第51話:祝福の日
雪の去った穏やかな春の日。
王都は色とりどりの花に埋もれた。
神より賜った二頭の白銀のユニコーンが引く馬車に乗るのは国王と王妃。
白き魔物の妹、今は春の君と呼ばれる娘が全身全霊をもって作り上げた純白のドレスに身を包み、あの日瞳と共に白銀に染まった髪を結い上げ、深紅の髪飾りで飾り立て、指には国王とお揃いの銀色の指輪。
隣に座る国王も白い衣装に身を包んでいたが、いつも漆黒の衣服を着ていたせいかその衣装を見せられた際に少々頬を引きつられたらしい。
似合う似合わぬと夫婦で言い合い自然と笑い合う二人を、ドレスが仕上がった喜びとともに春の君が目を潤ませて見つめつつ、その様子を絵にして民にばらまき、幸せのお守りとして教会の人気グッズとして定番化された。
協会は神聖なる炎により『浄化』され、新たに配属された大司教は白く美しい兄とふわりと暖かな空気をまとう妹。
王と王妃を守る近衛兵をまとめる隻眼の将軍。
夫婦神と共に後に神話で語り継がれる事になる三賢者。
民にも見えるようにと教会の外で行われた結婚式には、多くの民が集まり二人とこれから始まる新たな歴史を祝福した。
広場には王の友と家族から届けられた料理や酒が並び、二人の愛する民や人に化ける事を覚えた魔物、混血児や傭兵仲間などが肩を並べ、笑顔が王都には溢れた。
さすがにこの日ばかりは烈火の如く激しい気性を抑え、穏やかに微笑む花嫁は誰よりも美しく、パレードを見た民は口を揃えて王国の繁栄を祝った。
パッと見は穏やかな国王陛下ではあったが、見る者が見ればどことなく不機嫌なのが手に取るようにわかるようだった。
いつもなら手を取りここぞとばかりに花嫁を自慢するが如くまとわりつくのに対し、今日と言う祝いの日に腰を抱いて手を握るだけで大人しくしている。
民にとっては吉報。
国王にとっては不満の種。
――王妃は懐妊していた。
あの戦が終わった日、レイアの武勇と前世で友だった者との再会、伴侶が神に昇華し、色々重なった結果、ギルバートの理性が決壊して結婚式を待たずして閨にこもってしまったのだ。
春日による加護によってめでたく懐妊した事により、結婚式後に楽しみしていた夜の楽しみがなくなったのである。
自業自得とも言える展開に誰もかれもが苦笑いしたという。