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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
114/142

108.お茶会②

 翌日、ここは第四教区教会。

 その2階に位置する、あまり人気のない支部長室。 

 室内にはザイコールとレクスがいて、2人でまったりとお茶を飲んでいる。


「……不味い、コイツはどうにかならんのか」


 ザイコールが顔をしかめた。


「フンッ、失礼な爺だ。せっかくワタシが淹れたんだ、ありがたく思え」


 続いてレクスもお茶をすすり、同じく顔をこわばらせた。


「お主の淹れる茶はこの老体にちと響く。見てみい、濁りで酷いことになっておるぞ」

「そうか、なら丁度いい。教会の墓が一つ余っている、明日にでも手配してやる」


 その減らず口を黙らせてあげるそうだ。


「……してレクスよ、あやつの様子はどうじゃ?」


 侵入者の少年について何か進展はないか。

 

 その問いに、レクスは足を組みなおし、


「ダメだ、全く口を割ろうとしない」


 と首を横に振った。


「そうか、やはり例の自白剤とやらは期待できんか」

「知らん、ワタシに聞くな」


 自白剤というのは、ゲリードマンが趣味で開発したとされる、対象を素直にさせるという特殊な薬だ。

 尋問の時などに使用すると有効らしい。


「じゃが検証はあまりやってないと言っておったし……うむむ、やはり普通にやった方が良い気がするわい」


 ザイコールが髭を伸ばしながら思いわずらう。

 こうなると多少手荒くなるが、本格的な拷問にシフトするべきだ。

 拷問ならグレンがそれっぽい。

 奴にやらせておけばいいだろう、と言葉を添えた。


「いや、おそらく変わらないだろうな」


 しかし、レクスはまたも頭を横に振る。


「ほう、なぜじゃレクス。言うてみい」

「アイツは少し頭のおかしいところがある、おそらく普通の拷問では口を割らないだろう」

「ほうそうか。お主が言うのなら間違いないな」

「ああ、前より酷くなっている。相手するこっちの身にもなってみろ」

「フッ、そうかそうか」

「そうだ」


 いかにも感じでウンウンとうなづく少女。

 ザイコールもとりあえず同調しておく。

  

「ところで爺、街の周辺に異常はあったのか?」

「そうじゃな。特にはなかった。じゃがある箇所に、野営した痕が残っておったな」

「野営? サバイバルでもしてたのか?」

 

 今回、刺客を送って来たということもあり、ユースタント側もいよいよ本格的に動き出したようだ。

 他に仲間はいないか周辺区域を探索した。

 しかし、特に怪しい者はいなかった。

 唯一見られたのが、大所帯で野営したらしき痕跡で、それもまだ比較的新しいモノだったそうだ。

 

「ソイツが敵だとして、撤退したということか?」

「そう見るのが妥当じゃな」

「……離れてこちらの様子をうかがっている?」

「残念じゃがその可能性は限りなく低い」

「なぜだ」


 ザイコールは眉間にしわを寄せた。

 教王の性格からして、仲間一人を救出するためにわざわざ兵を送るような、リスクの高い行動はとらない。

 必要以上の戦力消費は可能な限り避けるはず。

 今回送り込んできた少年は単なる捨て駒に過ぎないと。


「教王は人望に厚いと聞くが、アイツを見捨てるのか」

「フッ、それは表の顔じゃ。よいかレクス、戦場での奴は誰よりも狡猾、決して油断してはならん」


 教王は戦闘力もそうだが、指揮官としてもかなり優秀だ。

 必要であれば非常な手段をも厭わない。

 10年前のヴァリアード大戦では、尽くこちらの裏をかいてきた。

 おかげでかつての友、ハンレッド=ヴァリアードを失った。


「もしあの少年が上手くやっておれば、攻められていたやもしれん。今回ばかりはガルスロードに感謝じゃな」

「フンッ、街に出た被害は見過ごせないな、ガキ共も恐がってたぞ」

「そうじゃな、前言撤回じゃ」


 教王の目的が何なのかは不明。

 おそらく偵察と言ったところだろう。

 仮に、あの少年にこちらの情報を持ち返られていたら、被害はさらに大きかったかもしれない。

 逆に失敗したため今回は撤退した、とザイコールは踏んでいる。

 ちなみ全部グレンの受けよりだ。


「アイツの他に侵入者がいた可能性は?」

「ガルスロードの報告では、あやつだけだったと聞いておるが」

「フンッ、どうだか。アイツは信用できん、ヘボ科学者よりもだ」


 レクスは、ガルスロードに対して不満を持っている。

 たかだがBランク程度の侵入者を相手に、街をあれほどまで破壊する必要があったのか、些か疑問だった。

 例の装置も破壊されてしまい、まさに踏んだり蹴ったりである。


「…………」

「どうしたんじゃ? 顎に手なんぞ当てて、レクスよ」

「いや、少し思うところがある」

「ほう」

 

 いくら潜入は単独行動が鉄則とはいえ、あの少年が真夜中に一人で動くとは思えない。

 きっと他にも誰かいたはず。

 心当たりがあるとすれば、あの小汚い男──いや、考え過ぎか。

 もう14だ、夜が怖いとか流石にあり得ない。

 レクスは考えを改めた。


「……ガルスロードと言えば、ゲリードマンは今どこにいる? 見かけないが」

「なんじゃ? 奴ならついさっき出て行ったぞ」

「はあ、行かせるなと言っただろ……少し頭が痛くなってきた、どうしてくれる」

「す、すまん」


 ゲリードマンが、ガルスロードを連れて第一教区へ向かった。

 まだ敵が潜んでいる可能性があるというのに。

 味方が自分勝手な馬鹿ばかり。

 レクスは軽くめまいを起こす。


「出来れば同時に襲撃した方が良い、ワシらも明日には出発するぞ」

 

 予定を早めて明日に侵攻する。

 あらかた準備は出来ているため、明日の昼頃には出発するそうだ。


「フッフッフ……」


 ユースタント側が疲弊している今が絶好の機会。

 余計なチャチャは入ったが、流石にこのタイミングで攻めてくるとは向こうも思わないだろう。

 今度はこっちが裏をかく番だ。

 完璧な作戦だとザイコールは自負した。


「あいつはどうする? このままにはしておけないだろ」

「フッ、気になっておるのか? やはりなんだかんだ言って──」

「──違う、時間の無駄だと言いたいだけだ。一々詮索するな」

「ほう、すまんすまん」


 あの侵入者はどうするのか。


「そうじゃな。今日中に口を割らぬのなら……。レクス、お主に任せる」


 レクスの好きにして良いそうだ。


「……ああ」


 今日の話はこれで終わり。

 レクスは席を立ち、部屋を出ようとした。


「……レクスよ」

 

 しかし、ザイコールが呼び止めた。


「なんだ」


 レクスは振り向かずに返事だけする。


「……本当に頼んでよいのか?」


 珍しく真剣な顔つきのザイコール。


 その問いに、レクスは少しを間をおいて、


「無論だ、女神とやらに誓ってやる」


 と言って部屋から出て行こうとした。


「──お茶は飲んでおけ、捨てるんじゃないぞ」


 ビシッ! バンッ!


 乱暴に扉を閉めた。


「やれやれ、たくましく育ったものじゃな……ズズズ」


 ザイコールは冷めたお茶を飲みながら感傷に浸る。


「……不味い」



 不味かった。

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