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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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100.坊やの悩み

 翌日、アッシュたちは朝早くに起床した。

 朝食はギルドが独自に開発したという、いつもの簡易保存食。

 前回のクロスオーブ奪取作戦の頃から、少し改良を加えたそうだ。

 しかし、あまり変わっておらず、同じく質素な味わいで、なんだかおじいちゃんが好きそうな感じだった


 そんな味気ない朝食を終えると、各自テントを畳み、さっそく準備をする。


 やがて出発。

 

 ……しばらくして、なんやかんやでようやく目的地である、第四教区付近の教王軍が建てた野営地に到着した。


「おんどれら! 到着ゾ! 成し遂げたまんねん!」


 案内人のイダイルが両手を上げて、一人達成感に入り浸る。

 まるで百年山の登頂に成功したかのような、大げさなリアクションだ。


「はあ~……眠いさ」

「全くっス」

「ふわあ~~」


 一方、ティゼット以外の約3名はまだ寝足りないようで、同時にあくびをした。

 日が昇る前に、イダイルに叩き起こされたのだ。

 軽く寝不足である。


「おお~! やっとるまんねんな!」


 イダイルが額に手を乗せ、辺りを見渡しながらまた一人で感心する。


 野営地では、パッと見て三十名程のハンターと思わしきハンターたちがいた。

 彼らはこれから第四教区に襲撃する準備の最中だ。

 とても忙しそうにバタバタしており、誰もアッシュたちに気が付いていない。

 せっかく来てあげたというのに。

 これでは帰りたくなってくる。


「まずは教王に会うゾ! おいドンについて来るまんねん!」


 到着したことをボスに報告しなければならない。

 なので、とりあえず教王の元に向かう。


「っ⁉ きょ、教王がここにいるんスか⁉」


 しかし、教王と聞いて、マルトンの顔色が急に変わる。


「ん? どうしたのさ? 顔色が悪いけど」


 テンパる小さな男を気にかけるアッシュ。


「教王がいるなんて聞いてないっスよ!」

「いや、オレだって教王がいるなんて知らなかったし……」


 この作戦は教王が独断で決め、教王が強引に実行したものだ。

 教王による教王のための襲撃。

 あの性格からして、本人がいても別に不思議ではない。

 何か問題でもあるのだろうか。


「い、いえ、ないっス、なんにもないっスよ!」


 だというのにマルトンは挙動不審、明らかに怪しい


「あっ、あっしはちょっとお腹が痛くなってきたっス! 気にせず先に行っててくだせえ! そ、それでは!……ひえええええ!!!」


 その場に凌ぎに見える言葉をぶちまき、アッシュたちから逃げるように去って行った。


「…………」

「あのちっこいおんどれはどうしたまんねん」

「いや、分からないさ」

「そうか、まあよい。早く教王に会うゾ」


 よくわからないが、アッシュたちは進み出した。

 

 3歩ほど進むと、


「──おや? よく見ると坊やではありませんか?」


 右方面から声をかけられた。全然進めない。


「ん?」


 アッシュは振り向いて、誰かを確認する。


「……あっ! カールさん!」


 それはカール=メルメルトだった。

 一瞬謎の間があったものの、寂しい頭皮と対照的なたくましい鎧を見て、カールだとハッキリ認識した。

 知り合いに会えて、アッシュは少しだけ安堵する。


「久しぶりです」

「お久しぶりさ!」

「おや? あれから大きくなりましたね、見違えましたよ」

「カールさんもまた一段とハゲ……元気そうで良かったさ!」


 カールと会ったのは、アッシュが第二教区にお引越しして以来、実に4年ぶりだ。

 それでも一度は共闘した仲だからか、はたまた試験官と受験生の間柄だったからか、お互いのことを良く覚えていた。


「おや? 隣にいるのはイダイル殿では? これは珍しい組み合わせですね」

「おお~、メルメルト殿! 久方ぶりまんねん!」


 2人は普通に知り合いみたいだ。

 親しい感じで世間話を始めた。

 そのまま話の流れで、道場に勧誘しようとするイダイル。

 カールがそれを慣れた素振りで受け流す、という構図だ。


「…………」


 一方、ティゼットは礼儀正しくコクッと挨拶した。

 カールは職場の上司にあたる存在。

 当然といえば当然だ。


「ティゼットさんもご一緒ですか。坊やのところは賑やかで羨ましいですね」


 ティゼットもコクコクとうなづいた。

 賑やかだと言っている。ちょっと嬉しそう。


「……ん?」


 ここでアッシュは違和感を覚えた。

 自分は4年前と同じく坊や呼ばわりされているのに、なぜか年下のティゼットは名前呼びだ。

 ちょっぴり不公平に感じてしまう。


「カールさん、あのさ……」

「おや? どうしかしまたか? 坊や」

「いや、オレはもう坊やじゃないし、できれば名前で……」


 アッシュが言いにくそうに訴えるも、


「おや? 何を言いますか。坊やは坊やですよ、永遠に、坊やです」


 カールに言わせてみれば、この坊やは、ずっと坊やだそうだ。

 坊やはそれ聞いて、言いようのないため息を吐く。


「坊や、フフフ……」


 坊やの横にいるヘルナは口を押えて、クスクスと笑っている。


「おい、なに笑ってるのさ」

「坊や、君にピッタリ」


 ウケる。


「……もういいさ。そういえばマリーは? どこにいるのさ?」


 勝手にツボっている従者は放っといて、アッシュは別の話題にシフトした。

 あのマリコはどこにいるのか。

 久しぶりにルームメイトの顔を見たい。

 あと、プラスの件についてお話しなければいけないことがある。


「おや? そのマリーとは一体どなたですか?」

「あっ、そっか。えっとさ……ほら、魔女みたいな恰好をした──」


 アッシュは説明した。

 魔法使いを意識したかのような、最近はそれっぽい帽子も購入してさらにそれっぽい。

 その割に雰囲気は全然ない、中々に残念な女性だと


「ああ、あのお嬢さんですか。彼女ならここにはいませんよ」

「え? いないのか?」


 今回の作戦にマリコは参加しておらず、お留守番だそうだ。

 今頃、お友達のいる第一教区へ遊びに行っているのではないか。

 カールは東の方向を見ながら言う。


「……まずいな、早く帰らないと」


 先を越されたか。

 もうあのルームメイトを野放しにはできない。

 早急にお説教しなくては、プラスが危ない。

 アッシュは早めに帰還すると心に固く誓った。


「教王ならあちらにいますよ」


 カールは一際大きくて派手なテントに指を差した。


「ありがとうカールさん、それじゃ、またさ」

「ええ、また」

「よし、聞いたかよ。ついて来い、イダイルさん」

「なぜおんどれが指揮を執るッ⁉」



 テントの中に入った。

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