111.解決まであと少し!!
王宮の転移部屋に戻り騎士団員に促され、王宮内の会議室へと足を運んだ。
今回の件はトレファス王国側からの宣戦布告とかなのか、下手したら戦争に発展する事柄だったと思う。
……だけど、あの様子だとトレファス妹の独断の可能性も高い。
元々今回の訪問もヴィータとの顔合わせも兼ねてた筈だし。
そんな事をツラツラと考えていると会議室の扉の前に到着し中に入るように促された。
レオと共に入室すると中にはお父様とテオ、トレファス兄……ミラン殿下が居た。
「失礼致します」
「掛けてくれ」
テオが着席を促して円卓を囲む椅子にレオと共に座り、話が始まるのを待っているとミラン殿下がおもむろに立ち上がり頭を下げた。
「この度は本当に申し訳ない事をしました。妹マリアの独断だとは言え私自身も魔のモノに精神を乗っ取られるなどというあり得ない失態……恥を晒した上、貴方方そしてマルタン王国に多大な迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ございません」
私とレオは驚きで固まってしまった。王族はそうそう頭を下げる事は無い。だけどミラン殿下は何度も頭を下げて謝罪をしてきた。
「……発言の許可を頂けますか?」
テオが頷いたので私はミラン殿下に向かって問いかけた。
「頭を上げて下さい。……殿下は操られていたのでしょう? 殿下こそ被害者なのではないですか?」
「……そう言って頂けるとありがたいな」
ふとミラン殿下は少しだけ安堵を滲ませた笑みを浮かべた。
私は疑問に思っていた事を聞く事にした。
「私の方から何個か質問をしても宜しいですか?」
テオが視線を移しミラン殿下は頷いた。お父様は静かに見守っている。
「まず……今回の件はマリア王女の独断だとおっしゃいましたがトレファス王国としては関わっていないという事なのでしょうか?」
「誓ってもトレファス王国は関わってはいません」
そうなんだ。良かった……って事は戦争にはならないんだよね?
ホッとするとレオも隣で息を吐いていた。
「……あの魔のモノは?」
「あれは妹が呼び出した魔物。トレファス王城内の自分の部屋で魔法陣を描き呼び出したそうです」
……部屋で呼び出す。そんな事ができちゃうんだ。
「ミラン殿下の記憶はどうなっていらっしゃいますか?」
「……マリアとマルタン王国の第二王子との婚約の話が出始めた頃から少しずつ曖昧になっていて、マルタン王国に渡った記憶は一切ないのでその頃にはもう精神を乗っ取られていたのだろうと……情けない」
ふぅ……と溜息を吐いて視線を下げるミラン殿下はあの魔のモノが内に居た時のような傲慢さや強引さは一切無く、規律正しい王子という印象が強い。
そう思うとあれは本当にミラン殿下ではなかったのだという事がありありと分かった。
「……マリア王女は何の為に? それにあの時仰っていた夢物語とは何なのですか?」
「……少し、長くなりますが良いですか?」
コクリと頷くとお父様とテオを見てからミラン殿下は話し始めた。
「……マリアは5歳の時に高熱を出して寝込んだ事がありました。その高熱から目を覚ましてから少し変わった事を話す様になったのです。それは……夢物語なのか何なのか分からないが妙に具体的で不思議な話でした」
夢物語……
「自分は何故セカンドの登場人物なのか、どうしたらレオに会えるのか、自分の立ち位置は何だったか、セカンドはファーストの後どれくらいの時期だったか等……熱で気が触れたのではないかと皆が不安になる程に不思議な事ばかりを呟いていました」
「──そんな頃からレオの事を知っていたのですか?」
「レオポルト殿はガルシア辺境伯の長子で二属性持ちで魔力量も多い、そして母上の事等も……噂は広がっていました。優秀な人物として王宮では知られていましたし次期辺境伯ですがなんとかしてトレファスに来てもらう事はできないかと考えている者も多かったですから」
確かにレオは昔から優秀だったし他国に名前が轟いていてもおかしくない。だけどトレファス妹はそれとはなんとなく違うような……
それにセカンド? って何かは分からないけど……魔のモノを呼び出してまでマルタンに……レオに会いたかったって事なのかな?
「それ以降マリアは神託が降りたかのように様々な事柄を当てていきました。災害や事故、病気の蔓延、その治療法、王宮内の不祥事……それは多岐に渡っていました」
「……すごい……ですね」
「ええ。だから誰もがマリアの言う事には逆らえなくなっていきました。マリアと第二王子との婚約の打診は父が勝手に決めた事でしたがマリアはレオに会えると喜んでマルタン王国に行くと言っていました。……私はマリアが良いのならばそれでいいと思っていましたが……」
「それって……」
「そうです。マリアはレオポルト殿に会う為だけに第二王子との婚約を押し進めました。第二王子と婚約しなくてもレオに会えばレオは自分の物に出来る……とも言っていました」
「そんな勝手な……」
でも……あの時レオを救ってあげるとか何とか言ってた……な。
「マリアの言う事だからそれは絶対でした。王宮の者たちは誰も逆らえなかったですし、私も……その頃には記憶が曖昧になっていた事もあって気付いたら……こんな事に」
トレファス妹はレオに会う為だけにヴィータの婚約者候補としてマルタン王国にやってきた……。
チラリと横に座っているレオを見ると目が合った。安心させるかのようにそっと手を握ってくれた。
……少し肩の力が抜けた。
「マリア王女の噂は王宮では有名だったな。レオも知っているな?」
テオがレオに問いかけると私の手をキュッと握りレオも話始めた。
「そうですね。トレファス王国の王女は預言者で神託を受ける聖女なのではないか、と聞かされております」
聖女……
「……トレファスでもマリアは聖女の扱いでした。ただ……聖魔法は使えなかったのと精霊王の加護は無かったので……」
「成る程、だからマルタンに嫁いでも問題が無いという事だったのか」
何故問題無いって事になるんだろう?
首を傾げた私にテオは説明をしてくれた。
「リリィ、聖女とは国の宝だ。聖女は精霊王の愛し子であり国に平和と豊穣をもたらす。聖女が従える聖獣と精霊は国に害をなす者を退ける」
「……平和と豊穣」
「そうだ。聖獣と精霊は聖女と共にある。聖女に害なす者は聖獣と精霊に退けられる。聖女が国から出ればその国は聖獣と精霊王の加護を失う。そうなるのが分かっていてどの国も聖女が現れれば手放すなんて事はしないだろう」
「あ! だからトレファス妹……んん、失礼しました。マリア王女がマルタン王国に嫁いでも問題は無いという事なのですね」
「そういう事です。マリアがマルタン王国に嫁ぐ事でトレファスとマルタン王国の間で和平条約が結ばれる。それだけでもトレファスにとってはプラスでした。マリアからの神託は通信魔法で聞けば問題は無い話ですし。なのにこんな事になってしまって……」
ミラン殿下は肩を落としてこめかみに指を押し付けていた。自分の意識を乗っ取られただけでも相当きつかっただろうけど……
「……あの、私は危害を与えられた訳でもないですし、恐れ多くもミラン殿下に謝罪までして頂いて……あの……ええと、マリア王女にはレオを諦めて頂いて……私が言うべきでは無いですがヴィータとの婚約の話も辞退して頂ければそれでいいです……」
あー、自分で言ってて恥ずかしいし勝手な事かも……。でも私的にそこさえクリアになれば後はもう皆さんにお任せしちゃって良いと思うんだ。
どうかな? と思ってレオをチラリと見るとレオは嬉しそうに微笑んでいた。
読んで頂きありがとうございます!!
投稿が止まっていましたので今まで読んでくださっていた方々にはお待たせしてしまってすみませんでした。
また拙作ですが読んで頂けると嬉しいです。
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