111.報復行動
「──っ! 敵襲だーッ!」
「──クセモノじゃ! 皆ぬ者! であえ! であえーッ!」
「──各人出撃準備! 総員! 敵を向かい撃てーッ!」
「──エネミーファイ! エネミーファイ!! アルファエンゲージ!!!」
ありとあらゆる場所で怒号が鳴り渡る。
街中にもかかわらず、大規模な戦闘が行われていた
オーブの弾丸が目まぐるしく飛び交う。
拳のぶつかる衝撃、辺りに爆音が広がっていく。
特に激しい場所では火災が起き、逃げ惑う人々の姿も多く見られた。
それは、中央教区と似たような光景であった。
──現在、第四教区ヴァリアード教国は、敵国であるユースタント教国から攻撃を受けていた。
敵側の報復だ。
ヴァリアード軍は街の防衛を余儀なくされる。
これまでは、攻める側であったヴァリアードの兵士たち。
だが、いざ自国がその側に立たされると、途端に勢いが衰えていた。
いつも通り指揮系統が乱れている。
統率がまるで取れていない。
攻める時はそれでも良かっただろう。
しかし、防衛となるとまた話は違ってくる。
身勝手な行動は、街の危険に繋がり、被害はさらに拡大していく。
現状、ヴァリアード軍は苦戦を強いられていた。
偵察員がしくじったことで、辺りに捜索が入ると踏んだ教王は、相手側の包囲網をかいくぐるべく一度距離を置いた。
その間、捜索に出たヴァリアード軍を数人を拉致。
そのいくらかをガチな拷問にかけた。
そこで、敵側が今日の昼過ぎに出撃するという情報を手に入れ、急遽攻め込む方向に舵を変える。
別の偵察員の入手した情報を加味し、比較的守りの浅いところを狙い、攻撃を仕掛けた。
それが功を成したのか。
戦いは予想よりずっと快調に進んでいた。
この調子で行けば、よもやヴァリアードを陥落させられるかもしれない。
しかし、ただ一つ懸念がある。
それは例の男、バドル=ガルスロードの姿を誰も確認できないことだ。
自軍の危機なのに、戦いに参加しないのはおかしい。
ユースタント側に一抹の不安が、重りのようにのしかかっていた。
──場所は少し離れて、
ここはユースタント側野営地。
ヘルナに救出されたアッシュ。
彼はただいま、テントに建てられた簡易医務室で横になっていた。
「ジッとしてて」
ヘルナが簡易ふわふわをかけてあげた。
心配そうにしている。
「余計なお世話さ、それにこのくらいどうってこと……くっ」
身体が痺れて起き上がれないアッシュ。
ふわふわが重かった。
「動くのはダメ」
それでも起き上がろうとするご主人様を、ヘルナが肩を抑えて寝かせようとする
「放せよ。大体、どうしてお前がまだここにいるのさ」
ヘルナだって貴重な戦力のはずだ。
いつまでも自分のところにいないで、戦いに参加して欲しい。
早くレクスの足を打ち抜いてこい。
アッシュは剣幕な顔でそう命令した。
しかし、ヘルナは首を横に振り、
「ううん、私は行かない。君のそばにいる」
「…………」
言うことを聞かない従者に、アッシュは苛立ちを覚えた。
ヘルナが続けざまに言う。
「ガルスとは関わらないで、何度もそう言った」
「フン、それがなにさ?」
あっちが勝手に絡んできただけだ。
自分は悪くない。
アッシュは冷めた態度で返す。
「今の君を一人にできない」
危なっかしいので見張っておくそうだ。
「お前には関係ないさ、いいからどっか行けよ」
しかし、
「ダメ、絶対ダメ」
と言って瞳から妖艶な光を発し、アッシュの身体を強制的に動かなくさせた。
「……っ」
ヘルナはとても怒っていた。
──場所は移り、ここは街のど真ん中に立つ教会。
中では教王とザイコールが、早くも戦闘を開始していた。
いわば大将戦である。
「おのれ教王、やってくれたな!」
ザイコールは接近戦を中断した。
一度を距離を取り、壁にピタッと張り付く。
すでにクロスオーブを使用しており、黄金の輝きを纏っている。
「ハッハッハ! 会いたかったぞ、ザイコール!」
教王が片手を掲げ、追うように数発のオーブを放つ
「ぬうっ!」
ザイコールも同じく分離で迎撃した。
両者のオーブが衝突。
火花を巻き上げ、建物内を覆いつくす。
「ザイコオオオオル!!!」
視界が開ける前に、教王が破裂で急接近。
「っ! 教王!」
ザイコールも負けず劣らず、構えてそれに向かい撃つ。
再び両者がぶつかり、激しい接近戦が始まった。
一瞬一瞬で、無駄に高い駆け引きが要求される。
しかし、互いに先手は譲ろうとしない。
どちらも頑固だ。
建物は大きく揺れ、光撃の風圧で、周りが木っ端微塵になっていく。
おかげで教会はもう滅茶苦茶。
屋外で戦えばまだ被害はいくらか抑えられる。
だが、場所を移そうにも、教王は頑なにその場を離れようとせず、いくら誘導してもここに陣取ろうとする。
明らかに故意でやっていた。
「がっはっ⁉」
ザイコールの攻撃がヒット。先制、一本。
教王の表情に歪みが見えた。
「死ねい!」
そのまま追撃する。
しかし、教王は破裂で素早くかわし、即座に背後を取る。
「あまいわい!」
「ぐっはっ⁉」
反撃を試見るが、それを読んでいたザイコールがもう一撃入れた。
怯んだところに間髪入れず、俊敏な蹴りを放つ。
躱せなかった教王は壁まで吹っ飛ばされた。
壁にビタンッ!
「ぐああっ!」
どうやらザイコールに分があるようだ。
これは日によってまちまちで、今回はザイコールが有利であった。
教王が圧倒する日もあれば、逆にザイコールが強い日だってある。
戦いとはそういうモノだ。
「効かん!」
教王はすかさず立ち上がった。
「ザイコォォオオル!!!」
懲りずに敵へと向かっていく。
──さらに場所は変わり、
ここは第四教区北東エリア。
「──偽りの聖剣」
グレン=レオストレイト。
彼の大木のような巨大なオーブの塊。
それが垂直に叩き下ろされた。
地面に衝撃がほとばしり、周りの民家が次々と吹き飛んでいく。
「おや? 危ないですね」
それを回避した全身鎧姿の男。
カール=メルメルトが別の屋根へ飛び移った。
兜もしっかり装着している。
「──遅いぞ、偽りの聖剣」
「っ⁉」
しかし、グレンが水平に薙ぎ払い、逃げた相手を即座に追撃する。
「ぬんっ!」
ガツンッ!
カールは剣でガード、鈍い金属音が響く。
「フンッ!」
左足に体重をかけ、屋根の上で踏ん張ろうとする。
ズザザ! ズザザザザザァ!!!
少し位置ズレするも、なんとか受け止めた。
「──フンッ、生身で俺の秘技を受けるか」
「っ!」
シュンッ、
グレンが前方に現れた。
すでにオーブは引っ込めている。
「カール=メルメルト、噂に聞いていたが中々やるようだな。同じ剣士として興味がある」
「おや? 剣士、ですか……」
カールは下の地面に目をやった。
攻撃の痕を見るに、切ったというよりは叩きつけた、と言った表現の方が良く似合う。
「何を見ている、それは斬撃の痕だ」
「…………」
本人がそう言うのだから、きっとそうなのだろう。
カールはそう思うことにした。
「おや? あなたは確か、グレン=レオストレイト……なるほど、これはとんだ外れクジを引かされたようだ」
「なんだ、今さら気が付いたのか」
おかしいのはその頭だけではないらしい。
グレンが呆れ返る。
「俺の秘技を受け、傷一つ入らないその剣。相当な代物のようだな」
と言って相手の剣に目を向けた。
ちょっと欲しがってるようにも見える。
「おや?」
その問いに、親切なカールは、
「いえいえとんでもない、これはただの”バスタードソード”です」
試しに剣をコンコンと叩いてみせる。
「種なんてありません、本当にただの剣です。ええ何にも、決して何もありません」
なんとも白々しく答え、そのままおやおやした。
「…………」
グレンは黙り込んでしまう。
自慢の偽りの聖剣をただの金属で止められては、たまらないモノがある。
その姿からはなんとも※以下略。
「そういえばそちらのお嬢さん。ええと確か、そうそう、レクスさんはお元気ですか?」
……それがどうした。
「ええ、この前ちょうど手合わせしたんですよ。いやはや、試験の時とは見違えるように──」
「──散れ」
偽りの聖剣。




