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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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11.招かれざる客

 アッシュはただいま教会の病室で療養中。

 忠告を無視して破裂(バースト)の練習をした。

 普段はアッシュに甘いプラスだが、今回ばかりは本気で叱りつけた。


「はあ。プラス、恐かったさ」

「全部アッシュが悪い」


 破裂(バースト)で木に突っ込み、右腕を骨折。

 全治3カ月だそうだ。

 現在、お見舞いに来たレクスと保護者の話で盛り上がっている。


「あんなに怒ることないのに」

「下手すると死んでたからな。怒るのも当然だ」

「そっか……」


 レクスは前に、父親から破裂(バースト)を習ったと聞いていた。


「そう言えば、レクスのお父さんってどんな人さ? たしか別々に暮らしてるって聞いたけど」

「父さんは、第二教区の支部長だ」

「えっ、すごい」

「まぁな」


 そう言うレクスの顔はどこか悲しげだ。


「ワタシの家は、代々有名なハンターの家系でな」

「どこかで聞いたような……」


 語り出した。

 レクスの家系、レオストレイト。

 スターバードと双璧をなすハンターの家系で、代々対立関係にある。


 自分はその一人娘だ。

 父親の期待に応えなければいけない。

 また、相手方の一人娘である優秀なプラスと何かと比較される。


 一年前に、父親の命令で、第二教区からここに越してきた。

 スターバードのプラスを倒すために。

 だが、向こうは5つも年上のお姉さんだ。

 勝てるわけがない。


「母さんが死んでから、人が変わったように厳しくなってな」


 元々無口な性格ではあった。

 だが、母親の死後、それに厳しさが追加された。


 なんと声をかけたらいいのか。

 アッシュはわからない。

 最初、執拗なほどプラスに絡んでいたのは、父親の期待に応えなければいけなかったからだった。


「ワタシとしたことが、こんな話を」

「レクス」

「記憶がないお前ほどではない」


 アッシュは正直なところ、レクスが自分のことを話してくれたのが嬉しかった。

 今までそういう話はしなかった。

 少しは信頼してくれてるのかと、内心が弾む。


 同時に、心が締め付けられるモノもあった。


 ──バンッ!


 急にドアが開く。 


「あら、レクスもいたのね」


 プラスがお見舞いに来てくれた。


 まだお怒りのよう。

 声のトーンが低く、いつもの明るさが無い。


「ワタシはこれで失礼する」


 危機を感じたレクスは、早々に立ち去ろうとした。


「あっ、待って!」


 このタイミングで一人にしないでほしい。

 アッシュは情けない声で助けを求めた。


「ちょうどいいわ。レクス、あなたも聞いていきなさい」

「すまない。これから帰って宿題をだな」

「いいから」


 逃亡に失敗し、椅子に戻された。


 プラスの放つプレッシャー。

 2人は今にも泣きだしそうだ。


 しばらく沈黙が続いたが、ようやく口を開く。


「ヴァリアードが活動を始めたそうよ」

「なに、ヴァリアードだと」

「ヴァリアードってなにさ?」


 この国が信仰する宗教、ユースタント教は平等を重んじ、皆で助け合う。

 そう言う考えの素晴らしい宗教だ。


 対してヴァリアードはその真逆。

 強者だけが生き残り、弱者からは全てを奪って当然と言う、大変危険な思想だ。

 

 現在の教王であり、この国で一番偉い人物。

 教王ジャック=ダイアス。

 20年前、彼がそのヴァリアードの主導者、ハンレッド=ヴァリアードを打ち倒し、すでに壊滅状態だった。

 

 しかしその残党である、ゴー=ルドゴールドが姿を現し、再び動き出したということだ。


「ゴー=ルドゴールドは元Aランクハンター。この第一教区の支部長だった男よ」

「ああ。生ける伝説、最強の支部長だと聞いているな」

 

 いつになく真剣な顔だった。


 そのゴーが、第一教区周辺に身を隠していること。

 近々、彼による暴動が起きること。

 そのため、急遽支部長が戻ってきたことを2人に伝えた。


「危険だから。2人はじっとしていなさい」

「なに? コイツはともかくワタシは戦える」

「ダメよ」


 レクスはプラスに気圧された。

 現在、第一教区でまともに戦えるハンターはプラスと、帰って来たばかりの支部長のみ。

 他の教区から増援を要請したが、どこも人手不足なので期待はできない。

 事態はかなり切迫している。


 そう聞いても、アッシュは落ち着いていた。


「わかったさ。じっとしてる」


 よく分からないが、いつものようにすればいいのだろう。

 隣のレクスはまだ不満そうである。


「今回は本当に危険なの。だから2人ともちゃんと守ってね。わかった?」


 と、2人をキッと睨みつけた。


 子ども2人は恐くて返事をすることができない。

 今度は忠告を破らないようにと、きつく念を押された。


「レクス、送って行くわ」

「いや、ワタシは一人で……」

「レクス」

「わ、わかった」


 レクスが目で助けを求めながら病室を去っていく。

 残念ながらできることはなかった。

 

 病室、一人取り残されたアッシュは、


「ゴー=ルドゴールド、か」


 ボソッとつぶやく。

 これから暴動が起こるなんて、全く実感がない。

 プラスの真剣な様子からして今回はかなり危険らしい。

 何も起きなければいいが。

 そんなことを考えるうちに、アッシュは眠りについた。







 ──アッシュはふと目を覚ました。

 当たりはすでに真っ暗。

 月明かりがうっすらと窓を照らし出す。


 話が気になったのか、あまり目覚めがよろしくない。


 もう一回寝よう。

 得意の二度寝を決め込もうとしたが、


 ──カン、カン。


 部屋の外から。

 足音が聞こえる。

 下駄を履いて歩くような、鳴らす音だ。


 この時間に教会を出歩くのは禁止されているはず。

 聞こえるのはおかしい。

 アッシュは耳を澄ませてその音を聞く。


 ──カン、カン。


 少しずつ大きくなる。

 教会は不気味なほど静かだが、その足音だけが辺りに響き渡る。


 緊張が高まり、鼓動が早くなるのを感じた。


 ──カン。


 やがて、部屋の前でピタッと止んだ。

 アッシュは恐怖に包まれた。

 急いで布団をかぶって避難する。

 

 ゆっくり開き、何者かが入ってきた。

 

 真っ暗なためその姿は確認できない。

 だが、うっすらと人の形は見える。


「──久しぶりじゃなイーナス。いや、今はアッシュと呼ぶべきか」


 枯れた老人の声がした。


「探したぞ。まさかスターバードの所にな。これも神の悪戯か」


 ボケてるわけではない。

 人違いでもなさそうだ。


 怖い。

 アッシュは震えながら布団を強く握る。


「どれ、記憶が戻ると少々厄介。お主はここで……」


 老人から凄まじい殺気が。

 いきなりオーブを出し、それをアッシュに。


「死ねい!」


 とっさにベッドから脱出。

 窓を突き破って外に出る。


 突然、病室が爆発とともに炎に包まれた。

 

「ほう、逃げたか」


 老人は不敵な笑みを浮かべる。







 ──アッシュは逃げていた。


「なにさ、あの爺さん!」


 いきなり撃ってきた。


 あの老人は自分のことを知っていて、しかも殺そうとした。

 なにがなんだか分からない。

 しかし、底知れない恐怖を感じ取っていた。


「──ワシから逃れられると思うてか!」


 頭上からあの老人の声が。

 空を見上げると、巨大なオーブの塊が出現。

 アッシュめがけて落ちてくる。


「わっ⁉︎」


 ギリギリでかわすも、爆風に巻き込まれた。

 そのまま地面に転がり込み、頭をぶつけてしまう。


「手こずらせおって」


 老人が地面に降り立つ。


「なんでこんなことするのさ」


 頭を抑えながら訴える。


「お主が知る必要はない、イーナス」

「そのイーナスって、なんなのさ」

「お主の名前じゃよ。何も思い出さぬか?」


 何も思い出せない。

 その名前に心当たりが全くなかった。

 人違いではないのか。


「あまり良い記憶じゃなかろう。知らぬうちに殺してやる」


 オーブを出し、アッシュに構えた。


「あの世にいる両親に会わせてやろう。どうじゃ? 嬉しいか小僧」


 徐々に大きくしていき、やがて巨大なエネルギーの塊となる。


 その禍々しいオーブに、アッシュは目を見開いた。

 痛みと身体の震えで、その場を動くことができない。


 オーブが放たれる。


 ──次の瞬間、


 誰かが。

 少年の目の前に、突然大きな人影が現れた。


「──オラッ!」


 巨大なオーブを軽々と弾き飛ばす。


「ぬっ⁉︎ 貴様は⁉」


 目の前に立つ大きな背中。


 

 アッシュはそこで意識を失った。

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