第44話:誓い
村人たちは困惑していた。
原因は目の前で次々起きた奇跡の連続が原因だった。
一人の娘が殺され、兄が戻り、慟哭が村に響き、闇に堕ちた。
王とその軍に襲い掛かり、命の限り蹂躙し尽くすのだと思っていた、けれどそれを阻止するかのように全身鎧をまとった女神が現れ、白き魔物の怒りも闇も復讐対象すら消し去った。
戦いの隙間を縫って奔った白き魔物により、理不尽な行いをした王は捕らえられ、生きたまま魔物に食われる運命が迫っていた。
それは遅らせたのは幾つ目かの奇跡。
「兄さん!!」
村人の間から飛び出したのは間違いなく白き魔物の妹だった。
「――ああ」
神よ。
小さな呟きだったが声は確かに春日に届き、刀鬼も満足そうに眼を細めた。
しっかりと『両腕』で妹を抱きしめる。
失われた片腕は妹に恩を植え付けたい刀鬼の指示により、本人も気付かぬうちに春日によって再生されていた。
これでギルバートの望みであるドレスも滞りなく作られる。
うんうんと満足そうに頷く刀鬼、満足そうな刀鬼を見て現状に満足する春日、さっさとドレスを作らせたいが空気を多少は読んで大人しく事態を見守るギルバート、馬鹿な連中にうんざりしながら諦めてギルバートの腕の中に納まるレイア。
(馬鹿しかいねぇ)
それでも悲しみはどこかへ行った。
何よりこの腕の中の暖かさに安心を覚えている。
「ギル」
「?」
「この村の人たち混ざってるんだね、あの白い魔物はこの世界が作った新種の魔物らしいよ、敵対するより和解して妹さんごと王都に招待する方が有利っぽい」
「魔物との混血を育てる事に長けた人間達だ、これから時代を生きるには向いてるだろうさ。それでもう一つ提案なんだけど――」
「断る」
「俺まだ何も言ってない」
「アンタと刀鬼は似ている。つまり話を聞くとろくな目に合わない」
身をもって体験したゆえの発言だった。
「悪い話じゃないと思うよ。ただちょっと神様やらないか、ってだけで」
「人間として死にてぇなぁ」
「無理じゃない?」
「無理ですよ?」
遠い目をしたレイアの言葉を刀鬼とギルバートが同時に否定した。
「俺の祝福受けた時点で多分人間の枠からはみでた。ごめん」
「魔物の王として受け入れられた私と婚姻が成立しているので、貴女はもう人間ではなく魔物の王妃ですよ」
知らないところで人外になっていた事実に頭を抱えたくなった。
実際は抱きこまれて腕の一本も動かせないが。
「すっごいちょうど良いんだって、この世界管理者がいないから今ならやりたい放題」
「もし居たら?」
「交代させた」
「……」
管理者=神として
(役割を交代させる発言……こいつら何者だよ、今更過ぎるけど)
心底関わりたくないと思うが、逃げも隠れも出来そうにない。
「なぁにちょっと不老になって長々と夫婦で国を治めるだけだって、俺の力の影響で寿命はないようなもんだからほぼ不老不死だけど」
「つまり永遠にレイアと愛し合える……!?」
「そうそう、俺の加護があるから子孫作り辛い弱点克服、子供作り放題」
神の啓示にギルバートが春日に手を伸ばす、叩き落そうとしたが片腕になっても動けなかった。
「承りました」
「よし、刀鬼、これで吸血鬼増えるぞー」
「本当!? やった!」
「一人ぐらい部下になってくれるといいな」
「勧誘頑張るよ」
その瞬間、レイアは誓った。
この馬鹿どもの作る運命から逃れられないならばせめて、子供達には美形には関わるなと教え込もうと。
部下に誘う美形が近付いたら殴れと家訓にし、永久に続くだろう一族の掟としよう。
全ては子孫を胃痛から守るために。
王様はスタッフ(魔物の群れ)が美味しくいただきました。




