112.激突! レクス 対 ティゼット
場面が移り変わり、
第四教区西エリアにある入門前。
ここでもハンターたちが交戦状態にあり、辛うじて街への侵入を食い止めていた。
しかし、破られるのも時間の問題であった。
「ッ⁉」
そんな戦の最中、少し離れた場所で激戦を繰り広げる、二名の輩が。
「死ねッ!」
レクス=レオストレイト、彼女が光る拳を叩き込む
「っ!」
ティゼット=アールシー、彼が攻撃を紙一重へで躱す。
無理に撃ち合うことはしない。
相手の動きを見ながら、慎重に避けていく。
「っ!」
スキを見て破裂を使い、一度距離を置いた。
「チッ! 逃げるな!」
そのまま今度はオーブを出し、敵に向け発射する。
ビシバシッ! ビシバシバシッ バシンッ!
しかし、レクスの放つ光撃に全て叩き落とされてしまう。
「食らえッ!」
次は自分の番と言わんばかりに、レクスが破裂を出す。
相手まで一気に突っ切った。
「っ!」
ティゼットは簡単に捕まってしまい、敵の強烈な光撃の餌食となる。
一発でも当たると危険だ。
その表情には焦りが見えた。
怖いと言っている。
「そこだ!」
遂にレクスの一撃が、相手の身体を捉える。
ガッ!
ティゼットは間一髪で光撃を使いガード。
「フンッ!」
しかし、かなりの性能差がある。
レクスに強引に振り抜かれ、後方に大きく吹っ飛ばされてしまう。
ティゼットは顔を歪めた。
痛いと言っている。
空中で態勢を立て直し、地面にスタッと着地する。
「…………」
そして、動きを止め、互いに睨み合う。
「どうした、貴様の実力はその程度なのか」
「……っ!」
「なんだ、強そうに見えたが、戦ってみると案外大したことはない。とんだ見かけ倒しだったな」
以前ティゼットを見かけた時、冷徹な顔持ちで、いかにも強者の風格を漂わせていた。
だがそれは勘違いのようだ。
レクスは強気になり、トントンして靴ズレを直す。
「…………」
一方、無表情のティゼットはこう思っていた。
強い、ただ純粋に、相手が強い。
レクス=レオストレイト、先輩の元同期。
たった一歳差というだけで相手が大きく見える。
ギルド長から話は聞いていたものの、実際に対峙してみるのとでは、やはり全然違っていた。
「……っ!」
大事な手の平が焦げかかっている。とても痛い。
たった一度受けただけでここまでのダメージ。
素手はおろか、丸盾で防ごうものなら盾ごと粉砕され、即お陀仏になる。
丸盾<光撃<分離<丸盾…………。※破裂は除く。
先輩いわく、これが戦いの鉄則らしい。
しかし、分離で攻撃しようにも、簡単に叩き落とされてまるで通用しない。
全てを光撃でねじ伏せる。
まさに近接タイプの理想型。
こういう相手と戦う時は、遠距離から処理できないほどの分離で攻めるしかないのだが、残念ながら器用貧乏な自分にはできない。
「…………」
先輩に言われた通り、彼女を発見したのは良い。
だが、いざ腕を狙おうにも、あの光撃をかい潜りながら相手の腕を掴む、なんて芸当は自分には無理だ。
もはや凍結させるどころの話ではない、殺される。
あの淫らな女は一体どこで胡坐をかいてるのか。
早く手伝いに来て欲しい。
でも一向に現れる気配はない、もうダメだ。
絶望と後悔の二文字がセットとなり、ティゼットの脳内に浮かびあがる。
「──なに突っ立っている! ぼーっとするな!」
何か喋ったらどうだ、レクスが急接近する。
「っ!」
ティゼットはハッとし我に返る。
しまったと言っている。
シュンッ──。
突然レクスが目の前から消えた。
これは、近距離で破裂を使用することで、あたかも瞬間移動したかのように錯覚させる、という高等テクだ。
「っ!」
こういう時はとりあえず後ろを向け。
ギルド長からそう教わっているため、ティゼットは即座に向きを変えた。
「なにッ⁉」
動きを見切られた
レクスはそう勘違いして驚く。
「死ねッ!」
驚きはしたが、ただ驚いただけである。
レクスの光を纏った猛攻が、相手に襲いかかる。
ティゼットは躱す。
そしてひたすら躱し続けた。
緊急ガードとして一応拳にオーブを纏っている。
「甘いぞ! フンッ!」
上に気が行けば、下が疎かになる。
レクスは蹴りを放つ。
「ッ⁉」
蹴りが腹部に入り、ティゼットが苦悶の表情を浮かべた。
「終わりだ!」
怯んだところに、レクスがさらに拳を振り下ろす。
「っ!」
ガシャンッ!
何かを砕いたみたいな鈍い音が響いた。
しかし、
「なッ⁉」
レクスが目を見開く。
なんとティゼットが素手で攻撃を止めていた。
「ッ⁉ なんだ⁉」
しかも、凍りついたように手が白くなっており、それがレクスの拳まで範囲が及んでいる。
「…………」
ティゼット=アールシー、瞳の奥に光一閃
──氷結光撃。
「ッ⁉ うぐあッ⁉ ああああ!!」
突然、腕が下から肘まで駆け上がるように、一気に凍りついた。
想像を絶する痛み。
レクスは悲痛な叫びをあげる。
「くっ、くそッ!」
たまらず距離を置く。
右腕を抑えてとても痛そうだ。
「……っ」
ティゼットの方も同様に、苦痛な表情で左腕を抱えている。
オーブを纏っていたとはいえ、敵の光撃をモロに受けてしまった。
左腕は辛うじて動く。
でも痛み意外の感覚がない。
肘の骨にひびが入っていた。
今のはとっさに出たモノであって、ティゼット本人が狙ったモノではない。
結果的に痛手を与えることが出来た。
しかし、こちらも手痛いダメージを受けてしまった
「氷のオーブだと⁉ 聞いたことがないぞ⁉」
レクスは真っ白に変貌した自身の腕を見る。
指が一本も動かない。
右手は使い物にならないだろう。
「チッ、第一教区には変な奴しかいないのか!」
相手は明らかに苛立ち隠せないでいる。
何はともあれ、これで少しはマシになる。
このままもう片方も凍結させ、先輩にいっぱい褒めて──
「──フンッ!」
レクスが手の平にオーブを乗せ、
ボンッ!
それを右腕にぶつけた。
「うぐっ」
腕回りに極小規模な爆発が起きる。
「っ!」
敵の唐突な行動に、ティゼットは目をギョッとさせた。
「よし、これで動くな」
レクスは手首を回したり、グーパーを数回やったりして調子を確かめている。
「っ!」
なんてことだ。
敵がオーブをぶつけて氷を溶かしてしまった。
確かに有効な手段かもしれないが、全く褒められた行為ではない。
無防備なところにオーブの爆発を受けた。
その損傷は計り知れない。
現に、右腕の皮膚は焼けただれており、軽くグロテスクな状態だ。
だが動けばいい。
多少痛みはあるが動けば問題ない。
そのような意気込みを、目の前にいる敵から感じ取っていた。
「少し貴様を見くびっていたようだ、次は本気で行くぞ」
これまでは手を抜いていた。
敵の一言で、ティゼットはまたもギョッとする。
冗談では済まされないと言っている。
そうこうしているうちに、レクスが手の甲から真っ赤なオーブを出す。
熱を帯びているかの如く赤い光が、彼女の腕から力強く発せられる。
「──爆殺光撃」
状況が悪化した。
──さらに場所は変更され、
こちらは第四教区東南エリア。
ここでもまた、ハンターたちによる激しい戦闘が行われていた。
「邪魔です! 私の視界に入らないでください!」
「ほぎゃあああ!!!」
「うげええええ!!!」
シェリー=レザーフット。
彼女が群がって来る雑魚たちを、光撃で容赦なく殴り倒していく。
「おんどれらァアア! 気合が足りてないゾおおお!」
「うわああああ!!!」
「フォォオオオ!!!」
スゴクハガ=イダイル。
彼も同じく、無限に湧いて出る敵を、分離で徹底的に蹴散らす。
そして、2人は互いの背中を預ける形となる。
「バカなんですかイダイルさん⁉ 建物に当たってますよ! 民間への被害は最小限にしてください!」
「うるさいぞシェリー! おんどれだって注意するまんねん! 敵がこっちまで飛んできてるゾ⁉」
「っ! 知りません!」
現在、2人は行動を共にしていた。
元々は単独で動いていた2人だが、戦っているうちに気づいたら隣にいたそうだ
決して仲が良いとかそういうわけではない。
文句は垂れ流す2人ではある。
しかし、シェリーは近距離、イダイルは遠距離で戦うスタイルで、それが意外にも噛み合っていた。
「う、う、うわああああ!!!」
「ギョエエエエエエエエ!!!」
無駄に良いコンビネーションで、手際よくヴァリアードたちを葬っていく。
彼らの激しい乱闘は続き、やがて、
「か、片付きましたか」
「油断は禁物ゾ、奴らどこからでも湧いて出るまんねん。ゴキブリも甚だしいゾ」
「お下劣が過ぎますよイダイルさん、敵の本拠地なんですから当たり前です」
「ああ、分かってるゾ」
付近にいるヴァリアードを殲滅ようだ。
2人はホッと息をつく。
「休んでる暇はありません、早く皆さんと合流しましょう」
「了解まんねん。しかし例の男が見当たらんゾ」
攻撃を開始してから結構な時間が立つ。
だというのに、未だに暗殺対象を確認できない。
そのおかげで、この少ない人数でもヴァリアード軍と戦えてはいる。
だが、今回の目的はそもそも、彼を始末すること。
本来このような大規模戦闘ではない。
これ以上戦いを続けても、無駄に犠牲が出るだけであった。
「おいドンは教王のところに行くゾ……シェリー、おんどれは皆に撤退命令を出すまんねん」
もう十分に荒らした。
これでしばらくは、こちらに侵攻してくることもないだろう。
それに標的がいないのなら意味がない。
そろそろ潮時、これより撤退行動に移る。
「分かりました、うちの困ったバカ大将を早く連れて来てください」
2人は役割を分担して、その場を離れようとした。
が、その時、
ヒュゥゥゥゥゥ、バヒュンッ!
3つの光が空に登り、ある程度の高さで弾けた。
「っ! イダイルさん、アレは!」
「ああ、ようやく奴のお出ましまんねん」
これは例の男、つまりガルスロードを発見した時、それを周りの仲間に知らせるための合図だ。
確か、ゲリードンと共に第一教区へ向かったはず。
そのガルスロードがなぜか戻ってきた。
「行くゾ、シェリー!」
「言われなくてもそのつもりです!」
2人は向かう。