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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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99.女神様と七天使

 昔々、ある国に3人の神様がいたそうだ。

 一人は恵を与える神、ラズラ。

 もう一人は守る戦いの神、ガルス。

 そして、最後はとても美しい絶世の神、ピタ様だ。

 人々は神たちに見守られながら、慎ましくも平和に暮らしていた。


「ピタ様って……この国が信仰するあの?」

「そうまんねん。ユースタント教の女神、ピタ様ゾ……続けるまんねん」

 

 ところが、平穏は突然脅かされた。

 突如として、5体の悪魔が魔界という場所から、地上へと繋がる閉ざされた空を突き破り、人間たちの住む下界へと降り立ったのだ。

 炎の中逃げ惑う人々。

 瓦礫の下で助けを乞う子供たち。

 悪魔は無慈悲に侵攻し、村、街、国に至るまで全てを灰塵へと変えていく。


 かつてない地上の惨劇。

 この世の地獄を見ているかのよう。

 これを重く捉えた神々は、終焉を阻止すべく悪魔と対峙することになる。


「悪魔とはおそらくイービルのことゾ。おいドンはそう推測するまんねん」


 ティゼットもコクコクとうなづく。

 話の内容を知っているため納得した様子だ。

 今にもネタバレしそうな勢いだ。


「……違う」


 アッシュの横に引っ付いているヘルナがボソッと否定した。


「長くなりそうっスね……あっしは眠いんで、もう休ませてもらいやす」


 一方、マルトンは興味ないらしく、テントの中に一人そそくさと入っていく。

 昼間置いて行かれたのを根に持っている。


「はあ、仕方ないまんねん……残りは若い衆だけで話すゾ」


 まんねんが話を続行した。


 各々の神が、悪魔たちと対峙する。

 まず、弓の使い手であるラズラ。

 彼女は狙撃能力で、迫りくる悪魔の猛攻を鋭く射抜き、接近を許さない

 次に、戦闘に長けているガルス。

 彼はその圧倒的な腕力で、襲い掛かる悪魔を次々と薙ぎ倒していく。


 そして、戦いを望まない聡明なピタ様は、人々に大いなる力を与え、先導することで2人に加勢する。

 彼らの尽力あって、悪魔を一時的に退かせることに成功した。


「なら良かったさ。なあティゼット」

「…………」

「ん? なにさ、違うのか?」


 ティゼットは首を横に振っている。


「なんのなんの。ここからが面白いまんねん」

「……退屈」


 ヘルナがまたもボソッと言って、隣の男の子にすり寄ろうとした。

 が、アッシュはそれを肩で跳ねのける。


「コホン、続けるゾ」


 イダイルが話を戻す。


 神々の導きの元、人類の勝利かと思われた。


 が、ある日を境に、流れが一変した。

 魔界を突き破りもう一体、そう、6番目の悪魔が地上へと降り立ったのだ。

 突如出現したそれは、他の悪魔たちを遥かに凌ぐ強さを持っていた。

 瞬く間に神々は劣勢に追いやられていく。


 まず、ガルスが交戦し、あえなく敗北してしまう。

 単体で神をも凌駕するほどの力を持っていたのだ。

 神が一人やられたことで、触発される他の悪魔たち。

 その勢いは止まらず、やがてラズラも力尽き、地に堕ちてしまう。


 残るはピタ様とその国の人々──


「──全然違う、もういい」


 聞くに堪えない、ヘルナが話を止めた。


「聞いてもムダ」


 なぜか機嫌を損ねてしまい、自分の寝床に向かっていく。


「……一緒に寝て」


 そして、さも当然の権利かのように、テントからひょっこり顔だけを出してアッシュを寝床に誘う。


「勝手に寝てろよ」

「むう……分かった、待ってる」

「いや、なに勝手に決めてるのさ。お前のとこになんか行くわけないだろ」

「……最近冷たい。それに、寝てくれない」

「フンッ」


 まだ許したつもりない。

 アッシュは顔をプイッと逸らしてお誘いを拒否する


「待ってる」


 ヘルナはそう言ってコソコソと寝床に入っていった


「なんぞ、残ったのは結局おんどれだけか」


 早くも2人が脱落して、イダイルは少し残念そうだ。

 正直アッシュも眠たい。

 だが、このままではまんねんが可哀そうなので、最後まで聞いてあげることにした。


 イダイルが話を続ける。


 ピタ様、そして、最後まで共に戦う民衆たち。

 そんな彼らも、邪悪なる悪魔の手に堕ちようとしていた。

 しかし、女神の加護がある限り、彼らは終わりの時まで戦い続ける。


 やがて囲まれ、絶体絶命となってしまう。

 力尽きその場に倒れる仲間、ジリジリと迫る悪魔たち。

 ボス気取りなのか、六体目の合図で一斉に襲い掛かろうとした。


 とその時、


 天から一筋の光が差す。

 それは七色に変わり、同じく七つに分かれていく。

 閃光が瞬時に悪魔たちを切り刻んでいく。


 一度その場を離れて、全員で空を見上げる悪魔。

 真っ白な瞳の先には、二つに割れた空から、優雅に舞い降りる7体の天使が──


「──へえ~、やっと天使様のご降臨か。それで?」


 暇そうなアッシュが横やりを入れる。


「うるさいまんねん、今いい所ゾ。少しは辛抱できんのかおんどれは」

「…………」

 

 邪悪な悪魔の侵攻を止めるべく、地上に降臨した7体の天使。

 しかし、天使の力を以てしても、悪魔を退くことは困難だった。

 戦いは365日、絶えず幾度も行われた。

 地形は大きく変わり、大地は荒れ果て、戦いの凄まじさを語るに十分だった。

 

 永遠とも感じられる日々の中、人々は祈りを捧げ、戦いの終わりと天使の無事を願うことしかできない。

 やがて、その願い、信仰心が届いたのだろうか。

 女神の加護を受けた天使たちが、悪魔を残らず殲滅し、遂には栄光の勝利を得た。

 世界に再び平和がおとずれたのだ。


 長きにわたる戦いで傷を負った天使たち、彼らはひと時の眠りにつく。

 だが、人々は忘れることはないだろう。

 人々を守り抜いた天使たち、そして、彼らが復活するその時まで。

 ……ピタ様とここに祈り続ける。


「これで終わりまんねん、どうであった?」

「どうって……」


 別になにも。初めて聞いた。

 ぐらいしか感想が出ない微妙な物語である。

 

「ラズラとガルスはどうなったのさ? 神様だろ、死んだりしないよな?」


 2人はクロスオーブの実在する神様だ。

 話の内容が現実で起きたことなら、悪魔との戦いに敗れたらしいが、その後は動向が気にあるところ。

 なので、とりあえずありきたりな質問をした。


「すまんねん、2人の行方は書かれてないんゾ。分からんのだ」


 だが、イダイルは知らないと言う。

 知らないのなら仕方がない。


「ふ~ん、そうか。まあいいさ」

「そんなことより天使! この話の主役は天使ゾ! おんどれはどう思われるか?」


 と、イダイルが天使についてどうだとグイグイ迫る


「ど、どうって……」


 急にドデカイ顔が迫って来たため、アッシュは少したじろいでしまう。


「い、いいんじゃないか? 国を救ったんだろ、カッコいいと思うさ」

「ほう! おんどれもそう思うまんねんか!」


 返答に満足したイダイルは、その巨大な顔面を引っ込めた。

 なんだか初めてゴーと会った時みたいだ。

 アッシュは不意に懐かしい気持ちにさせられた。


 その巨大なイダイルは言う。

 自分は幼少期にこの本を読んで、天使というのに興味を持った。

 もっと知りたいと思い、子供ながらに色々と調べてみたが、何も情報は得られなかったそうだ。

 周りの人に聞いて見るも、知っている者は両親含めて誰もいなかったと言う。


「ならその本はどこで手に入れたのさ?」

「それが、家の本棚にあったんゾ。父上や母上は知らんと言うまんねん」


 試しにその本を両親に見せてみた。

 すると、どこから持ってきたんだと疑われ、ケツを引っ叩かれてしまったそうだ。

 現在は、両親が本を捨てたのか、それとも失くしたのか分からないが、手元にはないとのことだ。


「ん? なにさ、ティゼットもか?」


 ティゼットがコクリとうなづいた。

 自分もイダイルと全く同じで、これまで天使を知る者は他にいなかった。

 本もどこかに行ってしまったと言う。


「やはりそうか、教王も同じだと言ってたまんねん」


 大変奇妙なことに、3人とも本を失くしたが、内容だけはハッキリと覚えているらしい。

 それを聞いて、アッシュは少し恐くなってしまう。


「……なんか不気味だな」

「ワッハッハ! おいドンはこう推察するゾ!」


 イダイルが言うに、本の内容は史実に基づいて書かれたモノ。

 人々がすっかり忘れてしまった天使を思い出してもらうため、女神ピタ様が本を一人歩きさせているのではないか、と。

 見た目にそぐわないメルヘンチックな思考だ。


「だからおいドンもその手伝いをするまんねん」


 このお話を多くの人が認知してくれたら、もしかしたら本当に天使が復活する、かもしれない。

 いつか天使をこの目で見てみたい。

 それがイダイルの子供の頃からの秘かな夢であった


「そんで、おんどれらにも布教して欲しいゾ」


 とういうわけで、天使復活のために協力して欲しいとお願いしてきた。


「まあ、暇があったら誰かに話してみるさ」

 

 ティゼットもコクッとうなづいた。

 協力すると言っている。


「助かるまんねん。では、おいドンたちもそろそろ寝るゾ、明日は早いまんねん!」



 寝床へ向かった。

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