表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
11/142

10.バースト

 お泊り事件から数日。

 プラスはアッシュを連れて、教会へ向かっている。


「なんでまた教会に?」

「フフフ、それは行ってからのお楽しみよ」

 

 期待しない方が良いだろう。

 アッシュはお姉さんのやや後をついて行く。


 教会に到着するとさっそく受付に並ぶ。


「すごい混雑」

「そうね」


 いつも賑やかな教会だが、今日はさらに増して悩める住民が多い。

 サボっている修道女がいない。

 みんな忙しそうにバタバタしている。

 これでもこの国では、修道女は人気のあるお仕事だ。ハンターと違って。


「ちょっといいかしら」


 プラスが受付で要件を話す。

 アッシュは真顔で眺めている。


 「しばらくお待ちください」と言われ、2人は椅子に腰かけて待つ。


「そういえば、ずっと気になってたんだけどさ」


 アッシュが足をブラブラさせながら聞いた。


「プラスとレクスが、その、すごい速さで移動するヤツ。ほら、足からオーブを出してさ」

「ああ、破裂(バースト)ね。それがどうしたのよ」

「あれ、オレもやりたいな」


 みんなが当たり前のように、説明もなくやっているあの謎技。

 アッシュはずっと気になっていた。


「教えたいのは山々なんだけど、あなたにはまだ早いわね」

「えぇ、でもそろそろ新しいことを」

「ダメ! 破裂(バースト)は危ないわ。あなたにはまだ早いの」


 アッシュはすでに分離(リーブ)光撃(ハード)丸盾(シェル)ができるようになっていた。

 そろそろ新しいこともやりたいと思う頃合いだった。

 

 しかし、お姉さんは絶対にダメだと言う。

 少し聞いただけで、何もそこまで怒らなくてもいいだろう。

 アッシュはムカッとする。


 呼ばれたので2人は席を立つ。


「お待たせいたしました。こちらがオーブスーツになります」

「オーブ、スーツ?」


 アッシュは首を傾げた。


「オーブスーツっていうのは、要はハンターの戦闘服みたいなモノよ。実装されたのは最近なんだけど」


 オーブスーツとは、教会研究員が独自に開発したハンター専用の戦闘服だ。

 衣服の内側に装備するため見えない。

 これを着るだけで攻撃や防御、オーブの操作まで助けてくれる大変優れモノだ。


 意外と着心地も悪くない。

 普段ガラクタしか作らない教会研究員だが、これは世紀の発明と言っても過言ではなかった。


「こんな便利なものが。なんで教えてくれなかったのさ」

「ごめんなさい。完全に忘れていたわ」


 わたしとしたことが、と付け加えた。


 ともあれ、戦闘服という響きにアッシュの心は踊る。


「遅くなったけど、はい! ハンターになった記念にわたしからプレゼントよ。わたしと同じ赤!」


 と、赤色のスーツをプレゼントされた。


「ありがとう」

「あれ? あんまり嬉しそうじゃないわね」

「いや嬉しいさ、うん」

「そう、よかった!」


 本当は隣にある緑の方がよかった。

 喜ぶプラスの顔を見ると、アッシュは言えなかった。


「わたしはこのあとに用があるから、悪いけど先に帰っててちょうだい」


 時間がかかる用事らしい。


「プラス、なにやらかしたのさ?」

「違うわよ。あなたと一緒にしないで」

「あれは全部レクスが……」


 前にレクスとの戦いで、運動施設がボロボロになってしまった。

 ハンターとは言え、子どものやったこと。

 その保護者としてプラスが教会に呼ばれ、代わりに叱られたそうだ。


 ちなみにアッシュもその分、プラスに叱られた。

 

「今回はそうじゃなくて、偉い人と会うのよ」

「偉い人?」

「第一教区の支部長が帰ってきたの」


 支部長は教会で一番偉い人。

 つまりこの街で一番力のある人物だ。


 Aランクハンターのみがなることを許され、プラスも支部長の座を狙っている。

 現在の支部長が、しばらく出張していた第四教区から帰ってきた。

 これから彼にあいさつに行くと言う。


「お話しがあるから先に帰ってていいわ。一人で帰れるかしら?」

「帰れるさ」

「フフッ」


 プラスが頭をナデナデしてあげた。

 が、アッシュは素早く払いのける。


 教会を後にした。

 





 

 ──しばらく歩いていると、後ろからすとんっと肩を叩かれた。

 結構強かったため、軽くバランスを崩す。


「──おい、何をしている」

「あっ、レクス」


 叩き主はレクスだ。

 2人は気が合うのか、あれからもよく会っている。

 一夜を共に過ごしたことで、すっかり打ち解けたようだ。


 しかし、


「むっ? どうした、ジロジロ見て」

「いや、別に……」

「なんだ、変なヤツだな」

 

 アッシュは前回、ほっぺにチューされたことを思い出す。

 あの時はびっくりが強くて何も考えていなかった。

 しかし、後から振り返ってみると結構刺激的なことである。


 もう何度か遊んでいるのだが、少女の顔を見るたびにその記憶が蘇る。


 レクスの方は、あれはプラスへの当て付けでやったことだ。 

 別になんとも思っていない。


「それはオーブスーツか?」

「えっ、ああ。さっきプラスに貰って。ハンターになった記念にさ」

「ほう、赤か……」

「プラスが同じ色だからって」


 赤のスーツを見たレクスが怪訝な顔をした。

 アッシュはそれを不安に思う。


「もしかして赤ってダメなのか?」

「いや、いいと思うぞ。もらった物は大切に扱え」


 反応を見るに何かある。

 そう思ったが、


「時間はあるか?」

「あるけどなにさ? また遊ぶのか?」

「そうだ、暇だから付き合え」


 いきなりアッシュの手を取り、どこかへ連行した。



 案内された場所は、この第一教区では流行のお店。

 2人はその中に入る。

 子どもだけで入る雰囲気のお店ではなかったが、気にせずデザートを食べた。


 なぜかアッシュの奢りで店を出る。


 ちなみにこのお金は、前に2人でイービルを倒した時に教会からもらったものだ。

 2人で楽しく山分けしたそうだ。







「──ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ? なんでも聞いていいぞ」


 街を歩く中、アッシュが尋ねた。


 レクスは奢ってもらったことで上機嫌だ。

 なんでも質問してくれて良いそうだ。


「それがさ」


 さっそく破裂(バースト)のことを聞いた。

 プラスと別れた後、ハリスにも宿題の返却がてらに聞いてみたが、危ないと言って教えてくれなかった。


破裂(バースト)か……」


 やはりレクスも険しい顔をする。

 そんなに危ないのか。


「お願いレクス! もう他に頼める人がいなくて!」


 ここまで来ると気になって気になって仕方がなかった。

 アッシュは最後の希望にすがりつく。


「そうだな。奢ってもらったことだし教えてやる」


 アッシュなら大丈夫だろうと判断し、教えることにした。

 

「おお!」

「いいか、一度しか言わないからな」

「ああ、わかったさ」


 さっそく説明した。

 破裂(バースト)は足裏からオーブを出し、破裂させることで高速移動するオーブの基本技。

 調整が大変難しく、暴発することも多いとても危険な技だ。


 今まで数多のCランクハンターが暴発して命を落としている。

 そのため、Bランクになってから会得させるというハンター内での暗黙の了解がある。


「どうしてレクスは使えるのさ?」


 たしかこの少女も自分と同じCランクのはず。

 前に戦った時は破裂(バースト)を難なく使用していた。


「父さんから教わったんだ。それにワタシだってたまに暴発する」

「へえ~、うちはプラスがダメだって。全然教えてくれなくて」

「良いモノではない。何度教会送りになったことか」


 話を聞いて危険な技だと知るも、好奇心のほうが勝ってしまう。


「ちょっと破裂(バースト)をやってみても?」

「お前、人の話を聞いていたのか」

「お願いします! レクスさま!」


 突然、アッシュが土下座を決め込んだ。

 ここは街のど真ん中。

 この恥ずかしがり屋の少年が、周りを見なくなるほど破裂バーストにご執心だ。


「なっ⁉」


 周りから不思議な視線。

 レクスは耐えられなくなる。


「わかったから顔を上げろ!」

「ホントにいいのか⁉︎」

「ああ。まったく、恥ずかしい真似をするな」


 お許しを頂いたアッシュ。

 さっそく破裂(バースト)の練習に向かう。




 ──そして2時間後、暴発して教会送りとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ