第45話:一方その頃……
無理矢理連れて来られたのだろうか。
王座に座る王の前には、着飾られた娘が数人立っている。
酷く痩せ細り、健全さには程遠そうだが、どれも年若い娘ばかり。
翁達が娘の名を次々上げるが興味が湧かなかった。
王である父が天に召されたと一報が入り、王子は一国を担う王となった。
王には妃が必要だと、用意されたのが目の前の娘達だが、飢饉と疫病のせいだろう、どの娘達もみな虚ろな目をしている。
ずっと香っている香のせいで頭が思うように働かない。
翁が一人を正室に、他は側室に向かえれば良いと言うのをただ聞いている。
夢現を彷徨いながら、婚儀は明日と決められた。
自分の意志などどこにもない、ただ翁の言葉に従い、頷く事しかできない。
あの紅い男が去ってすぐ、王の訃報が届けられ、動揺している隙に翁達の手によって意志を奪うあの香を吸わされた。
それ以来ずっと人形のように動いている。
与えられた言葉通りに動き、与えられた女を娶って、毎晩は違う女の所へ通うのだろう。
夜は明けぬ。
女も王もそして翁達さえ、闇に閉じ込められた哀れな囚人。
暗鬱とした夜を繰り返しながら、夜眠っている時だけ仄かに己を思い出す。
記憶の底にただ一点、眩く輝く一人の男。
手を伸ばし、掴もうとするが届かない。
底なし沼のような日々を繰り返す中、一つだけ分かっているのは、彼だけが唯一この終わらぬ悪夢を終わらせられるという事。
コトリと音がし、視線を動かせば、また新しい香が追加された所だった。
ひとつ、ふたつ、みっつ、数えながら夜の終わりを待つ。
終わりを望む心を持ち続ける。それだけが王に出来る最後の抵抗。
ふと見上げた空に浮かんでいたのは大きな月。
ああもうじき終わる。
それだけを何故か漠然と確信できた。
春日「あ、やっべ忘れてた……まぁいいか」
刀鬼「俺も忘れてた」




