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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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9.事件

「たっだいま〜! 2人とも良い子にしてた〜?」

「お帰りなさいませ。プラス様」


 家主のプラスが中央教区から3日振りに帰ってきた。

 久しぶりにアッシュに会える。

 とても嬉しそうにしている。


「ただいまステラ」


 お行儀よく靴をそろえていると、


「おかしいわね。アッシュのお迎えがないのだけど」

「アッシュさんならまだお部屋でお休みです」

「もうお昼なのに、またあの子は……」

「そう言わないでください。昨日は大変だったみたいですよ」

「ん? 何かあったの?」


 昨日イービルが出現し、アッシュが撃退したことを伝えた。

 話をするメイドさんは、なぜかニコニコしている。

 

「あら、すごいじゃない! また倒したのね!」


 プラスはとても嬉しそうだ。

 目を輝かせている。


「ですから今は起こさないほうが」

「なるほどね。残念だけどそれはできないわ、ステラ」

「はい?」

「わたしが我慢できないからよ。アッシュ~! いま行くからね〜!」


 一刻も早く会いたいようで、ダダダと2階に駆け上がる。


「あらあら~、ウフフッ」


 メイドさんはなぜかニコニコしていた。




「アッシュー! 入るわよー!」


 プラスがガサツなノックをし、返事も聞かずにドアを開けた。


「フフフ……」


 布団が盛り上がっている。

 アッシュの大切なふわふわの毛布を掴み、思いっきりまくりあげた。


 感動のご対面かと思いきや、

 

「おっはよーう! ひさしぶりぇえッ!?」


 布団をまくったポーズのままプラスはびっくり。


「スー……スー……」


 そこにはすやすやと眠るアッシュ。


 と、その横で寄り添うように眠るレクスの姿があった。

 人肌が恋しい年頃なのか。

 2人は身体をくっつけて眠っている。


「う~ん……なにさ、プラスか」


 大切な毛布を取られたことでアッシュが起きてしまう。


 プラスは固まったまま動かない。

 状況を呑み込めず、頭の中が真っ白だ。


「返せよ」


 まだ眠たいのか。

 目をこすりながら、すぐに毛布を掴んで奪い返す。


「な、なんでレクスが隣に……」

「レクスがなにさ?」


 プラスの知る限りでは、ついこの間までケンカ越しだった。

 それが今では一緒に寝ている。


 確かに仲良くしろとは言ったが、これは仲良くなりすぎだ。

 自分がいない間に何があったのか。

 プラスは思考が追いつかず言葉を失う。


「なんだ、うるさいぞ」


 横にいたレクスも目を覚ました。


「おい、こっちに来い」


 まだ寝ぼけているのか、隣の子どもに甘えようとしているのか。

 くっつこうとする。

 

 プラスと目が合うと動きが止まる。


「アッシュ! これはどういうことなの⁉︎」

「なにがさ?」

「なんでレクスと寝てるのってことよ!」

「いいだろ、別に」

「そうだ、貴様には関係ない」

「全然よくない!」

 

 イービルを無事撃退した2人。

 アッシュがフラフラだったためレクスが家まで送ってあげた。

 そのお礼にとステラが夕飯に誘う。

 レクスは最初断っていたが、メイドさんの笑顔という名の圧力に負けてしまい、夕飯を頂いた。


 そのまま流されてお泊まりすることになった。

 レクスはいつも使用人と一緒に寝ているそうで、一人では寝れないからとアッシュが一緒に寝てあげた。ということだ。


「ならステラと寝ればいいじゃない!」

「フンッ、誰が貴様のベッドで寝られるか」

「なんですって⁉」

「なんだ、文句があるのか!」


 プラスは普段ステラと一緒に寝ているためベッドは2つしかない。 

 それが完全に仇となってしまった。


「アッシュだって! 最近わたしと全然寝てくれないじゃない!」

「プラスは寝相が悪くてイヤだ」

「な、ななっ⁉」


 プラスは本日2度目のショックを受けた。

 自分の寝相が悪いことを知り、かなりショッキングだ。


「そ、そんな……う、嘘よ……」


 ショートしてその場にへたり込んでしまう。


「──ご飯できましたよー!」


 一階からステラの声。

 

 昼食の準備ができたらしい。

 アッシュはお姉さんを置いて一階に下りる。







 ──お昼も終え、レクスがそろそろお暇するようだ。


「じゃあなアッシュ。それと世話になったなメイド」

「はい、また遊びにいらしてください」

「もう来なくていいわよ」


 レクスは靴を履いて家を出ようとした。


「おっと、忘れていた」


 ふと何か思い出したようで、アッシュの方を振り向く。


「おいアッシュ、今度ちゃんと礼をしろ」

「お礼? なんのお礼さ?」

「決まってる、おつかいの礼だ。まだしてもらってないぞ」

「いや、それはイービルの件で」

「あ、あなたたち、いつの間にそんな……」


 さっきからプラスの様子がおかしい。

 レクスは気づく。


 何か察したらしく、ニヤッとする。


「そうか、そういうことか。おいアッシュ、こっちに来い」

「なにさ?」


 レクスが手招きする。

 アッシュは言われるがままに少女の元へ向かう。

 

 すると、レクスはいきなりアッシュの胸倉を掴む。


 そして、その柔らかいほっぺにチューをした。


「まあ!」

「なっ⁉ ななななな!」

 

 ステラはお口を手で隠す。

 横にいるプラスは激しく動揺する。


「フッ、またな!」


 と最後に、勝ち誇った顔で家を出た。

 

「あ、ああ……あ」


 プラスは言葉を失っている。

 この日、レクスに初めて敗北したのだった。

 あうあう言うお姉さんに「子ども同士ですから」とステラがなだめている。


「……ねえ、ステラ」


 しばらくして、落ち着きを取り戻したか。


「はい、なんでしょうか」

 

 暗い顔をしたプラスが尋ねた。

 メイドさんは相変わらずニコニコしている。

 

「わたしって、その、寝相悪いのかしら?」


 深刻な疑問。

 メイドさんは笑顔を崩さない。


「ねえ、ステラ……お願い」

「いえ、そんなことはありません、よ?」


 一瞬ひきつった。


「ス、ステラぁ……」



 希望は打ち砕かれた。

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