表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
102/142

96.不穏な旅の幕開け

 そして2日後、今日は旅立ちの日。

 アッシュはこれから増援として中央教区に向かうために、現在、第一教区の正門にいた。

 今から出発するところだ。


「ティゼット、忘れ物とかないか?」


 アッシュが出発前に最後の確認を取る。


 その問いに、ティゼットは迷いなく頷いた。

 準備万端であった。


「私もない」


 従者のヘルナもそう答えた。というか手ぶらだった


 この3人でこれから中央へ向かい、カール率いる第一第二連合部隊に合流する予定だ。

 前回は悲しくも見張り部隊であった彼ら。

 しかし、今回からは最前線で街を見張り、敵侵攻時には防衛することになる。

 

 また、元々は6人と極々少人数であった見張り部隊だが、ギルドが出した増援により、人員が大幅に拡張された。

 おかげで現在、総勢30名、実力は上から下まで。

 BランクからCランクで構成されるハンター集団となっている。

 すでにギルドの者は中央教区に派遣しており、後はこの2人の合流を待つだけであった。


 ちなみにヘルナは、アッシュの従者であるため勝手に同行するそうだ。

 彼女の狙撃技術があれば、戦いも有利に運ぶことだろう。

 いきなり身体に風穴を空けられる。

 ヴァリアード側もさぞ困惑するはず。

 それに……


「おい、例の作戦は覚えてるか?」

「うん、覚えてる」


 この前のクロスオーブ入手時に襲撃された、一纏めの青い髪で赤い目をしたキレイな少女を捕捉した場合、最優先に狙撃して動きを止めて欲しい。

 アッシュがそのように命令した。


「ついて来るならちゃんと言うこと聞けよ、じゃないと百年山に捨てに行くからな」

「うん、何でもする」


 ご主人様のためなら何でもしてあげるそうだ。

 君が望むなら一緒に寝ることだって、さらにその先のお世話まで。


「いつでも、好きにしてくれて構わない」


 多少乱暴でも許す。

 心なしか、大きな胸を主張しているように見える。


「……ティゼットも分かってるよな?」


 後輩はコクッとうなづく。

 同じく青い髪の美少女を見つけたら、手足を即座に凍結させて自分に教えて欲しい。

 先輩にお願いされたからにはやるしない。

 ティゼットは意気込んでいる。


「ああ、頼んださ」


 これはレクスを捕獲するために、アッシュが用意した作戦だ。

 我ながら完璧に近いと自負する。


「これでマルトンがいれば完璧だったな」


 あとは秘密兵器のマルトンを使い、アッシュが背後から奇襲を仕掛ける。

 これだけやればいくらレクスと言えど一溜まりもないはずだ。


 と言いたいところだが、今回マルトンは持参できなかった。

 中央にだけは行きたくないと、本人に拒否られたからだ。


「まあ、人には色々事情があるからな。仕方ないさ」


 ともあれこの2人がいれば十分だろう。

 レクスを物にできる日は近い。

 そう思って、アッシュはニヤニヤが止まらない。


「よし! いつまでもここにいるのも変だし、そろそろ出発さ!」


 ここから目的地まで丸一日はかかる。

 なので、今日は中間地点にある宿で一泊して、到着は明日になる予定だ。

 少し長旅になるが、こういうのはもう慣れている。


 目指すは中央教区、初めての都会。

 半分旅行気分の少年がルンルンで第一歩を踏み出そうとした。

 

 しかし、


「待って、誰かくる」


 ヘルナが止まるように指示した。


「ん? なにさ?」


 アッシュはピタッと動くのを止める。

 前方から人間を感知した。

 その人物がこちらに接近しているそうだ。


「ホントかよ、見えるかティゼット?」


 ティゼットはう~んと顔を横に振る。

 2人には人なんて全く見えない。

 だが、ヘルナは確かに誰かくると言い張っている。


「普通に街の外にいた人が帰って来ただけじゃないのか?」


 教区間での往来は、第四教区を除いて日常茶飯事。

 だから別に気にすることでもない。


「怪しい……」


 それでもヘルナは警戒を続ける。

 彼女がここまでなるということは只者ではない。

 

「ヴァリアードか?」

「分からない……でも気になる」


 一人で攻めて来たというのか。

 まさか中央で暴れた例の……。

 それともこの前の謎の2人組の仲間、ゴーの仇。

 この三択のどれか、アッシュは警戒を強めた。


 やがてヘルナの言う通り、前方から人が見えてきた


 ヘヤースタイルはこだわりのちょんまげ。

 それに合わない煌びやかな服装をした大柄の男だ。


「御用……御用……まんねん」


 その人物は何やら怪しげに呟きながら、ズシズシとこちらに向かってくる。

 

「どう見ても敵だろ、アイツ」


 というよりあれが味方であって欲しくない。

 アッシュはオーブを出して戦闘態勢を取る。

 他の2人も警戒をいっそうに強めた。

  

「おおっ! 出迎えとは有難いまんねん」


 ちょんまげもアッシュたちにようやく気付き、なお悠々と近づいてくる。


「おおん? そこのおんどれ、なぜ丸球などを出しておられる?」


 男がようやく気がついた。

 見ての通り3人とも警戒している。

 さらに、うちの一人はオーブまで出していることに疑問を浮かべた。


「おい、オッサン誰さ」


 アッシュがオーブを向けて問いかける。


「なんという手荒い歓迎……第一の者は中々野蛮だと聞いておったが、噂は誠であったか」

「何しに来たって言ってるのさ」

「おおっ! そうであった、そうであったゾ。オホンッ! おいドンは中央の者、この度は教王の命により参上し遣わした」


 と言っておかしなポーズを取る。

 挨拶のつもりなのか。

 それに何を言っているのかまるで分からない。

 噂に聞く中央語というヤツだろう。

 随分とナマりがある。


「教王の命令? でもオッサン、なんか怪しいし……」


 隣のティゼットもウンウンと頷いた。

 信用できないと言っている。


「なんとっ⁉ ならば少し待つゾ、確か許可証があったはずまんねん……えー、確かここに……」


 ちょんまげはガサガサと服の中に手を伸ばす。


 しばらくゴソゴソしていると、何か書かれた白い紙を取り出した。


「あったゾ、良く見てほい! これが教王直筆の許可証まんねん!」


 それをビラッと広げて見せつける。


「……許可証? なにさそれ? ティゼットは知ってるか?」


 ティゼットは首を横に振る。

 知らないし見たことないし聞いたこともない。


「だそうさ。入れてあげたいのは山々だけどさ、オッサン敵にしか見えない」


 ティゼットもコクッとうなづく。

 どこからどう見てもヴァリアードだ。


「ムムっ!……それはとても困るまんねん、どげいすれば信じて貰えようゾ……」

「う~ん、オレたちだけじゃ判断できないからさ。ちょっと大人の人を呼んでくる、少し待っててくれないか?」


 プラスならこの人を知っているかもしれない。

 自分たちの勝手な判断で、この怪しい男を招き入れるのは良くない。

 よって、アッシュは大人に聞きに行くことにした。


「……いや、もういいまんねん」


 ところが、


「おいドンが苦労してここまでやって来たというのに、この存外な扱い……失礼にもほどがあるゾ。こうなったら実力行使で突破するまんねん!」


 と言ってちょんまげがオーブを構えた。

 3人と戦うつもりだ。


「っ⁉ どうしてそうなるのさっ⁉」


 アッシュは大人のオーブにビビる。


「第一の者がこれほど蛮族であったとは……」

「野蛮なのはどっちさ……」

「まだ未来ある若者がこの始末……教王に示しがなん! なんと報告しようか」


 ちょんまげが一人で嘆く。

 もし、彼の言ってることが本当ならば教王にチクられてしまう。


「丸球を出したのはそちらが先ゾ、まずはおんどれから粛清するまんねん」


 ちょんまげが指を差してアッシュに言い放つ。

 後ろの2人は強そうなので、とりあえずといったところだろう。


「わ、悪かったさ! あ、謝るからさ、それ引っ込めてさ!」

「ならん! 勝負を断るのは男として恥さらし、よもやここまで性根がカビておろうとは!」

 

 もう何を言っても手遅れであった。

 ちょんまげは今にも飛び込んで来そうな勢いだ。


「させない」


 ヘルナがご主人様の前に立つ。

 ティゼットもアッシュを守ろうとする。


「おおん? 3人で戦うつもりかいな? 卑怯なり!」

「彼はご主人様。守るのは当然」


 ティゼットもコクッとうなづく。

 病み上がりの先輩に無理はさせられない。


「蛮族がひい、ふう、みい、三対一……面白い、面白いまんねん!」


 まんねんは俄然やる気を出す。

 今時の情けない若者を、まとめて教育してやると張り切っている。


「ゆくぞおんどれらァ! 覚悟おおん!」

「っ⁉ 来るさ!」


 アッシュが後ろに隠れて注意喚起する。

 自分が戦う気はなく、あくまで2人に任せるつもりだ。

 2人がとても頼りになるため仕方がない。


「おおおおおん!!!」


 まんねんがオーブを纏って突っ込んできた。

 いきなり光撃(ハード)とはまた大人げない。


「くっ!」


 次の瞬間、


「──そこまでです」


 突然、何者かがキラーン☆と割って入る。


「フンッ!」


 男がまんねんの拳を、同じく光撃(ハード)で相殺し、


「おおん、なんゾ⁉ うげっ⁉」


 そのまま腕を掴んで華麗に投げ飛ばし、まんねんを地面に叩き伏せた。

 辺りに少量の砂ホコリが発生する。


「──やれやれ、少し気がかりだったので来てみれば、やはりそうでしたか」

「っ! ハリスさん!」


 それはハリスだった。執事を着ている。

 

「っ⁉ おんどれは確か、スターバードさんのとこの用人⁉︎」


 まんねんが組み伏せられながらそう言った。


「お久しぶりです、イダイルさん。フッ、全く、あなたという人は……」

「うぎぎぎ……痛いまんねん! 放すまんねん!」

「動かないで下さい、すみませんアッシュさん。私の知人がお見苦しい真似を」



 知り合いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ