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第4話:……何事?


 村の空気にも慣れた幾度目かの夜。


 ここ数日騒がしいとは思ってはいたが、今日はなんだか朝から賑やかだ。

 微かに届く音楽は明るいもので、歌声も時折聞こえてくる。


(祭り?)


 だるい身体と重い瞼を持ち上げ、外の様子を見ようとベッドから降りたが、酷い眩暈に襲われてそのまま床に座り込んでしまった。

 村に来て随分経つが、動けたのは初日だけ、後はずっとベッドの上か床の上だ。


 行き場の無いエネルギーが身体の中で渦巻き、暴れ続けている。

 状態の酷さを緩和するため、内に宿している精霊にはエネルギーの消費に全力を注いでもらい、守護の龍は暴走しないように厳重に封印を施した。

 何もかもがいつもと違う状況下、身を守る為に力の一つも使えない現状において、何も詮索せずに館に置いてくれている領主には感謝してもしきれない。


 ふと目を開けると視線の先に見慣れた靴先があった。


「また床で寝ているのか」


 溜息混じりに見下ろしながら領主が溜息を付く。


「ほら」


 両脇に手を差し込み、身体を持ち上げベッドの上に座らせた。

 ここ数日ですっかり慣れてしまった動作の一つである。


「少し汗をかいたな」


 服を脱がせてゆく領主の仕草をボゥッと眺める。


「外が……」

「騒がしいか? 今日だけは我慢してくれ、年に1度の祭りなんだ」


 柔らかい布で身体を拭きながら答えたその表情はとても穏やかで、彼もまたこの祭りを楽しみにしている一人なのだと分かった。


「祭り?」

「収穫の感謝と来年の豊作祈願を精霊に奉納する祭りだ」


 聞けばこの村には神はおらず、代わりに精霊を信仰しているらしい。


(だから陥没の例えもすんなり通ったのか)


 確かにこの村は精霊の気配が他より強く、そのお陰で必要最小限の摂取だけで済んでいる。

 精霊信仰と領主への絶対的信頼、二つの要素が陥没を埋めたのは大地の精霊だという説を通させたのだろう。

 精霊が自主的に助けたか、やってもらったかの差はあるがまぁ間違ってはいない。


「りょーしゅさまーーー!」


 突然外から聞こえて来たのは複数の子供の声。


「ああ来たか」

「?」

「これも祭りの楽しみの一つでね、ここにいなさい、床で寝てはいけないよ」

「……」


 領主が部屋から去ると、こりもせずベッドから降りて窓際へと向かう。

 彼と接した後はなぜかいつも気分が良いのだ。


(それにしても気付いているのか、天然か)


 振り返って部屋を見渡せば、明かり一つ無く闇に包まれている。

 いくら月明かりがあるからと言って、闇の中で戸惑いもせずに服のボタンを外し、身体を拭いてまたボタンをかけるなど、普通の人間には到底無理だ。


 こちらの正体には疑惑を抱いてはいるだろうが、自分の正体をバラすような行動が無意識なのか、それともバレてもいいと思っているのか、判断し辛いところである。


(警戒心が薄れてきてるよ、領主様)


 例え相手が子供であろうとも、もう少し用心してもいいと思う。

 椅子を窓の下に移動させて外を見ると、玄関先に大勢の子供達が集っていた。

 皆それぞれ違う衣装を着ている。


(あれ……何だっけ、地球にも似たような祭りがあるな)


 魔物や幽霊の衣装をまとい、各家を回ってお菓子をねだるあれだ。


「りょうしゅさま、こんばんわ!」

「はいこんばんわ」


 にーっと笑った子供達が領主に向かって一斉に手を出した。


「りょうしゅさま、とりっくおあとりーと!」

「……ああやっぱりね」


 お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ、地球でもかなり有名な季節の行事の一つ。


(甘い匂いがすると思ったよ)


 子供達に配っている菓子、あれは恐らく領主の手作り。

 村の行事の為に昼夜問わず働いて、祭り当日は子供達のために菓子を手作りする。


(人気あるわけだわ)


 まさに老若男女問わず、彼が村人らにとってどれほど良い領主か分かるというものだ。




 やがて戻ってきた領主が窓際に座る少年を見て苦笑いを浮かべた。

 かごに残っているお菓子を差し出されるより先に口を開く。


「Trick or Treat?」


 にっと笑いながら手を差し出せば、少し驚いた後、掌に器用にラッピングされた小袋が乗せられた。

 中に入っていた手作りクッキーは、父が作るものと少し味が似ていた。

ちょっぴりホームシック

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