第8話:はじめてのおつかい
味噌に塩にと村に必要な日常品を買い求めて終わってから、ようやく領主は町の気がいつもより高揚している事に気付いた。
良く見れば町中は飾り立てられ、着飾った娘や子供達の姿が溢れ、男達も昼間から酒を飲み、陽気に歌ったり踊ったりしている。
「……?」
不思議そうに首を傾げれば、今日は年に一度の大祭だと店の親仁に教えられた。
そう言えばこの時期は村の事で手一杯で、町に下りて来ても周りを見る余裕はなく、必要なものを買い揃えて帰るだけだった。
ふと少年の事が気になり振り返れば、いつの間にか仲良くなった御者と一緒に野菜屋の店主と値切り交渉をしている。
楽しいらしく目は生き生きと輝いており、とうとう野菜屋の店主が半額値引きに応じてしまった。
(だがあの金はそういうつもりで渡したわけでは……)
いつも館に閉じ込めているのが申し訳なく感じ、たまには気晴らしに好きなものを買えばいいと金を渡したつもりだった。
「何か、好きなものを買ったらどうだ?」
「買い物楽しい!」
言うや祭りの喧騒で賑わう広場に、荷物を持った御者を率いて飛び込んで行ってしまった。
さてどうしたものかと悩んでいると、ほどなく顔を上気させた少年が戻ってきた。
先刻確かに御者が持っていた野菜の入った大荷物はなく、変わりに両手に下げられていたのはずしりと重たそうな小袋。
「何をしてきたんだい?」
「半額で買った野菜を広場で元値の2倍の値で売って来た」
エヘンと得意げに笑う少年の後ろで、滅多に喋らない御者が苦笑い混じりに参りましたと呟いた。
「一度やってみたかったんだよね~」
上機嫌で鼻歌を歌う少年に、やれやれと領主はため息を付いた。
「気は済んだかい?」
「うん、帰ろう!」
帰ろう……何気ない一言だが、僅かに胸が温かくなった気がして、領主は優しく微笑んだ。
必要な物は周囲が用意したり、貢がれる物
実は主人公、買い物したことがありません
この世界で金銭感覚というものを養えたらいいけどまぁ無理でしょう