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第八世界の無機魔術師  作者: 菟月 衒輝
第一章 武技競戦
37/84

26. レイの覚悟

27も連投します。

◇学生会室



「失礼します」


 レイは扉をノックして学生会室に入った。

 中にはアーサーと(まい)(ぜん)、フィリカがいた。



「あ、レイ君。武技競戦おめでとう! すごい快挙だよ!」


「あ、ありがとうございます! ……そ、それで、解析班の方は……」


 レイは恐る恐る聞いたようであるが、すでにある程度の覚悟はしていた。


「全滅だ。……生存者はいなかったよ。解析途中の魔法陣は持ち去られたし、資料も焼かれてしまっていた」


 躊躇いなくアーサーは無情の声で返答した。その間、絶対にレイの眼から目を離さなかった。


「……そ、そんな…………」



 レイはその場で倒れそうになった。倒れてしまいたかった。


 それはある程度の覚悟をしてきたから踏ん張りが効いたに過ぎない。



 解析班にいた専門家、先生方は全員レイを認めてくれていた人たちだった。年齢差、出自を無視して対等に扱ってくれた人たちだった。短い時間だったが、レイにとって大事な人達であることに変わりはない。



――あの人たちが殺される理由などない。



 レイの手に力が籠もる。この力がどこから来るのかよくは解らなかった。殺害への憤懣か。殺人犯への復讐心か。自分の悲しみを殺すためか。その全てか。



潤女(うるめ)。これが現実だ受け止めろ」


 苒が眼を開きつつ言い放った。


「学生会にいれば『死の目の当たり』からは逃れられねェ。いまの世界は平和と言われてはいるがァ、規模が大きくねェだけでそこら中で殺し合いは起きている」


 レイは歯を食いしばりながら、俯きながら聞いている。



(こいつはダメだ。純粋過ぎる)



「オメェはここにいなければ庇護の対象だ。今日みてェな隠蔽されるような事件からは隔離された場所で生きていける。そしてその権利をオメェは持っている。もし、辞めるなら早えほうがいい。組織が組織だ、今度はこの中の誰かが死ぬかもしれねェ。残るのならば、死を認め、それを過去にする覚悟が必要だァ。できないのならば……」


 しかしレイは言葉を遮る。


「僕はッ! 僕は強くなりたい。強く……。今日みたいな、こんな、こんなことが二度と、起こさないために……。大切な、大事な人を……自分で守れるくらいに!!」


 最後だけ顔を上げて、そう。


 溢れそうな涙を堪えながら、爆発しそうな怒りを抑えながら言い切った。



 しかし、それは苒の質問に対する答えにはなっていない。

 苒がもう一度口を開く前にレイは続きを言った。



「……僕はッ……僕は誰よりも強くなります。たとえ魔法が使えなくても、強くなります。守るために強くなります。これが僕の覚悟です」


 レイの瞳が煌めいた。レイの黒色に近い碧眼が煌めいた。それは魔眼にも劣らぬ迫力があった。

 真正面にいた苒も一瞬、たじろぐほどの。


 苒は空気に電気が走ったような違和感を覚えた。ただそれは彼の気の所為と処理した。



「……つまりお前はここに居続けるんだなァ?」


 レイは無言で強く首肯した。


 苒は暫くレイを睨み続けていたが、ため息を吐いて力を抜いた。



「なら、次の夏季休業期間中に零月の門を叩け」


「え?」


 思わぬ返答にレイは一文字だけの疑問を返してしまった。


「苒。君にしてはいい考えじゃないか!」


 アーサーが楽しげに言った。

 それに対しレイは違和感も嫌悪感も抱かなかった。これはいつかの自分にもやってくる現象なのだろうと。


「お前は黙ってろ」


 おおっと、と言ってアーサーは口に手を当てて一歩下がった。



「夏、俺の家に来いと言ったんだ。お前を鍛えてやる。まあ俺が直々にやるわけじゃねェがな……。はっきり言ってお前は戦うには弱すぎる」



 そう言って苒は身につけいていた烏羽色の羽織を整えてから学生会室を出ていった。


 終始静観していた苒の妹の英は「我関せず」と言わんばかりに寡黙のままであった。逆にフィリカはくすくすととり方次第では嘲りに見える笑い声を漏らしていた。



「レイ君。僕としては君にはここにいてほしいと思っているよ。今日の事件で休みがほしいなら休んでもらってもいいし、苒の言ったとおり、僕らはまた人の死に立ち会う確率は一般学生より高い。だから辞めたかったら……」

「大丈夫です。僕は学生会ですから」


 アーサーは意外そうな顔をした。


「ふふッ。君もだいぶうちに染まってきたね」



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