第39話:間違えた
あの馬鹿の言った通りだった。
攻撃力を全て防御に回したおかげで『長く遊べる』。
今更気付いたけど動体視力も格段に上がってたみたいだな。
近衛兵の動きが手に取るようにわかる。
なんだこれ、楽しい。
右から斬りかかってきた相手を回し蹴りで沈め、奪い取った剣を投げてその背後の連中を数人まとめて屠る。
これ、傭兵時代に出来てたらもっと稼げたんだろうな。
近衛兵が金に見えてきた。懸賞金、出るわけねぇか。
いや待て。
今からでも遅くないんじゃないか?
なんかちょっと荒稼ぎしに行きたくなってきた。
言い訳とかどうしよう。
まず吸血鬼と人間で種族が違う、貴族階級の領主と市民権すらない傭兵で身分が違うどころか、私に至っては身分すらないに等しい、片や百歳以上に対し私はまだ20と少し、年齢だけ見たら犯罪臭するわ。
………………あれ?
普通に考えてこの組み合わせおかしいよな?
何で身分差で引っかかってないんだ?
私は……親殺しだ。
あんな顔も心も綺麗な奴と釣り合うはずがないのに、なんで――。
なんで隣に立ちたいと、立てると思っていたんだろう。
「私が貴女を選んだ。それが全てですよ」
昨日一日で馴染んでしまった優しい声。
やばいな、幻聴か。
「もう戦いは終わりですよ、愛しい人」
腕を取られトマホークが手から抜き取られる。
視線を周囲に巡らせれば、まさに地獄絵図。
遠くで白いのがひと際偉そうなおっさんを締め上げている。
一部を除いて人の形を残していないそれを、刀鬼が呼び寄せた魔物に食べて始末するように言っているっぽい、うん、死体は放置しとくと疫病の元になるからな。
視線をゆるりといまだ腕を掴んでいる方へと向ければ、そこには今の今まで考えていた相手が立ってた。
やっぱ綺麗な顔だわ。
これが私のとか信じらねぇなぁ。
輪郭をなぞるように指を伸ばしたけど、視界に映る防具が邪魔で鎧を解除し、いつもの最小限装備に戻す。
ああこれで素肌を触れる。
うっとりと私だけを見つめる翡翠の瞳が鮮やかな紅へと変化する。
眼の形も完璧だよな。
唇の形まで綺麗だし。
ちろりと見える舌が色っぽいのなん、の、って……。
んんんん?
ほ・ん・も・の・だった!
ヤバい、背中を冷たい汗が流れてる。
私今なにをやった。
何を考えてた。
ギルも指をかじるな。
甘噛みとかくすぐったい。
背後から生暖かい視線感じるんだけど!
あ、やめろ、舐めるな!
公衆の面前なんだよ! 死体の数の方が多いけど!
酒を飲みたい。
そうすれば顔が赤いのも酒のせいに出来る。
嬉しそうに鼻を摺り寄せるな。
首筋を舐めるな。
お腹が空いた?
おかしいよな、確か今朝とか了承無く飲んだよな。
少しずつしか摂ってないないからすぐお腹が空く、と。
わざとだよな。
絶対それわざとだよな。
腰を撫でる手つきがエロいのは気のせいだ。
気のせいにしなきゃやってられん。
「早く一晩中愛し合いた――」
ッゴ
「あ、つい」
いつもの調子で殴ったらギルが地面に沈んで動かない。
……逃げて、いいかな?