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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カイロス

作者: 文人

ある夢を見た。暗いところにいた。そこは、海のように深くて宇宙のように広い。そして、何もない。そんなところに1人で佇んでいた。疲れてしまった私は、その場に座り込み畳んだ膝に顔を埋めていた。どれくらい長くここにいるのかは分からなかったけど、けして短くはないということは分かる。私は、もう何十年もそこにいるのかもしれなかった。


時間が経てば経つほど、周りの暗闇はどんどん大きくなっているような気がした。私は、このままこの闇の圧力に押しつぶされ、消えてしまうのだろうか、とそんな風に思ってしまうほどに。

とても不安だった。落ち着きがなくなって、心臓の音が大きくなって行く。だけど、この不安には、防衛本能というか、どこか自動的なところがあった。体が勝手に反応しているだけで、本心とは違うところにある。どこかそんな感じだ。

そして、本心ではもうどうでもいい、このまま消えてしまっても構わないと、そんな欲動が大きくなりつつあるのを感じていた。


それでも私がいまだ消えていないのは、私の奥の方にまだ何かが残っているからだ。それは、何か小さな光のようなもで、消えそうではあるけれど、確かにそこにある。この光のことに気がついたのは、ここへ来てからだった。前までは、もっと当たり前で、もっと大きくて、気がつくことができなかった。だけど、これはずっと前から私の中にある。そして、ずっと前から私というものを支えて来た、そういうもののような気がするのだ。


この光を見ていて、気がついたことがある。この光には、薄い膜がある。その膜は、周りの闇から中身を守っている。潰されないように、染み込んでこないように。その膜はよく見ると、波打つように蠢いていた。蠢きながら、外側へ広がっていくように、少しずつ大きくなっている。周りの闇を取り込みながら。そしてある時、その膜は、一気に爆発するように膨張した。


そうして私は目が覚めた。辺りは薄暗い。眠ったのは昼過ぎだったから、ちょうど夕方ぐらいになっていた。窓の外からは、火照った私の体を冷ますように、心地いい風が吹き込んでくる。ベッドから起き上がり、私はベランダへ出た。日がほとんど沈んでいるせいで、昼間のような鋭い日差しはなく、柔らかな日差しが街を覆っている。空は薄い青色をしている。煙のように薄く広がった雲が、後ろの青空を透かしているのがなんとも美しかった。空を見て、素直に綺麗だと感じたのは久しぶりだ。


何かがいつもと違う。私の中で何かが変わった。何かが生まれた。私は、この何かを生み出すためにあの暗闇にいたのかもしれない。多分きっとそうだ。

そして、私の中でやがて言葉となり願いとなっていく。

お姉ちゃんに会いたい。

今更もう遅いとか、姉妹でそんなの意味ないとかいろんなものが邪魔をして来たけれど、もうそんなものでは抑えられないほど、この欲動は強固なものにとなっていた。


気持ちは今までにないほど真っ直ぐで、そのままだ。ただ会いたい。

そして、私は、ろくに着替えもせずに姉の家へと向かった。

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