文系さんと理系くんのホワイトデー~今日は何の日短編集・3月14日~
今日は何の日短編集
→今日は何の日か調べて、短編小説を書く白兎扇一の企画。同人絵・同人小説大歓迎。
3月14日
→ホワイトデー。アインシュタインの誕生日。円周率の日。
人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である。
─チャップリン/20世紀の映画監督・作家・コメディアン
「今日?アインシュタインの誕生日だろ」
今日、3月14日は何の日でしょう?文系の女子高生 文が幼馴染で理系の男子学生の理に聞いた答えがこれである。文は小さく舌打ちをして、続ける。
「いや、そういうのじゃなくって」
「あぁ、円周率の日か。それでどうした?記念に二人で円周率60桁の暗唱でもするのか?」
「そうでもない!ホワイトデーでしょ!」
「あぁ、そうか。で、どんな日だっけ?」
分からないんかい。文はズッコケそうになる。このご時世にホワイトデー知らない人いるのか……小さなため息をつく。
「バレンタインは女子から男子にチョコあげるでしょ?ホワイトデーはそのお返し。男子から女子にプレゼントをあげるの!ほら、私もチョコあげたでしょ?」
「じゃ、これ。買ったからいつかやろうと思ったけどあげるチャンスなかったから」
理は文の手の上に何かを落とした。文の小さな手に赤い御守りが落ちた。表面には金色の文字で受験祈願と書かれている。
「へー、神様信じるんだ……」
「そうだけどなんで?」
「いや、理系って『科学的なもの以外は信じない』とか言うのかなって」
「いや、理系こそ信じるんだよ。パスカルは熱心なクリスチャンだったし、エジソンも死者との会話できる電話を開発してたし、アインシュタインもタイムマシン作ろうとしてたしな」
「へー、なんでだろうね」
「『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である』。チャップリンの言葉だ。これは人生だけの話じゃなくて科学にも言える」
「どういうこと?」
「俺達理系の人間は科学に長く接している。だから、いや、だからこそ粗が見えてしまうんだ。例えばデータは原因と結果によって作られている。何度も何度も実験してそれを確かめる。例え100回やったとしても、101回目じゃ別の結果が出る可能性があるんじゃないか?俺はそう思うんだ。あの100回の間だけ特別に同じ結果が出たんじゃないか。そう考えてしまう」
「でもそんなこと言ったら科学全部終わりじゃん」
「そう。科学は全部おじゃんだ。俺が思う科学の粗っていうのはそういうところだよ。他にもあるけどね。だけど、俺は近くで実験していてつくづくそう思う。原因とか結果を通り越した科学の域を超えた世界、神とか悪魔とかスピリチュアルとかそういった世界に興味を持つんだろうな。
でもこれは理系から遠ざかっている文系の人間にはなかなか分からない。遠くから見ると、そんな科学も粗がないように見えるから、『遠くから見れば喜劇』だからだ。文系の人間は『科学はすごい』と盛り立てる。スピリチュアルな世界を『科学的でない』と遠ざけようとする。自分たちの信じている科学も幻想かもしれないのに」
「ふーん、なるほど。ともかく理系は意外とロマンチストなのね」
「まぁ、人によるけどな。俺は神様も悪魔も信じてる……キューピッドだって信じてるよ」
窓の外で電車が走った。え、なんて?と文は返した。電車の音で、理の最後の言葉に気付かなかったのだ。もういいよ。理は机から下り、バッグを持って教室から立ち去る。待ってよ!文は追いかけた。
この二人が結ばれるのはまだ少し先の話である。
ご閲覧ありがとうございます。昨日はサボってすみませんでした。一日サボったせいか、今日は話が上手く書けず超短編になってしまいました。本当にすみません。
さて、本編で理が言った「原因と結果に意味はあるのか?」という話。これはヒュームという18世紀の哲学者が語っています。気になった方は是非入門編なり原書なり読んでみてください。
では、また明日。