオーブが近くで浮遊していた。

 スキをうかがっているようだ。

 

 アッシュが接近戦を行いながら、片手間で操作していた。


「不可能だ! よりにもよって私との闘いでやろうとしている!」


 それには多大な集中力が要求される。

 格下相手ならまだ出来るかもしれない。

 だが、対するは遥か格上のガルスロード。

 どちらも疎かになってしまう。まさに本末転倒。


「っ⁉」


 しかし、アッシュの動きが衰えていない。

 相変わらず押されてはいるものの、できる力の全てを持って、相手と打ち合っている。

 

 しかも、今は両手が塞がっている状態。

 確か、右手を使って操作していたはずだが、それもやっていない。

 少年が意思のみで動かしている。

 

 果たしてそんなことが可能なのか?

 どうして今までそうしなかった?

 ガルスロードが不審に思っていると、


 次の瞬間、


「なにッ⁉」


 オーブも襲いかかってきた。


 ガルスロードは瞬時に身体をひねってかわす。


 すると、オーブが的確に方向転換し、精密な動きで再度突っ込んできた。


 アッシュもそれに合流し、二対一のような形となる


「どういうことだ⁉」


 困惑しながらも、なんとか対応するガルスロード。

 だが、流石に厳くなる。

 2人の猛攻にやや防戦気味になってしまう。


 ──オーブを操作しつつ、接近戦をするといった行為は、簡単に言うと、2つの作業を同時にやっているようなモノ。

 マルチタスク、どうしても片方に気を取られてしまう。

 どちらも100%の動きはできないはず。

 しかし現に、目の前の少年はやってのけている。


 それに、


「この気配……っ! まさか⁉」


 

 目を見開いた。

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