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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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114.Mの暗躍

 さらに、場面は変化に変化を重ね、

 ようやく教王陣営の野営地へ戻ってきた。

 ここでは、身体がピクリともしないアッシュ。

 と、そんな彼を厳重に見張るヘルナがいた。


「…………」


 動けないご主人様をじっくり鑑賞するヘルナ。

 心ゆくまでそのお顔を堪能している。


「……っ!」


 突然、彼女の寝ぐせによって誕生したアホ毛がピョコンと反応。

 すぐに第四教区の方へ顔を向けた。


「──あのさ、もう怒鳴ったりしないからさ、これ解いてくれよ」


 一方、彼女の不思議な力によって封印されたアッシュが、そうお願いした。

 あれから大分落ち着いたみたいだ。


「…………」

「おい、どうしたのさ?」


 アッシュが数回呼びかけるも、ヘルナは遠くの見たまま微動だにしない。

 愛しのご主人様に名前をお呼ばれしたというのに。

 見ての通り反応なしだ。


「無視するなよ、おい」

「……ガルス」

「っ⁉」


 アッシュの顔が険しいものに変わる。


「あっ」


 しまった。

 今のご主人様に彼のことは禁句であった。

 ヘルナは自分のやらかしを珍しく自覚する。


「アイツが、いるんだな」


 ヘルナは何も言わない。


「どこにいるのさ、おい!」


 ご主人様をガン見したまま無言を貫いている。

 堂々と黙秘するつもりだ。

 

「くそっ」


 みんなが危ない。

 クロスオーブを使ってもどうにもならないほど、あのガルスロードは強い。

 アイツがいたら教王どころか全滅の危険だって十分あり得る。

 自分が戻って少しでも引きつけなくては。


 アッシュは先ほどヘルナが見ていた方向、第四教区のある方角に目を向けた。


「こんなのっ! くっ!」


 身体に力を入れ、封印を無理やり解こうとした。


「っ! ダメ」


 ヘルナが瞳の奥を光らせ、即座にアッシュを抑え込む。


「うぐぐぐ……」 

「動かないで」

「ぐぐぐっ……は、放せよ」

「……っ」


 人間の力で無理に解こうとすると、肉体に強烈な負荷がかかり、やがて最悪死に至る。

 このままではご主人様の身体が耐えられない。

 かと言って封印を解除するわけにも。


 仕方ない。


「ッ⁉」


 ヘルナがご主人様の顔の前に、スッと手を出した。


「……うっ」


 すると、手の平から不思議な光を放ち、それを目に押し付けた。


「な、なに……を」

「寝て」


 暴れていたアッシュは途端に大人しくなる。

 急激な眠気に襲われ、身体の力が抜けていく。


「うん、良い子」

「ヘ……ル……ナ──。」

 

 そのまま意識を失ってしまった。

 

「すぅー……すぅー……」 


 ヘルナはご主人様の頭をナデナデする。

 

 何か思うところがあるのか、しばらくして、


「行ってくる……んっ」


 柔らかい頬に数回チュッチュし、テントから出て行った。







 ──一方その頃、はるか遠くに場所が変わる。

 ここは第一教区の真ん中に建つ教会。

 二階のすみっこにあるギルド長室。

 

「はあー、今頃どうしてるかしら……」


 室内には大きなため息を吐く一人の女性がいた。

 第一教区支部長兼ギルド長、プラス=スターバード。 

 机にポツンと座り、戦場に送り出した部下たちを心配している。


「……アッシュ」


 小さな声でボソッと呟いた。


 あの子は元気だろうか、酷い目に遭っていないだろうか。

 無茶なことはしていないだろうか。

 誰かさんの事となると、途端に周りを見なくなるのがあの子の良くないところ。 

 

 今は帰りを待つことしか出来ないのがとてもむず痒い。

 落ち着かない、心配でたまらない。

 あの子のことだと尚更そう。


「はあー……」


 もう子供扱いしないって言ったのに、自分から送り出した癖に、どうしても気になってしまう。

 頭から放れてくれず、お仕事に手がつかない。

 親とはそういうモノなのか。

 プラスは、自分とギルド長の狭間で思い悩んでいた


「──心配してるのかな? ダメだよ、ボスなんだからボーンと構えてないと!」

 

 陽気な声が聞こえ、突っ伏していたプラスは顔を上げた。


「……マリー」

「おはようプラちゃん! また遊びに来たよ!」


 それは彼女の親友、マリコ=キャパスティだった。

 アッシュが懸念した通り、あれから第一教区に移動していた。

 早急に確保しなければ。


「えへへ~、宿舎にいても暇だから会いに来ちゃった〜」

「うっさい」


 いつ何時もハイテンションであるこのマリコ。

 気分の下がっているプラスはうっとおしく感じてしまう。

 さらに今はお仕事中である。

 遊んであげる暇など一切ない。


「今忙しいのよ、悪いけどまた後にしてちょうだい」

「えぇ~! うっそだ~、プラちゃんいま寝てたよね?」

「寝てない。あと気が散るからあっち行ってて」


 シッシッ、

 プラスはそう言って、机にある膨大な書類へと目を通し始めた。


「なっ⁉ その言い方はちょっとどうなのかな! ヒドイ! ヒドイよプラちゃん! グスンッ、ここに来るのがどれだけ大変だったか知らない癖にぃ~!」


 どうやらこの迷子は、ここに来るまでの道に迷ったみたいだ。

 マリコは手を振って喚き散らす。19歳


「はあー……少し静かにしてよ、もう子供でもあるまいし」


 プラスは深くため息をつき、怪しい書類にサインした。


「っ⁉ うええ~ん! すっかり社畜さんになってるよお~!」


 仕事熱心な友人の姿に、マリコは海よりも深い大量の涙を流す。 

 

 昔はこうやって駄々をこねれば、『仕方ないわね~』と言って構ってくれた。

 自分を甘やかしてくれた。


 チラッ

 

「う〜ん、経費がかさむわね〜。どうしようかしら」


 それが今ではどうだ。

 これを見ろ! この有り様だ!

 プラスと会うのは実に半年ぶりだが、会うたび仕事人間へと変貌していく。

 時の流れというモノは非常に残酷である。

 この現実を、世界を、到底受け入れることは出来ない。


「そんなあ~! 私の可愛いプラちゃんに戻ってよお~!」

「…………」

「うええ~ん! プラちゃ~ん!!」

「…………」

「うええええん!!!」


 必死に身体をユサユサする。

 しかし、プラスは書類から一切目を放さない。


「あっ! そうだ!……ねえプラちゃん、息抜きも大事だよ。少し休憩しないかな?」


 もう泣き脅しは通用しない。

 なので新たな作戦を開始した。

 ダルがらみしつつその巨大な胸を押し付ける。


「フフンッ、休んじゃないよ」

「別に、いい」


 怪しい書類にハンコ押した。


「うんうん、よ~く分かったよ。とりあえずそこのソファで横になろうね。どれ、特別にこの私が添い寝してあげようではないか!」


 流れで押し倒してしまえば、もうこっちのモノ。

 マリコは大きな胸を張り、お昼寝を提案した。

 目を向けた先には、純白の綺麗なソファがある。

 2人で寝るには少々狭い気が……一体何をするつもりなのだろうか。


 プラスは怪しい書類にサイン、そしてハンコを押す


「だからいいって言ってるの、それに昨日一緒に寝てあげたじゃない」

「えぇ~、あれだけじゃ全然足りないよ~」

「胸を押し付けないで、暑苦しいったらありゃしない」


 ずっと絡まれていたら仕事が進まない。

 このマリコは大人しくさせる手段は何かないか。


「……分かったわ。ならアレで手を打ちましょう」


 そう言ってマリコの方へ顔を向けた。


「ん? なにかな?」

「はい、チューしてあげるから。代わりに大人しくしてちょうだい」


 ここはキスをして静かになってもらおう。

 プラスは目を閉じて、相手が来るのジッと待つ。


「本当はあの子に禁止されてるんだけど今回は特別」

「えっ、あの子?」


 親友同士マリコとのキスは、アッシュに禁止されているそうだ。

 

「あ、アシュ君……」

「んっ、しないならいいわよ? 出て行ってもらうだけだから」

「ぐぬ、ぐぬぬ……」


 アッシュ=スターバード、覚えていろ。

 秘密を知られてしまった。

 加えて干渉まで行ってきた。

 もはやルームメイトとは思うまい。敵だ。

 

「あとでちゃんと構ってあげるから、はい」

「うぅ……」

 

 だが、目の前にある欲求に抗えるほど、マリコの意思は固くはなかった。


「……わかったよ。でも今日も一緒に寝て欲しい、かな」

「フフッ、マリーはまだ子供ね。はい」

「うん……」

 

 マリコも目を閉じて、ゆっくりとプラスの顔に迫る


「…………」 


 互いのお口が触れようとした時、


 バンッ!


「──大変ですギルド長! 街に大量のイービルが……あっ」


 部下が駆け込んできた。


「あっ」


 2人は固まった。







 ──場所は少し離れ、ここは第一教区正門前。

 

「フハハッ! ハーッハッハッハッハッ! ショーの始まりです! いま開催しました!」


 大変不快な笑い方をする一人の男。

 第四教区支部長、裏切り者のゲイリー=ゲリードマンだ。

 無謀にも、単独で敵地に攻め込んできた。


 現在、例のイービル発生装置を使って街を混乱に陥れ、その様子を遠目から眺めている。

 中では多く観客たちがイービルと応戦しているのが見える。

 しかし、当のゲリードマンは戦いを妨害しようとはしない。

 ただ薄気味悪い声をあげながら見ているだけだった


「素晴らしい! 最高の特等席だ!」


 一緒に来たはずのガルスロードは、途中どこかへ行ってしまった。

 だがそれがどうだと言う。

 別にどうってことはない。


 元々一人で向かうつもりだったのだ。

 むしろ彼がいなくて好都合まである。

 なぜならあの男はかなり好戦的。

 自分の標的まで取られてしまうのではないか、とずっと危惧っていたからだ。


 クイッ!


 予め用意されていた自分の分と、ザイコールからコッソリくすねていた分のイービル発生装置を、全てこの街に投可した。

 簡単に被害は抑えられないだろう。

 そのスキに自分は標的に復讐する。


 我ながら完璧だ、完璧過ぎて吐き気すらある。

 必ず成し遂げてみせる。

 目的のためなら苦労や手段、この命すら厭わない。今考えた。

 それが自分、それこそが悪の天才科学者、ゲイリー=ゲリード──

 

「──見つけたわよ! ゲリードマン!」


 プラスが空からスタッと着地した。


「……主役のご登場ですか」



 ゲリードマンはニチャる。

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