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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
126/142

120.もう遅い

 一方その頃、遠く離れた第四教区付近の森にて。

 戦場と化している街から、少し落ち着いたところ。

 ここでは、シェリーとイダイルの2人が協力して、暗殺対象であるガルスロードとの戦闘を行っていた。


「む、無念……まん……ねん」


 しかし、それももう限界であった。

 イダイルは力尽き、その場に崩れ落ちる。


「イ、イダイルさん……」


 シェリーもすでに戦闘不能に追いやられていた。

 地面にちょこんっと横たわっている。


「2人がかりでこの程度か。所詮は人間、これが限界のようだ」


 ガルスロードが動けない2人にゆっくりと近づく。


「ついて来られると後々面倒。まずはデカいの、お前から消してやろうではないか」


 息の根を止めるべく、イダイルにオーブを向けた。


「な、仲間が……ごはっ」

「ん?」

「仲間が……貴様の首を、必ず跳ね飛ばしてくれるゾ」

「さ、さっさと、し、死んでください……クソ野郎」

「ほーう、一応期待しておこう」


 拳を振り下ろす。


 次の瞬間、


 ──バシュンッ! 一閃の光


 ガルスロードの腕を背後から貫いた。


「っ⁉」


 ガルスロードは即座に振り向くも、後ろには誰もいない。


「このオーブ、この感覚……まさかっ!」  


 一時たりとも忘れたことがない。

 彼女の力を感じ取る。


「くくくっ、会いたかったよ、私のラズラ!」


 このオーブから漂う香り、間違いない。

 彼女、ヘルナ=ラズラールのモノだ。


 目標を補足し、直ちに地上を離れた。


 前方およさ300メートル先に見える大きな高木。

 そこからオーブと思わしき光が観測された。


 ──バシュンッ!


 超密度で発射された光の弾丸。


「……っ」


 今度はガルスロードの左肩を貫いた。


「この攻撃……フム、本気のようだ」


 こちらに向けて放たれる一点、彼女の殺気。

 ひとまず動きを止め、空中で静止する。


 高木から光が集中、


 ──バシュンッ!


 左耳タブが削られた。

 首を反らさなければヘッドショットを食らっていた


「っ……だが急所に当たりさえしなければ問題ない、このまま直進するのみ!」


 破裂バーストで急発進し、高木まで最短で向かう。


 瞬く間に風と一体化していく。


 周りの木を遮蔽物にして進むという手段もある。

 だが、この男はそうしようとはしない。

 このスリリングな状況を楽しんでいるように見えた


 ──バシュンッ!


 ガルスロードの左腹部をかすめた。

 致命傷にならないよう、ギリギリの所で避けている。

 速度が衰える様子は全くない。


 やがて、あっという間にたどり着いた。

 

 そのまま襲おうとはせず、一旦木の下で待機する。


「どれ、一度下りてきてはどうだろうか。ラズラ」

「…………」


 その言葉に観念したのか、高木から狙撃主のヘルナが現れた。


「手荒い歓迎だ。危ないではないか」

「……ガルス」


 無言で互いを向かい合う。

 2人は番人同士。

 久しぶりの再会に何か思うところがあるのだろう。

 良く分からないが不穏な雰囲気が漂ってきた。


「まさか君の方から会いに来てくれるとは、珍しいではないか」


 中々喜ばしいではないか。

 ガルスロードは仮面越しに笑みを浮かべた。


「そんなわけない」


 勘違いしないで欲しい。

 ヘルナが即訂正した。

 2人はクロスオーブの番人、つまるところ同僚である。

 しかし、仲はあまり良くないらしく、特にヘルナの方はピリついている。

 

「では一体何の用だろうか?」

「……注意しに」

「ほーう?」

「これ以上、彼に危害を加えないで」

「彼……とは?」


 彼というのは、愛しのご主人様のことだ。

 その大切な少年をひどく傷つけたこの男に、ヘルナは大変ご立腹であった。


「何を言い出すかと思えばそんなこと。フンッ、くだらないではないか」

「ムッ」

「私にも主がいる、あくまで命令に従ったまで」

「嘘つき、そんな気ない癖に」


 ガルスロードはヘルナと違って、ご主人様絶対主義ではない。

 本人いわく守ってやる義理はないそうだ。

 現に、今この瞬間も敵と戦っている主の助けに入ろうとはせず、自分の好きなように暴れている。

 なぜザイコールの下についているのか。


「彼がこの戦いの中心にいるからだ。あの老人は戦いを引き起こすいわば動力源、私にとってこれ以上の原動力があるだろうか」


 主としては色々不満がある。

 お年寄りではなく若い、出来れば女性が好ましい。

 美人であることに越したことはない。

 そこに気の強さが加わればなお良い。100点満点。

 

「ちなみに、あの老人は甘めに採点したとしても0点。フッ、辛いではないか」


 でも、そこにさえ目を瞑ればさほど悪くはない。

 ザイコールの近くにいれば、嫌がおうにも戦いの渦に呑まれていく。

 それは、このガルスロードにとっては願ってもないことだ。


「……もういい」


 相変わらずの戦闘厨……。

 ヘルナはあきれ果てた。

 言いたいことはもう言ったし、これ以上口は聞きたくない。

 クロスオーブの番人は互いに不干渉が望ましい。


 これからご主人様の命令である、標的の少女レクスの狙撃作業に移らなければ。

 忙しいため、ヘルナは背を向けて立ち去ろうとした


 ところが、


「──忠告の件だが」


 まだ用がある。

 ガルスロードが絶妙な間をおいて、


「破棄する、と言ったらどうなる?」


 仮面の奥から覗かせる不気味な光。


 周囲が殺気立つ。


「っ!」


 次の瞬間、ヘルナがオーブを乗せて襲いかかる。


 しかし、ガルスロードに素手で止められた。


 周りの小鳥たちが一斉に飛び立った。


「邪魔しないで」


 グググググ……


 ヘルナが睨みつけた。

 珍しく怒りを露わにしている。


「フッ、気に触ったか。私の可愛いラズラよ」

「その名前で呼ばないで」


 掴まれた手をグッと振りほどく。

 

 再び両腕に光を纏い、相手に飛びかかった。


「冷静には見えないな、その戦い方は君には似合わない」


 ガルスロードは攻撃を軽くいなす。

 仮面越しからでもその余裕っぷりが伝わってくる。


「なぜそれほどまで彼に入れ込む? どこにでもいる普通の少年ではないか」

「っ!」


 スカッ、避けられた。


「あまり良い扱いは受けてないだろう、彼と拳を交えて良く分かる」

「喋らないで」


 スカッ、当たらない。


「その首のアザは一体なんだ? 彼にやられたのか」

「っ! あなたには関係ない」


 ガルスロードは決して手を出そうとしない。

 大事な娘の反抗期を見守るかの如く、相手の攻撃を躱し続けた。

 ヘルナではまるで相手になっていない。

 番人同士と言っても、その力量にはかなり差があるようだ。


「っ⁉︎」


 パシッ、またしても簡単に止められた。


「っ、放して」

「一つ、君は勘違いしている」


 ガルスロードが鼻先まで顔を近づけ、


「私は君を傷つけない……とでも思っているのか」

「っ!」


 激しい悪寒が全身に走る。吐き気もだ。


「うっ⁉︎」


 突如、ガルスロードの放った強烈な蹴りが、ヘルナの腹部に突き刺さった。


 内蔵がメキメキと嫌な音を立てる。


 軽い身体は吹っ飛び、後ろの木に背面衝突した。


「君がここまで男を見る目がなかったとは、悲しい話ではないか」

「うぅ、けほっ、けほっ……っ!」 

「やはり弱みを握られているな、そうとしか考えられん。どうだろうか、この件は一度私に預けてみては。すぐ解決に導いてみせよう」


 ガルスロードは一歩ずつ近づきながら、ヘルナについた悪い虫を引き剥がすべく説得を試みる。


「……イヤ」


 ヘルナは首を一心にブンブンする。


「私が助けてあげよう、君の騎士になってあげよう」

「絶対、イヤ」

 

 キモすぎる。

 ヘルナは顔をあげて全力で否定する。

 張り付いているのはむしろ自分の方だし、脅迫されてるわけでもない。

 その澄み切った瞳で主張した。

 

「……それほどまで浸透していると言うのか、あの少年に」

「うん、すごく大事」


 いてくれないと困る。

 ヘルナは頬は赤らめた。

 もう完全にアウトだ。


「…………」

 

 思ったよりずっと根が張っている。

 なぜここまであの少年にゾッコンなのか理解に苦しむ。

 ガルスロードの仮面と心がピシリと軋む音がした。


「……どうやら口で言っても無駄みたいだ」

「うん、意味ない」


 ヘルナがやっとうなづいた。調子づいてきた。


 しかし、


「ならば仕方がない。ラズラよ、あの少年との契約を直ちに破棄しろ」

「っ⁉」


 突然何を言い出すのか、そんなこと出来ない。

 ヘルナは分かりやすく目をギョッとさせた。


「これは命令だ。言うことを聞かなければ……」


 ボワッ!


 拳に光を集中させた。


「これで少しの間眠ってもらおうではないか」


 神の使いは死んでも一年経てばまた復活する。

 例え、身体が消滅しようとも、肉体そのものが再構築される。


 今回はその性質を利用していく。

 悪い男の口車に簡単に乗せられてしまう頭の弱い子には、お仕置きも兼ねて一度眠ってもらう。

 その間に、ヘルナをたぶらかすあの悪い少年をゆっくり始末する。


「なに、君は安心して眠っていればいい。君にかけられた呪いを解いてやろう」


 次に起きた時、お姫様は2つの意味で目を覚ます。

 ただの悪い夢、全てが元通り。

 これまた結構な強硬手段である。


「いや……っ」


 ご主人様がいない、もう会えない。

 そんなの堪えられない。

 しかし、必死に動こうとしても身体に力が入らず、まるで拘束されたようにビクともしない。


 キュピン!

 

 ガルスロードの瞳から怪しい光が放たれた。

 ヘルナがここへ来る前に、ご主人様を黙らせるために向けた、あの目だ。


「別れが辛いかラズラよ。安心したまえ、またすぐに会える……私とだが」


 ガルスロードが拳を振り上げた。


「い、いや……いやっ」


 ヘルナの顔が絶望に変わる。

 身体の震えを隠せない。


 ──サッ、サササッ


「っ!」


 突然、目の前に背中が現れた。

 まだどこか頼りない、よく知ってる少年の背中だ。


「…………」


 そうだ、これは幻、最後にご主人様の幻影が見えた


「……っ」

 

 触れないと分かっていても、ヘルナは手を伸ばす。


 しかし、


「き、君はっ⁉」


 幻影が相手の手首を掴み、攻撃を阻止した。


「──浮遊分離ホーミングクラッシュ


 背後から緑のオーブが現れ、進路を変えて襲いかかる。


「っ⁉」


 ガルスロードは手首を掴まれて逃げられない。


 そのままオーブが衝突。


 3人もろとも爆発に呑まれてしまう。


「ゴホッ、ゴホッ」


 ガルスロードが煙から脱出した。

 オーブの直撃を受けたため、背中が焼け焦げ、肌が露出してしまっている。


「──丸盾シェル

 

 やがて煙が晴れ、中から盾を張って姫を守る、銀色の騎士が登場した。


「……っ!」


 ヘルナは大きく目を見開いた。


 それは愛しのご主人様、


「…………」


 

 アッシュだった。

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