表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
123/142

117.答え合わせ

 ゲリードマンの雷撃を受け、プラスは片膝をつく。


「フッフッフッ、どうです? 自分のオーブのお味は」

「……っ」

「なんですかその目は。気に入りません、ねえ!」


 もう一度振りかざした。


「ああっ⁉ あああああっ!!!」


 プラスは悶え苦しむ。


「はあ……はあ……」


 ギロッ、睨むのをやめない。


「っ⁉ フッ、ハハハハハッ! そうですか、そういうことですか」


 何かを悟った様子。

 ゲリードマンは気味悪い笑みを浮かべ、


「この私を愚弄するというのか!」

 

 続けざまに両手を広げ、雷を線状に放出した。


「うぐっ⁉」


 プラスは苦しそうに地面をのたまう。


「この期に及んでまだ現実を直視できないのですか! あなたより私の方が遥かに優れている!」


 呪文の如く電撃を浴びせ続ける。


「たかが小娘の分際で! それも私と同じ支部長だと! なんと不相応な!」


 ギロッ


「っ! その目だ! 私を下に見ているその目が気に入らない! 私より優秀だと! そう思っているその目がだ!」

「はあ……はあ……な、なにを言ってるのかしら? じ、事実じゃない」

「フンッ!」

「っ⁉ ああっ! あああああ!!!」


 これでもかと雷を浴びせ続けた。


 やがて、うつむけに倒れたまま、動けなくなってしまうプラス。

 綺麗だった肌が所々焼け焦げ、雷がまだ残っているのか、バチッと音を立てている。


「ふぅー。私としてことが、つい激高に駆られてしまいました」


 ゲリードマンは眼鏡の汚れを丁寧にふき取る。

 そのままかけ直した。


「さて、もういいでしょう。十分です」


 少し足りないが、自分が上であると証明した。

 目の前にいるのは動けない女性、やることと言えば一つしかない。

 相手の身体をナメ回すように──


「──ご安心を、私はこの通りそういった趣味はありません。ええ、はい」

「…………」


 いや、ピッタリではないか。

 と、プラスは地面に突っ伏しながらに思う。

 ならば一体どうすると言うのか。


「私は科学者という肩書ですが、一人の戦士でもあります。このままではさぞお苦しいでしょう、早く楽にしてあげます。今決めました」


 今さら紳士ぶってきた。

 ゲリードマンは手を掲げ、オーブを出す。


「ん? 趣味と言えば確か……ああそうだ、アッシュさんです」

「っ!」


 プラスの身体がピクリ。


「彼もスターバードでしたね。もしかして、ご親戚だったりします?」

「あ、アンタには関係、ない」

「その反応も……フッ、やはりそうですか」


 ゲリードマンがこれまでにないくらいニヤッとした


「ここに来る前に侵入者を捕えましてね、秘密事項のため名前は一応伏せておきますが、14の少年とだけ」

「っ⁉」

「色々じんも──拷問をいたしまして。それで、一体誰が担当したと思います?」


 プラスの顔が絶望に変わる。


「多少手荒くなりましたが、最後まで口を割りませんでした。さぞお仲間が大切なんでしょうねえ」

「…………」

「良い悲鳴でした、彼の声がまだ耳に残っています」

「……やめなさい」

「まだ未来ある子供だと言うのに、大変心が痛みました」

「……やめて」

 

 もう聞きたくない。


「お可哀想に、あなたが送り出さなければあんな事にはならなかった。今もさぞ苦しんでいることでしょう、いえ、もう死んでしま──」

「やめて!」


 絶えられなくなり言葉を遮った。


「はあ……はあ……」

「良い表情だ、その顔が見たかったんです」


 最後に素晴らしいモノを見せて貰った。

 満足したゲリードマンはオーブを構える。


「おっと、大事なことを忘れていました」


 まだ言いたいことがあるらしい。

 ゲリードマンがねっとりと口を開く。


 そして、


「──”スターバード”です。そう、彼はスターバードだ」

「……?」


 この男は何を言っているのだろうか。

 そんなの当たり前だ。

 なんせ自分が付けたのだから。

 名付け親のプラスはさも不思議がっている。


「すこぶるほど鈍いお方ですねえ。流石にアッシュさんを同情してしまいます、あなたなどがご親族で」

「っ⁉」

「冥土に行くには土産話が必要でしょう、なので私が提供してあげます」


 アッシュとプラスは親族だと、ゲリードマンの口から伝えられた。

 

 それを聞いて、プラスは心臓が浮き上がるような感覚に襲われた。


「……どういうことよ、それ」

「おっと、確かこれは口止めされていました……ですがまあ、いいでしょう」


 どうせこれから死にゆく定め。

 ゲリードマンは最後に説明してあげることにした。


「単刀直入に言います。聞いた話によると彼は──」


 その一言を聞いて、


「っ!」


 プラスは大きく目を見開いた。



 ”アッシュ、イーナス=スターバードは、

  ナッシュ=スターバード、彼の実の子供である”



「私も深くは存じません、こうなるのでしたら詳しく聞いておくべきでした」


 衝撃の事実、プラスは言葉を失った。


「まあ、あなたの様子を見るに十分でしょう。彼は正真正銘、兄ぎみの一人息子。ええ、紛れもなく真実です」

「…………」

「どうしました? それほどまでにうなだれて」


 プラスは無言のまま地面と顔をすり合わせている。

 その身体は震えていた。


 効果はそれなりにあったようだ。

 トドメの一言には十分すぎた。

 言葉攻めにもそろそろ飽きてきたところ。

 そう思い、ゲリードマンはオーブを構え直した。


「さて、私はこの通りとても慈悲深い。そろそろ彼らに合わせてあげましょう」

「…………」

「結局あなたは何も守ることができなかった。真実を知るもすでに手遅れ、その命を一人寂しく散らすのです。この私の手によって、誰にも知られずに」

「……っ」

「お墓を手配してあげましょう。あなたの故郷、中央教区にです。皆さんもさぞお喜びになることでしょう……さて、ショーの幕引きです。さよならだ、第一教区支部長、プラス──ん?」


 プラスが立ち上がった。

 

「はあ……はあ……」

「まだ戦う気ですか? 私よりしつこいですね。だが立つのがやっと、フラフラではありませんか」


 立つに決まっている。

 これだけ言われて立たない人間がいるわけがない。

 歯を食いしばり、倒れそうな身体を必死に支えた。


「……もう、子供扱い、しない」

「ん?」


 震えた声でボソッと言った。

 声帯がまだ痺れている。


「彼はもう大人、わたしが思ってるよりずっと……」


 とても立派な、一人前のハンター。

 だから贔屓しない、でも……、


「これは彼が決めたこと。それでどうなろうと、わたしは口を出さない」


 こうなったのは全部自分の責任、何も言うことができない。


「だから、怒らない」


 怒る資格なんてどこにもない。


「ほう、あくまで一部下として接しますか。ですがそれはただの──」

「でもそれとはべつよ」


 拳を強く握り込み、身体から強い光を発した。


「あの子がどう思ってるかなんて、わたしにはわからない。だけど……家族だから、本当に血が繋がってても、わたしはあの子の家族だから……」


 バチッ……バチバチバチ……バチッ


「ギルド長なんかじゃなく、一人の親として……」


 前を向き、鋭い眼光を放つ。


「アンタを絶対に許さない、ゲリードマン」


 プラスは拳にオーブを纏う。

 戦う意思を相手に示す。

 

「親として、なるほど。それがあなたの答えですか」

「なによ」

「いえいえ、身内のためとは大層立派なことですね。ですが現実は残酷だ、時として容赦なく牙を向く」


 その姿では勝てないことは立証済み。

 それが理解できない程愚かではないはずだ。

 ゲリードマンの言う通り、立ち上がった所でこの状況は覆しようがない。


「随分と消耗しているようだ、それで今の私とどう戦うつもりですか?」

 

 完全に対策されている。

 全力でやってこの有り様。

 希望なんてどこにもありはしない。


 しかし、


 プラスに少しだけ笑みが。


「何がおかしいんですか? 死を目前にして気を狂われましたか?」

「アンタは間違ってるわ」

「間違ってる、私がですか?」

「ええそうよ、私はこのくらいで諦めたりしないし、あの子だって拷問程度でどうにかなったりしない」


 兄の子供だからとか関係ない。

 ザイコールに襲撃されようと、悪魔に取り憑かれようとも、あの子は生き延びた

 今回だって、絶対無事に帰って来てくれる。


「わたしだってそう。この程度のこと、別にどうってことないわ」

「ほう? これ以上の絶望を経験したことがある、と?」

「さあ? どうかしらね」


 ゴー=ルドーゴールド。

 初めから全力を出されていたら自分が負けていた。

 あのまま続けていても結果は同じだっただろう。


 ウィリーの方が何倍も怖かった。

 何度も心が折れそうになったし、実際2人が助けてくれなかったら死んでいた。


 一人じゃ何もできない。

 皆に助けられてばかり。

 これからもずっと変わらないし、変えるつもりだってない。

 変わらずに接していくつもりだ。


 でもこのくらいは一人でなんとかできる。

 自分だけで十分。

 そのためにこの4年間特訓してきたつもりだ。

 それに、希望だってまだある。


「いいでしょう、では見せてください。あなたの希望とやらを」

「…………」

「一発だけ、今回は特別に一発だけ攻撃を許可します。ええ、はい」


 そう言って、ゲリードマンは男らしくたたずんでみせた。

 スーツの性能上、攻撃を受けなくてはならないだけで、別にカッコ良くも何ともない。


「どこでもいいですよ。ええ、はい」


 プラスはお言葉に甘え、拳を握り込む。


「まあ、たとえどこを狙おうとこの私には──」


 次の瞬間、


 思いっきり踏み出し、ガンッ! 


「っ⁉ がっは⁉」


 腹部に突き刺さり、あの鈍い音が鳴った。


「っ⁉ ゴボッ! ゴボッゴボッ!」


 ゲリードマンは吐血し、地面に膝をつく。


「なっ、なぜ⁉ あなたのオーブは……っ⁉︎ その腕は、一体……」


 シュウウウゥゥゥ……


「…………」

 

 

 オーブが透けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ