0.わたしが引き取る
ユースタント教国。
それは5つの教区から構成される大きな国。
各教区に教会を立て、人々の生活を見守る慎ましくも平和な国である。
しかし、ここではイービルという神出鬼没の魔物に悩まされていた。
イービルの被害は大きい。
教会も対策として、それらの脅威に対抗できる者を集めた。
その者たちをイービルハンターと呼ぶ。
「だから! あの子はわたしが引き取るって言ってるの!」
「困ります……」
「わたしのとこにいた方が絶対いいわ!」
「で、ですから……」
教会で2人の若い女性が言い争っている。
よく見えないが、片方はまだ十代の少女。
そしてもう一人は修道女のお姉さんだ。
「こんなとこに拘束して! 可哀そう!」
「目を覚ましたら何を起こすか」
「大袈裟ね。まだ小さな子どもじゃない。何もできないわよ」
「しかし……」
昨夜、突然現れた巨大イービルが街を暴れ回り、破壊のかぎりを尽くした。
ハンターたちが総力をあげてなんとか倒すことができたが、被害は決して軽いものではなかった。
これで一件落着かと思いきや、そのあとにまた別の問題が発生する。
「驚いたわ。男の子が出てきたんだもの」
「はい、それにあの少年の身元もまだ分かりません」
「あの子はまだ眠ったままなの?」
「怪我はないようですが、意識の方は全然」
話では、イービルの中から子どもが出てきたらしい。
少年は身元不明、今もずっと眠ったまま。
目を覚ますと何をするかわからないので、今は教会の収容所で保護している。
「アレを倒したのはわたしよ!」
「それは、承知していますが……」
「そうよ! もうすっごく大変だったんだから!」
最後に仕留めたのはこの少女だ。
その時、消滅したイービルの中から男の子を発見し、彼女がその子どもを教会に運んだ。
教会は初めは信じようとしなかった。
だが、他のハンターの証言もあり、少女を信用することにした。
「おかげで助かりましたが、それとこれとは話が違います!」
「ぐぬぬ……」
そして現在、その少年を自分が引き取りたいと頼み込んでいるのだが、中々許可を出してくれず難儀していた。
「第一に、あなたもまだ子どもではないですか!」
「あら、わたしはとっくに親元から離れてるし、立派な大人よ!」
少女が胸を張るも、その大きさのせいか説得力はどこにもない。
「まあ、なんて屁理屈を……」
修道女は呆れて言葉が出なくなっていた。
「そ・れ・に!」
手ごたえを感じたのか、少女がさらに畳みかける。
「教会よりもわたしのとこに置いた方がいいわ。もし暴れたらわたしが止める!」
「ですが……」
「なによ、教会にあれを倒せる人がいるって言うの!」
いない。
修道女の無言がそう語っている。
「フン、決まりね!」
「はあ、まったく……」
その勝ち誇った顔に、修道女がため息をつく。
諦めたようだ。
「じゃあ、あとはよろしくね〜」
「なんて身勝手な……」
「ふんふんふ~ん」
教会を後にした。